小さな会社の資金繰りガイド 苦しくなる前の備えから、危機のときの順番まで
ホーム › 支払督促という手段

支払督促という手段

この記事の結論
  • 支払督促は金額の上限がなく、裁判所書記官が債務者を審尋せずに発する書面手続きで出廷は不要(民事訴訟法382条・384条)
  • 申立先は少額訴訟と逆で「債務者」の住所地を管轄する簡易裁判所(同383条1項)
  • 送達から2週間異議がなければ仮執行宣言の申立てができ、そこからさらに2週間異議がなければ確定判決と同じ効力を持つ(同388条・393条・396条)
  • 一方で債務者が理由を示さず督促異議を申し立てるだけで通常訴訟に移行してしまう(同395条)
  • 手数料は通常訴訟の半額(民事訴訟費用等に関する法律・別表第一)
この記事の内容
  1. 結論:出廷せず・安く督促できる代わりに、異議一つで効力を失う
  2. まず、この請求が支払督促に向くか整理する
  3. 支払督促とは何か|要件と申立先
  4. 少額訴訟・通常訴訟との違い
  5. 申立てから「確定判決と同じ効力」までの流れ
  6. 必要な書類と費用
  7. 督促異議が出たらどうなるか|通常訴訟への移行
  8. 支払督促が向かないケース
  9. 実体験:「異議一本で振り出しに戻る」怖さを見てきた
  10. 次にやること

この記事は、取引先からの支払いが止まり、出廷せずに裁判所から督促だけしてほしい小規模事業者・一人社長に向けて書いています。 結論から言うと、支払督促は金額の上限がなく出廷も不要な簡易な手続きですが、相手が理由を示さず異議を申し立てるだけで通常訴訟に切り替わってしまう弱点があります。この記事では、要件、少額訴訟・通常訴訟との違い、申立てから確定までの流れ、必要書類と費用、異議が出た場合の展開までを順番に説明します。

こんな状態ではありませんか
  • 内容証明を送っても応答がなく、次の一手として「裁判所から言ってもらう」方法を探している
  • 出廷や訴訟までは気が重いが、督促の効力は持たせたい
  • 支払督促と少額訴訟のどちらを使えばいいのか分からない

結論:出廷せず・安く督促できる代わりに、異議一つで効力を失う

支払督促は、金銭の支払いを求める請求について、簡易裁判所の裁判所書記官が債務者(取引先)を審尋せずに発する督促です(民事訴訟法382条・386条1項)。少額訴訟と違って請求金額に上限がなく、原則として出廷も不要です。手数料も通常訴訟の半額で済みます(民事訴訟費用等に関する法律・別表第一・第10項)。

ただし弱点があります。債務者は理由を示さなくても、送達から2週間以内に督促異議を申し立てるだけで、手続きは通常訴訟に切り替わります(民事訴訟法390条・393条・395条)。相手が明確に争ってくることが予想される案件では、この切り替わりを見込んで動く必要があります。

まず、この請求が支払督促に向くか整理する

ここが要点

督促してもよいのだろうかとためらう必要はありません。支払期日を過ぎても払われていないのであれば、裁判所を通じて支払いを求めるのは、契約どおりの対価を受け取るための正当な手続きです。 出廷や弁護士への依頼を身構えて動けずにいるより、まず書面で仕組みを知っておくほうが、次の一手を選びやすくなります。

資金繰りが厳しく心身に不調が出ている場合は、この記事の情報より先に、医師や産業医への相談を優先してください。ここから先は、制度の要件と実務の流れを見ていきます。

支払督促とは何か|要件と申立先

支払督促は、金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的とする請求について、債権者の申立てにより裁判所書記官が発する督促です(民事訴訟法382条)。少額訴訟と異なり請求金額の上限はなく、審理は書面のみで進み、裁判所は債務者を審尋しません(同386条1項)。つまり相手の言い分を聞かずに、まず督促状だけが送達される仕組みです。

申立先には注意が必要です。支払督促の申立ては、債務者(取引先)の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して行います(同383条1項)。少額訴訟が原則として原告(自社)の住所地の裁判所にも起こせるのとは逆で、支払督促では相手の所在地の裁判所が窓口になります。取引先が遠方にある場合、督促自体は出廷不要で進められますが、後述するとおり相手が異議を出すと、その相手の管轄地で通常訴訟に移行する点は踏まえておく必要があります。

