小さな会社の資金繰りガイド 苦しくなる前の備えから、危機のときの順番まで
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固定費の下げ方

この記事の結論
  • 固定費は一度削れば効果が翌月以降も続くため、資金繰りが苦しいときにまず手をつけるべき対象になる
  • 削る順番は①使っていない・重複しているものを止める②契約条件を見直して下げる③人件費に手をつける、の3段階で、後になるほど痛みと法的な制約が大きくなる
  • 人件費(給与)の引き下げは労働契約法上、原則として労働者との合意が必要で、一方的な変更はできない
  • 固定費を削っても資金ショートまでの時間を稼げないときは、削減と並行して資金調達も検討する
この記事の内容
  1. 結論:止めても止まらないものから、人件費は最後
  2. まず、固定費を削ることは「守りに入った」ことではない
  3. なぜ固定費から手をつけるのか
  4. 比較表:削る順番と、それぞれの痛みの大きさ
  5. 1段階目:今日から止められるもの
  6. 2段階目:契約条件を見直して下げるもの
  7. 3段階目:人件費に手をつける前に確認すること
  8. 固定費を削っても足りないとき
  9. 実体験:管理部門を統括した立場から見た固定費の見直し
  10. 次にやること

この記事は、資金繰りが苦しくなってきて固定費を見直したいが、何から手をつければいいか分からない一人社長・小規模事業者の方に向けて書いています。 結論から言うと、固定費を削る順番は「①使っていない・重複しているものを止める → ②契約条件を見直して下げる → ③人件費に手をつける」の3段階です。後になるほど、削減できる金額は大きくなる一方で、実行の手間・取引先や従業員への影響・法的な制約も大きくなります。痛みの小さい順に手をつけることで、削減の効果を早く出しながら、大きな決断が必要な部分の検討時間を稼ぐことができます。

こんな状態ではありませんか
  • 固定費を見直さなければと分かってはいるが、何から削ればいいか整理できていない
  • 人件費を削ることばかり頭に浮かぶが、それ以外に先にやれることがあるのではと感じている
  • 削って本当に資金繰りが楽になるのか、効果の大きさが見えない

結論:止めても止まらないものから、人件費は最後

固定費とは、売上の増減に関わらず毎月ほぼ一定額が出ていく費用のことです(家賃・通信費・保険料・サブスクリプション・リース料・借入金の返済・人件費など)。これに対して、仕入や外注費のように売上の増減に応じて金額が変わる費用を変動費と呼びます。資金繰りが苦しいとき、まず固定費に手をつけるべき理由は単純で、一度削れば来月も再来月も効果が続くからです。変動費は売上が止まれば連動して減りますが、固定費は事業を止めても出ていき続けます。

削る順番は、実行のしやすさと影響の大きさで並べます。

  1. 使っていない・重複しているものを止める(即日〜数日で効果、影響はほぼ自分だけ)
  2. 契約条件を見直して下げる(交渉・切り替えに数週間、取引先との関係に影響)
  3. 人件費に手をつける(法的な手続きが必要、従業員の生活に直結する)

この順番を守らずにいきなり人件費から検討を始めると、時間と精神的な負担が最も大きい選択肢に最初から向き合うことになります。先に1段階目・2段階目で削れる分を削り、資金繰りの余裕を少しでも作ってから、3段階目を検討するかどうかを判断する方が、選択肢を狭めずに済みます。

まず、固定費を削ることは「守りに入った」ことではない

ここが要点

「固定費を削るのは事業がうまくいっていない証拠」と感じる必要はありません。固定費の見直しは、事業を続けている限りずっと必要な作業であり、資金繰りが苦しいときに限った特別なことではありません。 使っていないサブスクリプションを解約する、割高な契約を見直す、というのは、業績が良い会社でも定期的に行っていることです。苦しくなってから初めて着手すること自体は、遅すぎるということはありません。

