損益分岐点の計算方法
- 損益分岐点売上高は「固定費 ÷ 粗利率」という1つの式で計算できる(J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]で確認、2026年9月13日確認)
- 固定費は売上の増減に関係なく発生する費用(家賃・人件費など)、粗利率は売上から変動費を引いた粗利益が売上に占める割合で、この2つさえ分かれば損益分岐点は出せる
- 損益分岐点売上高が実際の売上高に対してどの程度の比率かを示す「損益分岐点比率」もあり、90%以下・80%以下といった数値が会計事務所の解説記事で目安として広く紹介されているが、中小企業庁やJ-Net21など公的機関が定めた統一の目標値としての一次資料は確認できなかった(2026年9月13日確認)
この記事の内容
この記事は、「うちの会社は、あと売上がどのくらい落ちたら赤字になるのか」が感覚でしか分からず、資金繰りの不安を数字で確認したい個人事業主・中小企業の経営者に向けて書いています。 損益分岐点という言葉は聞いたことがあっても、自社の数字を当てはめて実際に計算したことがない、という場面を想定しています。結論から言うと、損益分岐点売上高は「固定費 ÷ 粗利率」という1つの式だけで計算できます。この記事では、この2つの数字の出し方と、自社の数字を当てはめる計算例、健全性の目安になる指標まで整理します。
- 「損益分岐点」という言葉は知っているが、自分の会社の数字で計算したことがない
- 決算書や試算表のどこを見れば「固定費」と「粗利率」が分かるのか分からない
- 計算できたとして、その数字が「大丈夫」なのか「危ない」のか判断できない
資金繰りの不安を数字にする近道は、向こう数か月の「現金の出入り」を月ごとに並べ、通帳の残高がマイナスになる月を先に見つけることです。 この作業に使う表が「資金繰り表」で、後半の「資金繰りの手順」の節に手順と計算例を載せています。 損益分岐点は「利益」の話、資金繰りは「現金」の話です。利益が出ていても、入金が遅れれば現金は足りなくなります。 この記事の式で赤字ラインを知り、資金繰り表で現金が尽きる月を知る、の2つをそろえると不安の中身が見えます。
結論:損益分岐点売上高は「固定費÷粗利率」で出す
損益分岐点売上高とは、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。これを下回ると赤字、上回ると黒字になる境目の数字で、次の式で計算できます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率
固定費は、売上の増減に関係なく毎月一定額が発生する費用(家賃・正社員の人件費・保険料など)。粗利率は、売上から仕入や外注費などの変動費を引いた「粗利益(限界利益)」が、売上に占める割合です。この2つの数字さえ手元にあれば、電卓1つで損益分岐点は出せます(J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。」で確認、2026年9月13日確認)。
まず、計算したことがなくても焦る必要はない
「経営者なら損益分岐点くらい即答できて当然」と自分を責める必要はありません。日々の売上や入出金の管理と、損益分岐点という「構造」を数字で捉え直す作業は、別の頭の使い方です。 忙しい日常の中でこの作業に手をつけられていなかったのは、優先順位の付け方として自然なことです。あとは、決算書や試算表から数字を拾って式に当てはめるだけの、機械的な作業が残っているだけです。
心身に不調が出るほど資金繰りに追い詰められている場合は、この記事の情報より先に、医師や産業医への相談を優先してください。ここから先は、数字を出すための整理です。
損益分岐点とは何か:何を教えてくれる数字か
損益分岐点は、「今の売上高から、あとどれだけ落ちたら赤字に転落するか」を数字で教えてくれます。たとえば実際の売上高が500万円で、損益分岐点売上高が375万円だった場合、125万円(25%)売上が落ちても赤字にはならない、という読み方になります。
逆に、損益分岐点売上高が実際の売上高に近い、あるいは上回っている場合は、わずかな売上の落ち込みですぐに赤字圏に入る状態にあるということです。融資の相談や資金繰り表を作る前に、まず自社が今どちらの状態にいるかを知る出発点になる数字です。
