決算前にやる融資対策
- 銀行融資の審査では自己資本比率と債務償還年数が重視され、自己資本比率は30%以上で好条件、15〜30%未満で融資を受けやすい水準とされる(中小企業全体平均44.9%という業種別統計を示す解説記事あり、2026年9月確認)
- 債務償還年数は「借入金÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、7年以内が望ましく10年超は危険信号とされる(2026年9月確認)
- 役員貸付金は銀行審査で資産とみなされずマイナス評価の対象になるとする解説記事がある
- 決算書に虚偽の記載をして銀行から融資を受けると詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の拘禁刑)に該当しうる
- 数字を作る粉飾ではなく、決算日までに実態(資産・負債の中身)を整理することが対策の本体である</summary>
この記事の内容
この記事は、決算が近づき、次の融資や借換えに向けて何を準備すればよいか分からない経営者・個人事業主に向けて書いています。 結論から言うと、決算前にやるべきことは「決算書をよく見せるテクニック」を探すことではなく、決算日までに資産・負債の中身を実態に合わせて整理しておくことです。決算日を過ぎると、その日時点の数字がそのまま確定申告書に固定されます。見せ方を工夫できる余地はほとんどなく、整理できるのは決算日より前だけです。
- そろそろ決算だが、銀行の評価を上げるために何をすればいいか分からない
- 「決算書をよく見せる」という言葉をネットで見たが、粉飾にならないか不安
- 顧問税理士に相談する前に、自分でも準備できることを知っておきたい
結論:「見せ方」ではなく「決算日までの実態整理」
「決算対策」というと、決算書の数字をよく見せるテクニックを連想しがちですが、決算書は会社法・法人税法に基づいて実際の取引を記録した結果であり、数字そのものを作り変えることはできません。決算前にできるのは、決算日を迎える前に、資産・負債の中身を実態に合わせて整理しておくことです。具体的には、回収の見込みが無い債権を整理する、実態のない資産を圧縮する、役員と会社の間のお金の貸し借りを精算する、といった作業です。これらは決算日より前にしか手を打てません。決算日を過ぎれば、その日時点の残高がそのまま決算書・確定申告書の数字になります。
なぜ決算日を過ぎると手遅れになるのか
決算書は、決算日時点における会社の資産・負債・純資産の状態(貸借対照表)と、その事業年度の損益(損益計算書)を記録したものです。銀行や信用保証協会は、この決算書と、その後に作成される試算表をもとに融資の可否を判断します。決算日を過ぎてから「もっと良く見せたい」と思っても、すでに確定した取引の記録を後から書き換えることはできません(書き換えれば下記の粉飾にあたります)。一方で、決算日より前であれば、実際に行う取引によって決算日時点の残高そのものを変えることができます。たとえば役員貸付金を実際に返済すれば、決算日時点の貸付金残高は減ります。この「取引によって実態を変えられる期間」が決算日までしかない、というのがこの記事の前提です。
銀行・信用保証協会が見ている数字
銀行融資や信用保証協会の保証審査では、売上や利益の額そのものよりも、自己資本比率と債務償還年数という2つの指標が重視される傾向があるという解説が、複数の会計事務所・税理士事務所のサイトで示されています(2026年9月確認)。
自己資本比率は「純資産 ÷ 総資産 × 100」で計算します。ある会計事務所の解説記事では、銀行融資の観点からの目安として次の水準が示されています(2026年9月確認)。
| 自己資本比率 | 評価の目安 |
|---|---|
| 30%以上 | 潰れにくい水準。無担保・無保証など好条件を得やすい |
| 15%〜30%未満 | 財務内容が良好で融資を受けやすい |
| 0%〜15%未満 | 融資は可能だが、比率の向上が求められる |
| マイナス(債務超過) | 新規融資は困難 |
同記事では、令和6年度決算実績として中小企業全体の自己資本比率平均は44.9%、業種別では情報通信業54.1%、建設業49.4%、製造業49.3%、小売業39.4%という数値も示されています。中小企業庁公式ページはアクセスを拒否されましたが(2026年9月22日確認)、e-Stat(政府統計の総合窓口)で「中小企業実態基本調査 令和7年確報(令和6年度決算実績) 2.資産及び負債・純資産(法人企業)(2)産業中分類別表」(公開日2026年6月29日)の原表(Excel)を直接取得し、純資産÷資産で計算したところ、全産業44.9%・建設業49.4%・製造業49.3%・情報通信業54.1%・小売業39.4%となり、上記の数値と完全に一致しました(2026年9月23日、原表を直接確認)。
債務償還年数は「借入金 ÷ (経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)」で計算され、借入をキャッシュフローで返済するのに何年かかるかを示す指標です。ある会計コンサルティング会社の解説記事では、7年以内が望ましく、10年を超えると危険信号とされています。ただし製造業など大規模な設備投資が必要な業種では、10年を超えても健全と判断される場合があるとも記載されています(2026年9月確認)。
いずれの数値も、審査を行う金融機関・信用保証協会が公式に定めた基準ではなく、実務上の目安として複数の専門家サイトが紹介しているものです。実際の審査基準は金融機関ごとに異なり、公表されていません(金融庁・信用保証協会の公表資料を検索した範囲では、この2つの指標の統一基準は見当たりませんでした。2026年9月22日確認)。
