社会保険料の滞納
- 社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料)は税金とは別の制度だが、納付できないまま放置すると督促状→財産調査→差押えという流れに進む点は税金と同じ構造を持つ
- 督促状の指定期限は「督促状を発する日から10日以上経過した日」と厚生年金保険法86条4項に定められており、その期限を過ぎると法律上いつでも差押えに進める段階になる
- 事業の継続を困難にするおそれがある場合、納期限から6か月以内に「換価の猶予」を申請すれば分割納付が認められ、延滞金の一部も免除される
この記事の内容
この記事は、厚生年金保険料・健康保険料の納付が資金繰りの都合で追いつかず、このまま放置したらどうなるのか不安な事業主に向けて書いています。 結論から言うと、社会保険料は税金とは別の制度ですが、「督促状の指定期限を過ぎると、法律上はいつでも財産の差押えに進める段階になる」という構造は税金の滞納と同じです。一方で、事業の継続が困難になるおそれがある場合は「換価の猶予」という分割納付の制度が用意されています。放置せず、早い段階で年金事務所に連絡することが、選べる手段を残す唯一の動き方です。
- 社会保険料の納付書が来ているが、資金繰りが厳しくて払えない
- 放置したらどれくらいで差押えが来るのか分からず不安
- 税金の猶予制度のような仕組みが社会保険料にもあるのか知りたい
結論:督促状の指定期限を過ぎると差押えに進める段階になる
厚生年金保険料・健康保険料を納期限までに納められないと、日本年金機構(年金事務所)から督促状が送付されます。この督促状には「指定期限」が定められており、厚生年金保険法86条4項では督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日を指定期限にしなければならないと定められています(厚生年金保険法86条4項、日本法令外国語訳データベースシステム掲載の条文原文、2026年9月1日確認)。この指定期限を過ぎてもなお納付がない場合、日本年金機構は国税滞納処分の例によって財産の差押えに進むことができます(厚生年金保険法86条5項、同89条、同上で条文原文確認)。「督促状が来た=すぐ差押え」ではありませんが、「指定期限を過ぎた=いつ差押えに進んでもおかしくない段階に入った」ということです。
まず、社会保険料が払えないこと自体は責められることではない
「従業員の分まで預かっているお金なのに」と自分を責める必要はありません。社会保険料は、給与から天引きした従業員負担分と、会社が上乗せする事業主負担分がほぼ同額で合算されるため、他の支払いより金額が大きくなりやすい構造になっています。 売上の入金と保険料の納付期限がずれるだけで、資金繰りが一時的に苦しくなる場面は、事業をしていれば誰にでも起こり得ます。
心身に不調が出るほど追い詰められている場合は、この記事の情報より先に、医師や産業医への相談を優先してください。ここから先は、滞納から差押えまでの流れと、使える制度の整理です。
社会保険料は税金と何が違うか
社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料)は、税金とは根拠法も徴収機関も異なる別の制度です。税金の滞納については、別記事「税金を滞納しそうなとき|猶予制度と分納の相談先」で扱っており、国税通則法・国税徴収法に基づく「納税の猶予」「換価の猶予」という仕組みがあります。
社会保険料の場合、厚生年金保険法89条が「保険料その他この法律の規定による徴収金は、この法律に別段の規定があるものを除き、国税徴収の例により徴収する」と定めており(厚生年金保険法89条、日本法令外国語訳データベースシステム掲載の条文原文、2026年9月1日確認)、滞納処分の手続き自体は国税と同じ枠組みが準用されるという点で、税金の滞納と似た構造を持ちます。健康保険料についても、健康保険法に同様の督促・延滞金の規定があります(健康保険法180条=督促及び滞納処分、181条=延滞金、日本法令外国語訳データベースシステムで条番号・見出しを確認、2026年9月1日確認)。
なお、この記事で扱うのは事業所が納める厚生年金保険料・健康保険料です。個人が納める国民年金保険料・国民健康保険料は徴収機関や手続きの細部が異なるため、この記事の対象外とします。
何もせず滞納すると何が起きるか(時系列)
連絡せずに納期限を過ぎると、次の流れで段階が進みます。
- 納付督励:納期限を過ぎると、まず電話・文書・事業所訪問などによる納付督励が行われます(日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」、2026年9月1日確認)。
- 督促状の送付:納付督励でも完納しない場合、督促状が送付されます。日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」を確認しましたが、督促状発送までの具体的な日数(納期限から何日後か)についての記載は見当たりませんでした(一次情報は確認できず)。