心身に不調が出るほど資金繰りに追い詰められている場合は、この記事の情報より先に、医師や産業医への相談を優先してください。ここから先は、実際に何を削るかの整理です。

なぜ固定費から手をつけるのか

資金繰りが苦しいとき、削減の候補は大きく固定費と変動費の2種類があります。変動費(仕入・外注費など)は、売上が止まればおのずと支出も止まるため、意識して削らなくても連動して減っていく性質があります。一方で固定費は、売上がゼロの月であっても契約が続く限り出ていきます。

つまり、資金繰りを直接圧迫しているのは「売上が減っても減らない支出」である固定費の方です。ここを見直さない限り、売上が回復するまでの間、毎月同じ金額の支出が現金を減らし続けます。固定費を1万円削れば、その効果は1ヶ月だけでなく、削減した状態が続く限り毎月積み上がります。これが、資金繰りの改善においてまず固定費から手をつける理由です。

比較表:削る順番と、それぞれの痛みの大きさ

段階 具体例 効果が出るまで 実行の手間 影響の範囲
①止める 使っていないサブスク・ツール、重複している保険・サービス 即日〜数日 低い(解約手続きのみ) 自分・自社内のみ
②見直す 通信費のプラン変更、保険の見直し、リース料・家賃の交渉 数週間〜1ヶ月程度 中(比較・交渉が必要) 契約先との関係
③人件費 給与の引き下げ、労働時間の短縮、雇用形態の見直し 手続きに応じて変動 高い(法的手続き・合意形成が必要) 従業員の生活

同じ「固定費削減」でも、①と③では実行の負担がまったく異なります。①から順に着手し、③まで進む前にどこまで資金繰りが改善するかを一度確認することを勧めます。

1段階目:今日から止められるもの

最初に見るべきは、契約先との交渉が不要で、今日にでも止められるものです。

  • 使っていないサブスクリプション・ツール:クラウドサービス、業務ツール、動画・音楽配信サービスなど、契約したまま使っていないものがないか、クレジットカードの明細やサブスク管理アプリで一覧化します
  • 重複しているサービス:同じ用途のツールを2つ以上契約していないか(例:オンラインストレージ、名刺管理、会計ソフト)
  • 加入したまま見直していない保険:事業とは関係の薄い保障が付いていないか、保険証券を一度取り出して確認します
  • 口座振替になっていて存在を忘れている支出:通帳・クレジットカードの明細を過去3ヶ月分見返すと、使途を忘れている定期支出が見つかることがあります

この段階の特徴は、削っても取引先との関係や事業運営そのものにほぼ影響がないことです。金額が小さく見えても、積み重なると月数千円〜数万円になることが珍しくないため、まずここから着手します。

2段階目:契約条件を見直して下げるもの

1段階目で洗い出した後は、「止められないが、条件を見直せば下がる」ものに進みます。

  • 通信費:携帯電話・インターネット回線のプランが、実際の利用量に見合っているかを確認します。法人向けプランは個人向けより割高な場合があるため、比較検討の余地があります
  • 保険料:事業に必要な保障を維持したまま、保険会社・プランを見直せないか確認します
  • リース料:複合機・車両などのリース契約は、契約更新のタイミングで条件変更や他社への切り替えを交渉できる場合があります
  • 家賃:事業用の店舗・事務所を借りている場合、借地借家法32条は「経済事情の変動」などにより賃料が不相当になったときは、当事者が将来に向けて賃料の増減を請求できると定めています(e-Gov法令検索、2026年9月1日確認)。この規定は賃借人側からの減額請求にも及びますが、契約書に定めのある特約や契約形態によって扱いが変わる場合があるため、実際に交渉する前に契約書の内容を確認し、必要であれば専門家に相談してください