なぜ固定費と粗利率の2つで出せるのか
損益分岐点は「利益=0」になる売上高です。利益は次の式で表せます。
利益 = 売上高 × 粗利率 − 固定費
この式で利益を0とおき、売上高について解くと「売上高 = 固定費 ÷ 粗利率」になります。つまり、売上が増えるほど粗利率の分だけ利益が積み上がっていき、その積み上げ分が固定費と一致した時点が損益分岐点、という関係です。変動費(仕入・外注費など、売上に比例して増減する費用)は粗利率の中にすでに織り込まれているため、式に別立てで登場しません(同上)。
固定費と変動費の分け方
固定費と変動費を分ける作業は「固変分解」と呼ばれます。厳密に1円単位まで分ける必要はなく、まずは代表的な費目を次のように仕分けるところから始めます。
| 区分 | 代表的な費目 | 特徴 |
|---|---|---|
| 固定費 | 地代家賃、正社員の給与・法定福利費、保険料、リース料、減価償却費 | 売上がゼロでも発生する。毎月ほぼ一定額 |
| 変動費 | 仕入原価、外注費、販売手数料、配送料 | 売上・販売数量に比例して増減する |
パート・アルバイトの人件費や、水道光熱費のように売上と連動する部分としない部分が混ざる費目もあります。迷う費目は、いったん固定費側に寄せて計算し、必要に応じて後から調整する進め方で問題ありません(会計事務所・コンサルティング会社の複数の解説記事で確認、2026年9月13日確認)。
粗利率(限界利益率)の出し方
粗利率は、次の式で出します。
粗利率 = (売上高 − 変動費) ÷ 売上高
管理会計では、売上高から変動費を引いた金額を「限界利益」と呼び、限界利益が売上高に占める割合を「限界利益率」と呼びます。損益分岐点の計算で使う「粗利率」は、この限界利益率とほぼ同じ意味で使われています。決算書の「売上総利益(粗利)」をそのまま使う場合との違いは、決算書の売上総利益には固定費的な性質を持つ費用(工場の減価償却費など)が含まれることがある点です。まずは大まかな粗利率で計算を始め、精度を上げたくなったら変動費の中身を見直す、という順番で十分です。
計算例:自社の数字で損益分岐点売上高を出す
ある月の売上高が500万円、変動費(仕入原価など)が300万円、固定費(家賃・人件費など)が150万円だった場合で計算します。
| 項目 | 金額・計算 |
|---|---|
| 売上高 | 500万円 |
| 変動費 | 300万円 |
| 粗利益(限界利益) | 500万円 − 300万円 = 200万円 |
| 粗利率 | 200万円 ÷ 500万円 = 40% |
| 固定費 | 150万円 |
| 損益分岐点売上高 | 150万円 ÷ 40% = 375万円 |
この場合、実際の売上高500万円は損益分岐点売上高375万円を125万円上回っています。言い換えると、売上が現在の75%(375万円)まで落ち込んでも赤字にはならない、という位置にいることが分かります。自社の数字で計算する場合は、直近の試算表または決算書から「売上高」「変動費(仕入・外注費など)」「固定費(家賃・人件費など)」の3つを拾い、上の表と同じ順番で当てはめてください。
健全性の目安:損益分岐点比率で見る
損益分岐点売上高を実際の売上高と比べるときは、「損益分岐点比率」という指標も使われます。
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100
上の計算例では、375万円 ÷ 500万円 × 100 = 75%です。損益分岐点比率については、「90%以下なら健全、80%以下なら優良」といった数値が会計事務所の解説記事で目安として広く紹介されています。ただし、J-Net21の公式ページにはこの数値の記載はなく、中小企業庁やJ-Net21のような公的機関がこの数値を統一の目標値として定めている一次資料は見当たりませんでした(2026年9月13日確認)。あくまで民間の目安として、比率が90%を超えたあたりから注意が必要になり、100%に近づく、あるいは100%を超えている場合は、わずかな売上減少ですぐに赤字圏に入る状態にあるため、固定費の見直しや粗利率の改善を優先的に検討する目安になります。
チェックリスト:計算前に確認すること
- □ 直近の試算表または決算書を手元に用意している
