資金繰り表の作り方
- 資金繰り表は利益ではなく現金の動きを見るための表で、黒字でも現金が尽きれば資金繰りは詰まる
- 大企業向けフォーマットは科目が細かすぎて一人社長には続かないため、「収入合計・支出合計・残高」の3列に絞ることで挫折を防げる
- 作る手順は①現時点の現金残高を確認②向こう3ヶ月の入金予定を洗い出す③支出予定を洗い出す④月末残高を計算して翌月へ繰り越す、の4ステップ
- マイナスに転じる月が見えたら、その月が来る前に手を打てることが最大の効用
この記事の内容
この記事は、資金繰り表を作ったことがない、または途中で挫折した一人社長・個人事業主に向けて書いています。 結論から言うと、一人社長の資金繰り表は「収入合計・支出合計・残高」の3列で足ります。会計ソフトや教科書に出てくるような、勘定科目ごとに何十行も並ぶ資金繰り表は、経理担当者がいる規模の会社向けの作りであって、一人で全部を回している段階では続きません。この記事では、続けられる最小限の資金繰り表の作り方を、具体例つきで整理します。
- 「資金繰り表を作った方がいい」とは聞くが、何から手をつければいいか分からない
- 一度エクセルのテンプレートをダウンロードしたが、項目が多すぎて挫折した
- 通帳の残高を見て一喜一憂するだけで、来月・再来月の見通しが立っていない
結論:「収入・支出・残高」の3列で足りる
資金繰り表というと、営業収入・仕入・外注費・人件費・家賃・借入金返済・税金といった項目が縦にずらりと並ぶフォーマットを思い浮かべる人が多いはずです。それは複数の部署から数字を集める前提で作られた、規模の大きい会社向けの作りです。
一人で経理も営業も現場も回している場合、必要なのは項目の細かさではなく「来月・再来月に現金がいくら残るか」が一目で分かることです。そのために必要な列は次の3つだけです。
- 収入合計:その月に入ってくる現金の合計
- 支出合計:その月に出ていく現金の合計
- 残高:前月末の残高に収入を足し、支出を引いた、その月末の現金残高
科目を分けたくなったとしても、まずはこの3列で3ヶ月分を埋めきることを優先してください。細かく分けて挫折するより、粗くても続く方が資金繰り管理としては機能します。
まず、資金繰り表がなくても事業は回ってきたという事実
「資金繰り表を作っていない自分は経営者として甘い」と感じる必要はありません。売上と支払いのタイミングが単純なうちは、通帳残高を見ているだけでも事業は回ります。 資金繰り表が必要になるのは、入金と支払いのタイミングがずれ始めて、頭の中だけでは管理しきれなくなったときです。それは事業が一段階進んだ証拠でもあります。
心身に不調が出るほど資金繰りに追い詰められている場合は、この記事の情報より先に、医師や産業医への相談を優先してください。ここから先は、表を作るという手段の整理です。
資金繰り表と損益計算書は何が違うのか
資金繰り表と混同されやすいのが、決算や確定申告で作る損益計算書(利益の表)です。この2つは見ている対象がまったく違います。
- 損益計算書が見るもの:売上から経費を引いた「利益」。請求した時点・請求書を受け取った時点で計上され、実際の入出金のタイミングとは一致しないことが多い
- 資金繰り表が見るもの:実際に口座に入ってくる・出ていく「現金」。利益が出ていても、入金が翌月・翌々月であれば、その間の現金は手元にない
利益が出ているのに手元の現金が尽きて支払いができなくなる状態は、一般に「黒字倒産」と呼ばれます。東京商工リサーチ・帝国データバンクの倒産統計を確認しましたが、「黒字倒産」という区分そのものの発生件数・発生率を公表した一次資料は見当たりませんでした。近い指標として、東京商工リサーチ「2024年『倒産企業の財務データ分析』調査」(2025年3月公表、倒産企業735社が対象)では、倒産企業のうち直近決算が最終赤字だった企業の割合は66.2%と公表されています。裏を返せば、残り3割強は決算上は黒字のまま倒産に至っており、黒字だからといって倒産と無縁ではないことが読み取れます(出典)。資金繰り表は、この利益と現金のタイムラグを可視化するための表であり、確定申告用の帳簿とは別に作る必要があります。
比較表:大企業向けフォーマットと一人社長向け3列フォーマット
| 項目 | 大企業向け(経理部門がある前提) | 一人社長向け(3列フォーマット) |
|---|---|---|
| 列の数 | 収入・支出それぞれ10〜20科目に分割 | 収入合計・支出合計・残高の3列 |
| 更新の頻度 | 部署ごとに日次〜週次で数字を集約 | 月1回、自分で数字を入れるだけ |
| 必要なスキル | 会計・財務の専門知識 | 通帳・請求書・支払予定を見る習慣 |
| 挫折しやすさ | 項目が多く、担当者不在だと止まりやすい | 3列なので1人でも継続しやすい |
| 向いている段階 | 経理担当者・複数部署がいる規模 | 一人社長・個人事業主・小規模事業者 |
科目を細分化した資金繰り表は、あとで銀行に融資を申し込む際や、事業が拡大して経理担当者を採用したタイミングで必要になります。それまでは3列フォーマットで十分です。