この段階は、相手のあることなので即日では終わりません。ただし、一度条件を下げられれば、その効果は契約が続く限り毎月続きます。

3段階目:人件費に手をつける前に確認すること

ここが要点

固定費の中で最も金額の大きい項目が人件費であることは珍しくありません。だからといって、真っ先にここへ手をつけるべきではありません。給与の引き下げは、労働契約法上、原則として労働者本人の合意が必要です。 労働契約法8条は「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定めており、会社側が一方的に給与を下げることは、この合意の原則に反します(e-Gov法令検索、2026年9月1日確認)。

就業規則を変更することで労働条件を変える方法もありますが、労働契約法9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」としており、これも原則として労働者の合意なしにはできません(同法9条、2026年9月1日確認)。例外として同法10条は、就業規則の変更が合理的なものであれば変更後の内容が労働契約の内容になると定めていますが、この「合理性」の判断は個別の事情によるため、専門家(社会保険労務士・弁護士)への相談なしに進めるべきではありません(同法10条、2026年9月1日確認)。

人件費に手をつける前に、次を確認してください。

  1. 1段階目・2段階目で削れる固定費を、実際にすべて削り終えているか
  2. 労働時間の調整(残業削減、シフトの見直し)など、給与額そのものに手をつけない選択肢を先に検討したか
  3. 給与を下げる場合、対象となる従業員本人との合意形成を、書面で残せる形で進める準備があるか

人件費の見直しは、金額のインパクトが大きい分、従業員の生活に直結し、進め方を誤ると労使トラブルに発展するリスクもあります。この段階に進む前に、社会保険労務士など専門家に相談することを強く勧めます。

固定費を削っても足りないとき

固定費を1段階目・2段階目まで見直しても、資金繰りの改善が資金ショートのタイミングに間に合わないと分かった場合は、削減と並行して資金調達も検討する必要があります。今の資金繰りが苦しいのが一時的な支出の谷なのか、構造的な問題なのかを見分ける方法は別記事(資金繰りが苦しいのは売上不足か構造か)で、月末の支払いが今まさに足りない場合の当日の動き方は別記事(月末の支払いが足りないとき、今日からできる順番)で整理しています。取引先に支払いを待ってもらう交渉の進め方は(支払いを待ってもらう交渉の仕方)をご覧ください。

実体験:管理部門を統括した立場から見た固定費の見直し

私の場合

正直に書きます。私自身が経営者として自社の固定費削減を実行した経験はまだありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は経費の見直しを経理担当者や各部門から報告を受けて判断する側の経験に基づいています。

その立場で見ていて感じたのは、固定費の見直しは「大きな決断を1回する」ことよりも「小さな棚卸しを定期的に続ける」ことの方が効果が大きい、ということでした。契約したことを忘れているサブスクリプションや、必要かどうか誰も確認していない保険は、業績が良いときほど見過ごされがちです。逆に、資金繰りが苦しくなってから慌てて洗い出そうとすると、時間の余裕がない中で確認漏れが起きやすくなります。1段階目にあたる「止める」作業は、苦しくなる前から定期的にやっておく方が、いざというときの負担が小さいというのが実感です。

次にやること

まず、直近3ヶ月分のクレジットカード明細と口座の引き落とし履歴を見返し、「これは何のための支出か」を即答できない項目に印をつけてください。 印がついた項目から、1段階目(止める)を今日中に実行します。それが終わったら2段階目(契約条件の見直し)に進み、3段階目(人件費)は専門家への相談を経てから検討してください。


※本記事は2026年9月時点の一般的な整理に基づく情報です。個別の労務・契約判断については、社会保険労務士・弁護士など専門家にご相談ください。

出典 - 借地借家法32条(借賃増減請求権): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090 (2026年9月1日確認) - 労働契約法8条(労働契約の内容の変更): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128 (2026年9月1日確認) - 労働契約法9条(就業規則による労働契約の内容の変更): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128 (2026年9月1日確認) - 労働契約法10条(就業規則による労働契約の内容の変更の例外): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128 (2026年9月1日確認)

当サイト運営者

執行役員として、会社の管理部門を統括していました

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

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