- □ 費目ごとに「固定費」か「変動費」かを大まかに仕分けている(迷う費目は固定費側に寄せてよい)
- □ 売上高と変動費の合計から、粗利率を計算している
- □ 固定費の合計を、粗利率で割った損益分岐点売上高を出している
- □ 損益分岐点売上高を実際の売上高と比べ、損益分岐点比率を確認している
資金繰りの手順:資金繰り表で現金が足りなくなる月を先に見つける
資金繰りとは、一定期間の入金と出金を見通し、現金が不足しないように手当てすることです。損益分岐点を超えて黒字でも、売上の入金が出金より遅ければ、手元の現金は減ります。利益は出ているのに支払いができない状態は「黒字倒産」と呼ばれます。
資金繰り表を作る手順
- 表の横軸に、向こう3〜6か月分の月を並べる
- 最初の月の「月初残高」に、通帳の実際の残高を入れる(帳簿ではなく通帳)
- 「入金」の行には、売上が立った月ではなく、実際にお金が入る月で書く
- 「出金」の行には、仕入・外注費、家賃、給与、税金・社会保険料、借入の返済を、支払う月で書く
- 「月末残高 = 月初残高 + 入金 − 出金」を出し、マイナスの月に印を付ける。その残高が翌月の月初残高になる
- 月が終わるたびに実績で書き換え、先の月の見込みを直す
計算例:黒字でも現金が足りなくなる月
前提(仮置き。単位は万円): 売上は翌月に入金、仕入・固定費は当月に支払い、変動費は売上の60%、固定費は毎月150、4月の月初残高は30。3月の売上は400。売上は4月400、5月500、6月600と伸びている。
| 月 | 売上 | 利益 | 入金(前月の売上分) | 出金 | 月末残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 4月 | 400 | 10 | 400 | 240+150=390 | 30+400−390=40 |
| 5月 | 500 | 50 | 400 | 300+150=450 | 40+400−450=−10 |
| 6月 | 600 | 90 | 500 | 360+150=510 | −10+500−510=−20 |
利益は3か月とも黒字ですが、5月末に残高がマイナスになります。売上が伸びる月ほど仕入が先に出ていくため、現金が先に減る形です。
マイナスの月が出たら、原因で打ち手が分かれる
次に詰まりやすいのは、「マイナスの月が見つかったが、何から手を付けるか」です。原因を1つに絞ってから動きます。
- 入金が遅いのが原因: 請求書を出す日を早める、入金日を早める交渉をする。上の例なら、入金が当月になれば5月のマイナスは消える
- 特定の月に出金が集中しているのが原因: 税金・賞与・返済などの山の月です。支払日をずらせるか、取引先や窓口に早めに相談する
- 損益分岐点を下回っているのが原因: 現金の工面では解決しません。この記事の式で固定費と粗利率を見直す
- 上の3つで足りない: 借入は申し込みから入金まで時間がかかるため、残高がマイナスになる月の前に、取引のある金融機関へ相談する
どの場合も、マイナスが見えた時点で動くほうが、選べる手が多く残ります。
実体験:EC事業で固定費と変動費を切り分けていた立場から
前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括しており、月次の収支を固定費と変動費に分けて確認する立場にありました。EC事業では、広告費や決済手数料、配送料といった売上に連動する費用の割合が大きく、この部分を「変動費」として粗利率の計算に織り込むかどうかで、損益分岐点売上高の見え方が大きく変わる経験をしました。特に広告費は、キャンペーンの有無によって月ごとの変動が大きいため、平均値で固定費に含めるのではなく、変動費側に寄せて粗利率を都度計算し直すようにしていました。この経験から、損益分岐点は一度計算して終わりではなく、費用構造が変わるたびに数字を出し直すものだという感覚を持つようになりました。
次にやること
まず、直近1ヶ月分の試算表を用意し、費目を固定費と変動費に大まかに仕分けてください。粗利率(売上高−変動費を売上高で割った数字)を出し、固定費をその粗利率で割れば、その場で自社の損益分岐点売上高が出ます。出た数字を実際の売上高と比べ、損益分岐点比率が90%を超えている場合は、固定費の見直しから着手してください。