- 督促状の指定期限:督促状を発する日から10日以上を経過した日が指定期限になります(厚生年金保険法86条4項)。
- 財産調査:指定期限までに完納しない場合、取引先金融機関への預金残高の照会や、取引先企業への売掛金等の債権調査が行われます(日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」、2026年9月1日確認)。
- 差押え・換価:財産調査の結果に応じ、不動産・預金・売掛金債権等について差押えが行われます(同上)。
この間、分割納付による完納が認められれば、指定期限を過ぎても滞納処分自体は猶予される場合があります(ただし延滞金は発生します)(日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」、2026年9月1日確認)。連絡せず放置することが、最も選択肢を狭める行動です。
差押えまでの流れ(表)
| 段階 | 内容 | 根拠・出典 |
|---|---|---|
| ①納期限 | 保険料の納付期限は納付対象月の翌月末日(例:4月分は5月末日) | 日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」、2026年9月1日確認 |
| ②納付督励 | 電話・文書・事業所訪問での督励 | 日本年金機構「取り組み(保険料徴収)」 |
| ③督促状送付 | 発送タイミングの具体的日数は公式資料に記載なし(一次情報は確認できず) | 同上 |
| ④指定期限 | 督促状を発する日から10日以上経過した日 | 厚生年金保険法86条4項(日本法令外国語訳データベースシステム) |
| ⑤滞納処分 | 指定期限までに完納なしで滞納処分に移行 | 厚生年金保険法86条5項・89条 |
| ⑥財産調査 | 取引先金融機関・取引先企業への照会 | 日本年金機構「取り組み(保険料徴収)」 |
| ⑦差押え・換価 | 不動産・預金・売掛金債権等 | 同上 |
※2026年9月1日時点で確認できた公式資料に基づく整理です。日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」には、②〜⑦の各段階の間隔(何日で次の段階に進むか)についての一律の日数の記載はありません(一次情報は確認できず)。
延滞金はいくらか
延滞金は、督促状の指定期限までに納付がなく、指定期限より後に納付された場合にかかります(日本年金機構「延滞金について」、2026年9月1日確認)。令和8年(2026年)の割合は、健康保険法181条1項が定める延滞税特例基準割合に基づき、納付期限の翌日から3か月以内は年2.8%、3か月経過後は年9.1%です(関東信越厚生局公式サイト、2026年9月1日確認)。これは税金の延滞税(令和8年分:2か月経過まで年2.8%、以降年9.1%)とほぼ同水準です(前掲・税金滞納記事で確認済み)。
計算式は「納付すべき保険料額(1,000円未満の端数は切り捨て)×延滞金の割合×日数÷365」で、計算結果の100円未満は切り捨てられます(日本年金機構「延滞金について」、2026年9月1日確認)。
分割納付につながる「換価の猶予」「納付の猶予」
社会保険料にも、税金の猶予制度に相当する仕組みがあります。ただし、税金の「納税の猶予」「換価の猶予」とは根拠条文も申請先も別の制度です。
- 換価の猶予:保険料を一時に納付することで事業の継続等を困難にするおそれがある場合、分割納付が認められる制度です。納期限から6か月以内に、管轄の年金事務所に「換価の猶予申請書」を提出する必要があります。認められると1年以内の期間に限り差押え・換価(売却)が猶予され、猶予期間中の延滞金の一部が免除されます(日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予制度の概要」、2026年9月1日確認)。
- 納付の猶予:①財産についての災害・盗難、②事業主(個人事業主に限る)またはその生計を一にする親族の病気・負傷、③事業の廃止・休止、④事業についての著しい損失(申請前1年間に前年利益の2分の1を超える赤字を生じた場合)、⑤各種届出の遅延による過去分保険料の発生、のいずれかに該当し一時に納付することが困難なとき、管轄の年金事務所を経由して地方厚生(支)局長へ申請する制度です。1年の範囲内で猶予が認められ、やむを得ない理由があれば延長により当初の猶予期間とあわせて最長2年間まで認められます。猶予期間中の延滞金は全部または一部が免除されます(日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予制度の概要」、2026年9月1日確認)。
どちらの制度も、申請には期限があります。 「そのうち払える」と先延ばしにするより、資金繰りが厳しいと分かった時点で年金事務所に相談したほうが、選べる制度の幅が広がります。
差押えの対象になる財産
