遅延損害金は請求できるか
- 支払期日に遅れた金銭債務には、契約書に定めがなくても民法上の遅延損害金を請求できる(民法419条1項、法務省 日本法令外国語訳データベースで現行条文を確認、2026年9月確認)
- 契約書に利率の定めがなく下請法の対象でもない一般の取引では、遅延損害金の利率は法定利率が適用され、2026年9月時点で年3%(2026年4月1日〜2029年3月31日、民法404条、令和7年法務省告示第73号、法務省の公式ページで確認、2026年9月確認)
- 契約書に法定利率を超える利率を明記していれば、その約定利率が優先される(民法419条1項ただし書き)
- 親事業者・下請事業者間の取引で下請法の対象になる場合、支払遅延の遅延利息は契約の定めにかかわらず年14.6%(下請代金支払遅延等防止法4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則、公正取引委員会の原文で確認、2026年9月確認)
- 利息制限法4条の上限利率(元本により年21.9〜29.2%)は金銭消費貸借(貸金)の債務不履行に適用される規定であり、通常の売買・請負代金等の遅延損害金には直接適用されない(利息制限法4条・1条、法務省 日本法令外国語訳データベースの原文で確認、2026年9月確認)
この記事の内容
この記事は、取引先からの入金が支払期日を過ぎても届かず、「遅れた分の損害金を請求できないか」と考えている個人事業主・中小企業の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、契約書に条項がなくても、金銭債務の支払いが遅れれば法律上は請求できます。ただし、いくらの利率になるかは「契約書に定めがあるか」「下請法の対象取引か」で変わります。この記事では、ケース別の利率を整理したうえで、計算例と請求文例を示します。
- 取引先の入金が支払期日を過ぎているが、遅延損害金を請求できるのか分からない
- 契約書に記載がなく、請求する根拠があるのか不安
- 請求するといくらになるのか、計算のしかたが分からない
結論:契約書に定めがなくても請求できる。利率は3パターン
金銭を支払う約束(売買代金、業務委託料など)が支払期日を過ぎても履行されない場合、債権者は遅延損害金を請求できます。これは契約書に条項があるかどうかに関係なく、民法上の権利です(民法419条1項、法務省 日本法令外国語訳データベースで現行条文を確認、2026年9月確認)。問題は「請求できるか」ではなく「利率が何%になるか」です。 次の3パターンのどれに当てはまるかで決まります。
| ケース | 利率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 契約書に遅延損害金の利率を明記している | その約定利率 | 民法419条1項ただし書き(法定利率を超える場合) |
| 契約書に定めがなく、下請法の対象取引でもない | 法定利率(2026年9月時点で年3%) | 民法404条・419条1項 |
| 親事業者・下請事業者間で下請法の対象取引にあたる | 年14.6% | 下請代金支払遅延等防止法4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則 |
なぜ契約書に書いていなくても請求できるのか
民法419条1項は、金銭債務の履行が遅れた場合の損害賠償額(遅延損害金)は法定利率によって定めると規定しています。契約で法定利率を超える利率(約定利率)を定めていれば、そちらが優先されます。さらに419条2項では、この遅延損害金について債権者は実際の損害額を証明する必要がないとされ、419条3項では債務者が不可抗力を理由に支払いを免れることもできないとされています(民法419条、法務省 日本法令外国語訳データベースで現行条文を確認、2026年9月確認)。つまり「実際どれだけ損をしたか」の証明は不要で、遅れた日数と利率だけで機械的に金額を出せます。これが、契約書に何も書いていなくても請求できる理由です。
利率はどう決まるか:3つのケースを比べる
①契約書に遅延損害金の利率を明記している場合
その約定利率が適用されます。契約書への書き方は契約書に支払条件を書く|期日・検収・遅延利息の3点で扱っています。
②契約書に定めがなく、下請法の対象取引でもない場合
法定利率が適用されます。2020年4月1日の民法改正で年3%からスタートした変動制で、3年ごとに市場金利を踏まえて見直されます。2026年4月1日〜2029年3月31日の第3期も年3%のまま据え置かれています(民法404条3項、令和7年法務省告示第73号、法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」で確認、2026年9月確認)。
③下請法の対象取引にあたる場合
親事業者が下請事業者に行う製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託などのうち、資本金区分で下請法の対象となる取引では、遅延利息は契約の定めにかかわらず年14.6%です(下請代金支払遅延等防止法4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則、公正取引委員会の該当ページで確認、2026年9月確認)。契約書に別の利率を書いていても、下請法の対象ならこの年14.6%が適用されます。資本金基準は入金サイトが長い取引先への対処|下請法で守られる範囲で扱っています。
金銭の貸し借り(消費貸借)には利息制限法4条という別の上限があり、元本額に応じて年21.9%〜29.2%が上限です(利息制限法4条は同法1条に定める利率の1.46倍が上限と規定しており、1条の上限利率(元本10万円未満は年20%、10万円以上100万円未満は年18%、100万円以上は年15%)に1.46を掛けると29.2%・26.28%・21.9%になります。法務省 日本法令外国語訳データベースの原文で確認、2026年9月確認)。ただしこれは「お金を貸した・借りた」場合の話で、通常の売買代金・業務委託料の未払いには直接あてはまりません。あまりに高い利率(年100%など)を書いた場合は、公序良俗違反として無効になる可能性が残ります。
計算例:入金が30日遅れた場合いくら請求できるか
次の前提で、元本100万円の代金支払いが30日遅れた場合の遅延損害金を、利率別に計算します。計算式は「元本×利率×遅延日数÷365」です。
