資金繰り表を日次で作る
- 月次の資金繰り表は月末の残高しか見ないため、月の途中の「資金の谷」を見落とす
- 日次表は日付・入金・出金・残高の4列で足りる
- 谷が見つかったら、支払日の相談・入金の前倒し・借入の順に手を打つ
この記事の内容
月末の残高はプラスなのに、20日ごろ口座の残りが足りなくなる。 そんな不安を抱える小さな会社・個人事業主向けの記事です。 答えは、月次ではなく「日次」の資金繰り表を作ること。 この記事では、作り方と、数字を入れた計算例まで出します。
月末がプラスでも、途中でお金が足りなくなるのはなぜ?
お金は、入る日と出る日が毎月バラバラです。 売上が立つ日と、入金される日も違います。
月次の表は「月初の残高+その月の入金-その月の出金=月末の残高」だけを見ます。 合計は合っていても、月の中でどの順番にお金が動くかは表に出ません。
たとえば、25日に大きな入金があるのに、その前の20日に大きな支払いがあるとします。 月の合計はプラスです。 でも、20日から24日までは口座が足りません。 この「途中の凹み」を、この記事では資金の谷と呼びます。
足りないと気づくのが当日の朝だと、打てる手がほとんどありません。 前もって見えていれば、相談する時間が取れます。
月次と日次は、何が違う?
比較すると、こうなります。
| 項目 | 月次の資金繰り表 | 日次の資金繰り表 |
|---|---|---|
| 見る単位 | 1か月 | 1日 |
| 分かること | 月末にいくら残るか | 毎日いくら残るか、最低額はいつか |
| 見落としやすいもの | 月の途中の不足 | ほぼ無い |
| 手間 | 少ない | 月に数十分(慣れれば) |
| 向いている場面 | 年間の見通し、金融機関への説明 | 入出金の波が大きい月、資金が薄いとき |
全部を日次にする必要はありません。 向こう1〜2か月だけ日次、その先は月次で十分です。 日次に絞るほど、手間も減ります。
日次の表は何を書けばいい?
列は4つで足ります。
- 日付
- 入金(その日に口座へ入る額)
- 出金(その日に口座から出る額)
- 残高(前日の残高+入金-出金)
ここで一番大事なのは、売上や仕入の「発生日」ではなく、お金が動く「日」で書くことです。 請求書を出した日ではなく、入金される日。 納品を受けた日ではなく、振込む日です。
Excelやスプレッドシートなら、残高の列に「前日の残高+入金-出金」の式を入れておくだけです。 専用のソフトは要りません。
何を拾えば、抜けが出ない?
出金は「固定のもの」から先に入れます。
- 家賃・リース料・保険料
- 従業員の給与(支払日が決まっている)
- クレジットカードの引き落とし
- 外注費・仕入の支払い
- 税金・社会保険料
税金は、納期が制度ごとに決まっています。 たとえば、従業員の給与から預かった源泉所得税は、原則として支払った月の翌月10日が納期です(所得税法183条。国税庁タックスアンサーNo.2505)。 ただし、給与を受ける人が常時10人未満で納期の特例の承認を受けていれば、1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日にまとめて納めます(所得税法216条。同No.2505)。 このように、会社によって日付が変わります。 自分の納付書・通知書の日付をそのまま入れてください。
入金は、売掛金の入金予定日が中心です。 取引先ごとに「月末締め・翌月25日払い」のような約束があるはずなので、契約書や請求書から拾います。
迷う入金は、遅れる前提で書くのが安全です。 入金は早まる分には困りません。
計算例:資金の谷が見つかるまでの手順
ここからは、仮の数字での計算例です。 自分の数字に置き換えて使ってください。
前提は次のとおりです。
- 月初の口座残高:120万円
- 売上の入金:25日に400万円(売掛金)
- 出金は下の表のとおり、合計477万円
| 日付 | 内容 | 入金 | 出金 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 1日 | 月初 | 120万円 | ||
| 5日 | 家賃・リース | 40万円 | 80万円 | |
| 10日 | 源泉所得税など | 12万円 | 68万円 | |
| 15日 | カード引き落とし | 35万円 | 33万円 | |
| 20日 | 外注費 | 60万円 | ▲27万円 | |
| 25日 | 売掛金の入金 | 400万円 | 373万円 | |
| 25日 | 給与 | 180万円 | 193万円 | |
| 月末 | 仕入先への支払い | 150万円 | 43万円 |
月次で見ると:120万円+400万円-477万円=43万円。プラスなので、問題なさそうに見えます。
日次で見ると:20日の外注費を払った時点で、残高は▲27万円。 25日の入金まで、5日間(20〜24日)足りない状態が続きます。
この表から分かることは3つです。
- 谷の深さは27万円
- 谷の長さは5日間
- 谷の原因は「20日の外注費60万円」と「25日の入金」の順番
原因が見えれば、手の打ち方が選べます。
谷が見つかったら、何から手を打つ?