財産調査で確認された財産のうち、次のようなものが差押えの対象になり得ます(日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」に基づく整理、2026年9月1日確認)。
- 事業用の預金口座
- 取引先に対する売掛金等の債権
- 不動産(事業所の土地・建物など)
売掛金債権が差し押さえられると、取引先から日本年金機構へ直接支払われる形になり、取引先に滞納の事実が伝わってしまう点は、資金繰りへの影響として特に大きいと言えます。差押えに進む前の段階(換価の猶予・納付の猶予)で相談することの実務的な意味は、この点にもあります。
実体験:管理部門を統括する立場から見た社会保険料の重さ
正直に書きます。私自身が事業主として社会保険料を滞納した経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は「滞納した側」ではなく「毎月の納付額を見ていた側」として見てきた事実に基づいて書いています。
社会保険料は、給与から天引きした従業員負担分と会社負担分がほぼ同額で合算されるため、他の固定費より一段大きい金額でまとめて出ていく支払いでした。売上が伸びている時期でも、入金と納付のタイミングが噛み合わないだけで資金繰りが薄くなる場面があり、「利益が出ているのに現金が足りない」という状態は、社会保険料のようなタイミングが固定された支払いで起きやすいというのが、管理部門側から見ていた実感です。
こういう対応はしない
- 納付督励の電話・文書を無視する:督促状の指定期限が過ぎると、法律上はいつでも差押えに進める段階になります
- 「そのうち払える」で猶予の申請をしない:換価の猶予は納期限から6か月以内という期限があります。期限を過ぎると使える制度が狭くなります
- 売掛先に知られたくないからと相談を避ける:相談せず放置した結果、売掛金債権が差し押さえられれば、結局取引先に事実が伝わります。相談の段階で止めるほうが影響は小さく済みます
次にやること
まず、納付できていない社会保険料の金額と納期限を1行で書き出し、管轄の年金事務所に電話してください。 「換価の猶予の相談をしたい」と伝えるだけで、必要な書類と申請の流れを教えてもらえます。換価の猶予には納期限から6か月以内という申請期限があるため、迷っている時間が長いほど選べる制度が狭くなります。督促状がすでに届いている場合は、指定期限までの日数を確認し、期限内に連絡することを最優先にしてください。
※本記事は2026年9月1日時点の調査に基づく情報整理です。督促状発送のタイミング(納期限から具体的に何日後か)は、日本年金機構の公式資料を確認した上で記載が見当たらなかったため(一次情報は確認できず)としています。厚生年金保険法86条・89条の条文原文は、法務省が運営する「日本法令外国語訳データベースシステム」掲載の条文で確認済みです。個別の納付相談は、管轄の年金事務所に事前にご確認ください。
出典 - 日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/nofu.html(2026年9月1日確認) - 日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/info/torikumi/20120820.html(2026年9月1日確認) - 日本年金機構「延滞金について」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20141219-02.html(2026年9月1日確認) - 関東信越厚生局「延滞金について」 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/hoken/entai.html(2026年9月1日確認) - 日本年金機構「保険料を払う/保険料の猶予を受ける」 https://www.nenkin.go.jp/service/mokutekibetsu/jigyosho/hokenryo/index.html(2026年9月1日確認) - 日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予制度の概要」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/kankayuyo.files/gaiyo.pdf(2026年9月1日確認) - 厚生年金保険法86条・89条 条文原文(日本法令外国語訳データベースシステム、法務省、https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3554、2026年9月1日確認) - 健康保険法180条・181条 条文原文(日本法令外国語訳データベースシステム、https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3266、2026年9月1日確認)