作り方:4つの手順
- 現時点の現金残高を確認する:事業用の預金口座と、事業用に使っている現金の合計を確認します。プライベート用の口座と混ざっている場合は、この機会に分けることを勧めます。
- 向こう3ヶ月の入金予定を洗い出す:確定している請求書の入金予定日、継続契約の入金見込み、まだ確定していないが見込める売上を分けて書き出します。不確実なものは、控えめな金額で見積もっておきます。
- 向こう3ヶ月の支出予定を洗い出す:家賃・外注費・仕入・人件費・借入金の返済・税金の支払いなど、金額と支払日が分かっているものから埋めます。年払いの保険料や、消費税の中間申告(前年の確定消費税額に応じて年1回・3回・11回に分かれる。国税庁No.6609)・所得税の予定納税(7月と11月の年2回。国税庁No.2040)のように「たまにしか来ないが金額が大きい」支出を見落とさないことが重要です。
- 月末残高を計算し、翌月に繰り越す:「前月末残高+当月収入合計-当月支出合計」で当月末の残高を出し、それを翌月の「前月末残高」として使います。これを3ヶ月分つなげると、残高がどう推移するかが線として見えてきます。
具体例:3ヶ月分の資金繰り表
数字を入れた例で見た方が分かりやすいため、架空の一人社長のケースで示します(金額はすべて仮の例です)。
| 9月 | 10月 | 11月 | |
|---|---|---|---|
| 前月末残高 | 800,000円 | 950,000円 | 600,000円 |
| 収入合計 | 1,200,000円 | 900,000円 | 1,500,000円 |
| 支出合計 | 1,050,000円 | 1,250,000円 | 1,100,000円 |
| 当月末残高 | 950,000円 | 600,000円 | 1,000,000円 |
この例では、10月に大きな支出(たとえば消費税の中間納付や年払いの保険料)が重なり、残高が600,000円まで落ち込むことが事前に見えます。表がなければ、10月になってから「今月は厳しい」と気づいていたはずですが、9月の時点で分かっていれば、入金を早める交渉や、支払いを分割してもらう相談を、余裕を持って進められます。
マイナスの月が見えたときにやること
3ヶ月分を埋めた結果、いずれかの月の残高がマイナス、またはマイナスに近い水準になることが見えたら、その月が来てから動くのではなく、見えた時点で動き始めることが資金繰り表を作る一番の目的です。
- 入金を早めてもらえないか、取引先に相談する
- 支払いを待ってもらえないか、仕入先や外注先に相談する
- 銀行融資やファクタリングなど、外部からの資金調達を検討する
- 不要な支出を削れないか、支出項目を見直す
どの手段を選ぶにしても、マイナスになる月の何週間前に動き出せるかで、選べる選択肢の数が変わります。支払いを待ってもらう交渉の進め方は別記事(支払いを待ってもらう交渉の仕方)で、月末の支払いが足りないときの当日の動き方は(月末の支払いが足りないとき、今日からできる順番)で整理しています。
実体験:管理部門を統括した立場から見た資金繰り表の使い方
正直に書きます。私自身が一人社長として自分の会社の資金繰り表を作った経験はまだありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は自分で表を作った側ではなく、経理担当者が作成した資金繰り表を毎月確認し、資金繰りの見通しについて経営判断に使っていた側の経験に基づいています。
その立場で強く感じていたのは、資金繰り表は「細かさ」よりも「更新され続けているかどうか」の方が価値を持つということです。項目を細かく分けた立派な表でも、更新が止まっていれば意味がありません。逆に、収入・支出・残高だけの粗い表でも、毎月きちんと数字が入っていれば、資金が尽きる前に手を打つための十分な材料になります。作り込みに時間をかけて挫折するより、まず3列で回し続けることを優先してほしいと考えています。
次にやること
まず、手元のスプレッドシートかノートに「前月末残高・収入合計・支出合計・当月末残高」の4行(列でも構いません)だけを作り、今月と来月、再来月の3ヶ月分の数字を埋めてください。 完璧な数字でなくて構いません。埋めてみて残高がマイナスに近づく月が見えたら、その時点で早めに動き出すことが、この表を作る一番の目的です。
※本記事は2026年8月時点の一般的な整理に基づく情報です。個別の資金繰りの判断については、顧問税理士など専門家にご相談ください。
出典 - 中小企業庁「中小企業の会計 ツール集(平成21年度指針改正対応版)」内、資金繰り表の様式例(出典、2026年8月時点で確認) - 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード(中小企業の方)」内、資金繰り表(簡易版・詳細版)(出典、2026年8月時点で確認) - 東京商工リサーチ「2024年『倒産企業の財務データ分析』調査」(出典、2025年3月公表) - 国税庁 No.6609「中間申告の方法」(出典) - 国税庁 No.2040「予定納税」(出典)