少額訴訟・通常訴訟との違い

手続き 対象金額 出廷 申立先の管轄 相手が争った場合
支払督促 上限なし 原則不要(書面審理) 債務者の住所地(民事訴訟法383条1項) 異議申立てのみで通常訴訟に移行(同395条)
少額訴訟 60万円以下(同368条1項) 必要(原則1回) 被告の住所地が原則。金銭債務は民法上の持参債務の原則により債権者の住所地が履行地となることが多く、その場合は原告(債権者)の住所地でも起こせる(義務履行地の管轄、同5条1号) 被告の申述で通常訴訟に移行(同373条)
通常訴訟 上限なし 必要(複数回のことが多い) 被告の住所地が原則(同4条1項) 判決に対し控訴が可能

支払督促は「出廷したくない」「金額が60万円を超えている」場合に選ばれやすい手続きです。ただし通常訴訟への切り替わりやすさで見ると、少額訴訟(被告からの申述が必要)より支払督促(異議を申し立てるだけでよい)のほうがハードルが低く、相手が明確に争ってくる案件では効力が長続きしにくい点が異なります。

申立てから「確定判決と同じ効力」までの流れ

  1. 請求書・契約書・納品書など、取引と未払いの事実を示す証拠を揃える
  2. 債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に、支払督促の申立書を提出する(民事訴訟法383条1項)
  3. 裁判所書記官が債務者を審尋せずに支払督促を発し(同386条1項)、債務者に送達する(同388条1項)
  4. 送達から2週間以内に債務者から督促異議の申立てがなければ、債権者は仮執行宣言の申立てができる(同391条1項)。この申立ては、その2週間経過時から30日以内にしないと支払督促自体の効力が失われる(同392条)
  5. 仮執行宣言付支払督促が債務者に送達される(同391条2項)
  6. その送達からさらに2週間以内に督促異議の申立てがなければ、支払督促は確定判決と同一の効力を持つ(同393条・396条)

仮執行宣言が付いた支払督促は、それ自体が強制執行の根拠(債務名義)になります(民事執行法22条4号)。つまり相手が最後まで異議を出さなければ、訴訟を起こさずに給料や預金口座の差し押さえまで進める土台ができるということです。

必要な書類と費用

準備する書類は主に次のとおりです。

  • 支払督促申立書(簡易裁判所所定の書式)
  • 請求の原因を裏づける資料(請求書、契約書、発注書、納品書など。証拠書類そのものの提出は少額訴訟ほど厳格には求められませんが、請求内容を裏づける記載は必要です)
  • 債務者(取引先)の正確な商号・住所

費用は、申立ての手数料(収入印紙)と送達用の郵便切手です。支払督促の申立ての手数料は、同じ金額を通常訴訟で請求する場合の手数料の2分の1と定められています(民事訴訟費用等に関する法律・別表第一・第10項)。正確な金額と郵便切手の内訳は裁判所ごとに異なるため、申立て先の簡易裁判所窓口または裁判所ウェブサイトの手数料早見表で確認してください(※2026年9月時点の一般的な制度としての整理)。

督促異議が出たらどうなるか|通常訴訟への移行

債務者は、支払督促(または仮執行宣言付支払督促)の送達を受けた日から2週間以内であれば、理由を示さずに督促異議を申し立てることができます(民事訴訟法390条・393条)。適法な督促異議の申立てがあった場合、その支払督促の申立ての時に、督促異議に係る請求について訴えの提起があったものとみなされます(同395条)。つまり手続きは自動的に通常訴訟に切り替わり、以降は出廷を伴う審理が必要になります。

この移行に、債権者側の同意や追加の理由は必要ありません。相手が「争う意思がある」ことさえ示せば、書面1枚で振り出しに戻るという点は、支払督促を選ぶ前に必ず理解しておく必要があります。

支払督促が向かないケース

  • 取引先が支払いの事実そのものや金額を明確に争っている(異議で通常訴訟に移行する可能性が高い)
  • 取引先の所在地が遠方で、通常訴訟に移行した場合に自社側の出廷負担が大きくなる
  • 相手の住所や商号が正確に把握できていない(送達ができないと手続きが進まない)