お金を借りる前に、支払い・入金の日を動かせないかを考えます。 順番は、費用が小さい順です。
- 支払日をずらす:先ほどの例なら、外注費を20日から25日以降に変えられないか相談する。5日の違いなら、聞いてもらえる場合があります。
- 入金を前に出す:請求書を早く出す、入金サイトの短縮を相談する、など。
- 別の出金を後ろへ:クレジットカードの引き落とし日を変える、など。
- 借入・ファクタリングなど:1〜3で足りないときに、はじめて検討する。
最後の手段ほど、手数料や利息がかかります。 谷が短くて浅いなら、ほとんどの場合は1〜3で足ります。
なお、この例の谷は27万円・5日間です。 この深さの穴を埋めるのに、大きな借入は必要ないかもしれません。 見えないままだと不安だけが大きくなり、必要以上に借りてしまうことがあります。 数字にして初めて、「思ったより小さい」と分かることもあります。
表は、どのくらいの頻度で直せばいい?
作った表は、実際の動きとズレていきます。 ズレたまま放っておくと、表を信じられなくなって、使わなくなります。
目安は次のとおりです。
- 週に1回:実際の残高と表の残高を合わせる(5分ほど)
- 入金が遅れたとき:その日のうちに、入金日を書き換える
- 大きな支払いが決まったとき:すぐに行を足す
「予定」と「実績」を並べて持つと、自分の見積もりのクセも分かります。 入金がいつも3日遅れる取引先があれば、最初から3日遅れで置けばよくなります。 表は完璧でなくて構いません。ズレに気づける状態にしておくのが目的です。
数字を見るのがつらいときは?
資金繰りを見るのは、気持ちが重い作業です。 先延ばしにしたくなるのは、怠けているからではありません。 悪い数字を見たくないのは、誰でも同じです。
少しだけ、見方を変えてみてください。
- 表を作るのは、「自分を責める材料」を探すためではありません
- 谷が見つかるのは、悪いことではなく、事前に手を打てるという知らせです
- 一人で抱えず、税理士・顧問の方・商工会議所などに数字を見せて相談する手もあります
眠れないほど不安な状態が続くなら、お金の話とは別に、医師や専門の窓口にも相談してください。
日次の表を作るチェックリスト
今日、そのまま使える確認項目です。 □ が全部埋まれば、最初の表は完成です。
□ 今日の口座残高(全口座の合計ではなく、口座ごと)を書いた □ 向こう30日分の日付を、1日ごとに行にした □ 固定の出金(家賃・給与・リース・保険料)を日付つきで入れた □ クレジットカードの引き落とし日と金額を入れた □ 税金・社会保険料を、納付書や通知書の日付で入れた □ 売掛金の入金を、請求書ではなく「入金予定日」で入れた □ 入金が遅れそうなものは、遅れる前提の日に置いた □ 残高の列に「前日の残高+入金-出金」の式を入れた □ 残高が一番低い日と金額に、色をつけた □ マイナスの日があれば、その原因の出金・入金をメモした
残高がマイナスにならなくても、低い日が見えること自体が収穫です。 「ここだけ薄い」と分かれば、その週は大きな出費を避けられます。
次にやること
今日の残高と、向こう30日の出金をまず書き出してください。 入金は後回しで構いません。 先に出金を並べると、「この日が重い」という山が自然に見えます。
そこに入金予定を足して、残高が一番低い日を探してみましょう。 それが見つかれば、最初の一歩は終わりです。