| 前提項目 | 設定値 |
|---|---|
| 元本(未払いの代金) | 100万円 |
| 支払期日 | 9月30日 |
| 実際の入金日 | 10月30日(30日遅延) |
| 遅延日数 | 30日 |
- ケースA(契約書に定めなし、下請法対象でもない、法定利率年3%):100万円 × 3% × 30日 ÷ 365日 ≒ 2,466円
- ケースB(契約書に「遅延損害金は年14.6%」と明記):100万円 × 14.6% × 30日 ÷ 365日 ≒ 12,000円
- ケースC(下請法の対象取引、年14.6%):100万円 × 14.6% × 30日 ÷ 365日 ≒ 12,000円(ケースBと同額)
この計算例が示すのは、契約書に利率を明記しているかどうかで、同じ30日の遅延でも請求できる金額が5倍近く変わるということです。法定利率(年3%)だけでは督促の手間に見合わないことが多く、実務上は金額そのものより「請求する姿勢を示して次回以降の遅延を防ぐ」意味合いが大きくなります。
文例:遅延損害金を含めて取引先へ請求する
いきなり強い文面を送ると関係が悪化しやすいため、まず入金確認の体裁を取り、遅延損害金の請求はその中に含める形が実務的です。
件名:○月○日ご請求分のお支払いについて(ご確認)
○○株式会社
○○様
いつもお世話になっております。
○月○日を支払期日とする請求書(請求書番号:○○、金額:○○円)につきまして、
本日時点でご入金が確認できておりません。
行き違いで既にお振込みいただいている場合は恐れ入りますが、
念のためお振込み状況をご確認いただけますと幸いです。
未入金の場合、大変恐縮ではございますが、契約書第○条に基づき、
支払期日の翌日から入金日までの日数に応じた遅延損害金
(年○%)を合わせてご請求させていただきます。
ご不明な点がございましたら、お気軽にご連絡ください。
よろしくお願いいたします。
○○(会社名・氏名)
連絡先:○○
契約書に遅延損害金の条項がない場合は、「契約書第○条に基づき」の部分を「民法の規定に基づき、法定利率(年3%)による」に置き換えてください。
チェックリスト:請求する前に確認すること
請求するかどうかは金額と取引先との関係を踏まえて判断すべきです。請求する前に、次を確認してください。
- □ 支払期日はいつで、何日遅れているか(遅延日数を確定できるか)
- □ 未払いの元本額は確定しているか(一部入金がある場合は残額を確認)
- □ 契約書に遅延損害金の利率の定めがあるか
- □ 自社の取引が下請法の対象取引にあたるか(資本金区分の確認)
- □ 遅延損害金の金額が、請求の手間・関係悪化のリスクに見合うか
- □ まず入金確認の連絡を入れたか(いきなり請求書を送っていないか)
請求しても払われないときの次の一手
- 内容証明で正式に請求する:口頭・メールで動きがない場合は、内容証明で売掛金を請求する手順と文例を参照してください
- 少額訴訟・支払督促を使う:60万円以下であれば少額訴訟(民事訴訟法368条、裁判所の公式ページで確認、2026年9月確認)、それ以上でも簡易な手続きとして支払督促が使えます
- 繰り返し遅延する取引先への対応を見直す:常態化している場合は、売掛金の回収が遅い取引先への対応|締め・請求・督促の型で回収サイクル全体の見直しを扱っています
実体験:管理部門として支払い遅延を扱った立場から
前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括していましたが、取引先からの入金が数日遅れることは珍しくありませんでした。そのたびに遅延損害金を計算して請求していたかというと、正直に書くと、していません。法定利率(当時から年3%)では請求できる金額が数百円〜数千円にしかならず、請求書の作成や先方とのやり取りの手間の方が大きかったためです。実際に請求を検討したのは、支払いが1ヶ月以上遅れ督促への応答も鈍くなった取引先に対してだけでした。それも金額そのものより「請求する姿勢を示して支払いを期日どおりに戻す」ことが目的でした。契約書に条項を明記しておく価値は、高額回収よりこの抑止力にあると今は考えています。
次にやること
まず、支払期日を過ぎている取引先があれば、遅延日数と未払い元本額を確認し、上のケースA〜Cのどれに当てはまるか整理してください。 そのうえで、契約書に条項がなければ、次に結ぶ契約から契約書に支払条件を書く|期日・検収・遅延利息の3点を参考に利率を明記しておくと、次回以降は同じ確認作業をせずに請求できます。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。民法404条・419条、下請法4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則、少額訴訟の訴額要件は、法務省・公正取引委員会・裁判所の該当ページで確認しました。利息制限法4条の上限利率(年21.9〜29.2%)は、法務省 日本法令外国語訳データベースに掲載された同条・1条の原文をもとに算出しています。個別の請求・契約書の記載内容は、弁護士・税理士にご相談ください。
出典 - 民法(第404条・第419条)|日本法令外国語訳データベースシステム(法務省) https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3494(2026年9月11日確認) - 令和8年4月1日以降の法定利率について|法務省 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00366.html(2026年9月11日確認) - 下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則|公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/article4_2.html(2026年9月11日確認) - 利息制限法(第1条・第4条)|日本法令外国語訳データベースシステム(法務省) https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/4046(2026年9月11日確認) - 少額訴訟|裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_02/index.html(2026年9月11日確認)