このような場合は、最初から通常訴訟を検討するか、金額が60万円以下であれば自社の住所地でも起こせる少額訴訟([071]で扱っています)を選ぶほうが、手戻りが少なくなることがあります。

実体験:「異議一本で振り出しに戻る」怖さを見てきた

私の場合

私自身が自社の当事者として支払督促を申し立てた経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は「申し立てた側」の当事者としての体験ではなく、社内の未回収案件の対応を検討・判断してきた立場から見てきた事実に基づいています。

社内で支払督促を検討した際、最後まで引っかかっていたのが「相手が理由なく異議を出せば、それだけで通常訴訟に戻ってしまう」という点でした。出廷不要・費用も半額という手軽さに惹かれても、相手が支払う意思をそもそも持っていないケースでは、督促異議を出されて結局は通常訴訟の準備をやり直すことになりかねません。実務では、相手が単に支払いを忘れている、あるいは資金繰りが厳しく反論する気力がないと見込める案件でこそ支払督促が効き、逆に契約内容や金額そのものに争いがありそうな案件では、最初から通常訴訟や弁護士への相談を優先すべきだという判断基準を持つようになりました。

次にやること

まず、取引先の正確な商号・住所を確認し、請求内容を裏づける請求書・契約書などの資料を手元に揃えてください。 そのうえで、取引先の住所地を管轄する簡易裁判所の窓口またはウェブサイトで支払督促申立書の書式を入手し、必要事項を記入して提出します。手数料と郵便切手の金額は、申立て先の簡易裁判所に事前に確認してください。

回収そのものが長引く見込みが立った場合、法的手続きを進めている間の資金繰りをつなぐ手段として、係争中の売掛金とは別の、支払期日が確定している健全な売掛金をファクタリングで先に現金化しておく事業者もいます。少額の売掛金から利用できるサービスの例としてラボルがあります(手数料一律10%・少額1万円から利用可能と公式サイトに明記。※2026年9月時点の調査)。


※本記事は2026年8月〜9月時点の調査に基づく情報整理です。個別の債権回収・法的手続きの要否については、弁護士・簡易裁判所の窓口にご相談ください。

出典(2026年9月4日、e-Gov法令検索・裁判所公式サイト・日本法令外国語訳DBシステムで条文原文を確認) - 民事訴訟法382条(支払督促の要件) - 民事訴訟法383条1項(申立先、債務者の普通裁判籍) - 民事訴訟法386条1項(支払督促は債務者を審尋しないで発する) - 民事訴訟法388条1項(支払督促の送達) - 民事訴訟法390条(仮執行の宣言前の督促異議) - 民事訴訟法391条1項・2項(仮執行の宣言、送達後2週間異議なしが要件/仮執行宣言の送達) - 民事訴訟法392条(仮執行宣言申立ての30日失効) - 民事訴訟法393条(仮執行の宣言後の督促異議、送達後2週間の不変期間) - 民事訴訟法395条(督促異議による訴え提起みなし) - 民事訴訟法396条(仮執行宣言付支払督促の確定判決と同一の効力) - 民事訴訟法368条1項(少額訴訟の要件、60万円以下) - 民事訴訟法4条1項(被告の普通裁判籍による管轄)・5条1号(義務履行地の管轄。少額訴訟固有の規定ではなく、金銭債務は民法上の持参債務の原則により債権者の住所地が履行地となることが多いため、比較のため引用) - 民事訴訟法373条(少額訴訟から通常の手続への移行) - 民事執行法22条4号(仮執行の宣言を付した支払督促=債務名義) - 民事訴訟費用等に関する法律・別表第一・第10項(支払督促申立て手数料は訴え提起の2分の1) - ラボル公式「ファクタリングの手数料はいくら?」(labol.co.jp/insight/factoring-commission/。手数料一律10%・少額1万円から利用可能を確認。※2026年9月時点の調査) - 実体験部分は運営者本人が前職(執行役員・管理部門統括)で見てきた事実に基づく

当サイト運営者

執行役員として、会社の管理部門を統括していました

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

この記事に関係する無料の道具(登録不要・その場で使える)
あわせて読みたい