決算前に見直す実態3点:役員貸付金・在庫・滞留債権
決算日までに見直せる代表的な項目は次の3つです。
1. 役員貸付金
会社が役員に貸したお金(役員貸付金)は、決算書の資産の部に計上されますが、銀行審査では実質的な資産とみなされず、むしろマイナス評価の対象になるという解説があります。回収の見込みが不透明な貸付金が資産に計上されていると、実質的な自己資本が見た目より薄いと判断されるためです。解消方法としては、役員報酬・役員賞与から返済させる方法、将来の役員退職金と相殺する方法、役員が保有する不動産・有価証券などの現物資産で返済する方法、DES(デット・エクイティ・スワップ、債務の資本組み入れ)によって資本金に振り替える方法などが紹介されています。これらは決算日までに実行して初めて、その期の決算書の残高に反映されます。
2. 在庫の実態
決算日時点の棚卸資産(在庫)は、実地棚卸によって数量を確定させ、販売の見込みがなくなった不良在庫は評価損として処理することを検討します。ただし税務上、評価損を損金にできるのは、破損・型崩れ・品質変化や著しい陳腐化(季節商品の売れ残り、新製品の発売で売れなくなったものなど)といった特別な事実がある場合に限られ、物価変動や過剰生産で時価が下がっただけでは認められません(法人税法第33条、国税庁の法人税基本通達「棚卸資産の評価損」、2026年9月22日確認)。実態と合わない在庫が資産として計上されたままだと、決算書上の資産は実際より過大に見え、後で実態が発覚したときに信用を損なう要因になります。
3. 滞留している売掛金
回収が長期間止まっている売掛金も、決算日時点で残高として資産に計上され続けます。回収の見込みがほとんど無いものは、貸倒引当金の計上や、税務上の要件を満たす場合の貸倒処理を検討します。税務上の貸倒引当金(法人税法第52条)を設定できるのは、資本金1億円以下の中小普通法人(大法人の完全支配下にあるものを除く)などに限られます(国税庁タックスアンサーNo.5501、2026年9月22日確認)。貸倒損失には、法的に債権が切り捨てられた場合、債務者の資力から全額回収できないことが明らかな場合、継続取引のあった相手との取引停止から1年以上たって弁済がない場合(売掛債権)といった類型があります(同No.5320、2026年9月22日確認)。どれに当たるかは、個別の事情で変わります。売掛金の回収が長期化している場合の対処は入金サイトが長い取引先への対処でも整理しています。
やっていいことと、やってはいけないことの境界
決算前の実態整理と、粉飾決算の境界は「実際に取引を行ったかどうか」にあります。
| やっていいこと(実態整理) | やってはいけないこと(粉飾) | |
|---|---|---|
| 役員貸付金 | 実際に返済・相殺する取引を決算日までに行う | 返済していないのに返済したように記帳する |
| 在庫 | 実地棚卸で数量を確認し、不良在庫を評価損で計上する | 実際には無い在庫を帳簿上だけ存在させる |
| 売上 | 決算日までに実際に納品・検収が完了したものを計上する | 翌期の売上を決算日以前の日付で前倒し計上する |
| 経費 | 発生した経費を正しい期に計上する | 発生した経費を翌期に先送りして当期利益を水増しする |
決算書に虚偽の記載をして銀行から融資を受けた場合、詐欺罪(刑法第246条第1項、10年以下の拘禁刑)に該当しうるとされています。粉飾決算に関連する罪としては、ほかに違法配当を行った場合の会社法第963条(5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科)、取締役等が粉飾により会社に損害を与えた場合の特別背任罪(会社法第960条、10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金またはこれらの併科)が紹介されています(2026年9月確認、いずれも個別の事案への当てはめは弁護士に確認が必要です)。なお、従来「懲役」とされていた刑罰は、2025年6月1日施行の刑法等改正により「拘禁刑」に一本化されています。「見せ方を工夫する」という言葉が、実際の取引を伴わない数字の作り変えを指しているなら、それは対策ではなくリスクです。
決算後にやること:試算表を切らさない
決算日を過ぎたら、次にやるべきことは試算表を毎月止めずに作成し続けることです。決算書は年に1回の数字ですが、金融機関は決算後の資金繰りの状況を、月次の試算表で確認します。決算から時間が経つほど決算書の数字は古くなるため、直近の試算表が無いと、金融機関は最新の状況を判断する材料を持てません。資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方で整理しています。
実体験:決算前の銀行対応を管理部門側から見てきて
前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括する立場にいました。決算期が近づくと、顧問税理士と一緒に試算表の数字を確認し、在庫の評価や滞留している債権の扱いについて何度もすり合わせをした記憶があります。銀行の担当者との面談でも、聞かれるのは「今期の利益がいくらか」よりも、「なぜこの数字になったのか」「来期はどう見ているか」という説明のほうが多かった印象があります。
数字を良く見せる工夫よりも、決算日までに整理できるものは整理し、整理しきれなかったものは正直に説明できる状態にしておくことのほうが、結果として面談がスムーズに進んだと感じています。これは私自身が銀行担当者との面談に同席した経験に基づく実感であり、すべての金融機関・案件に当てはまるとは限りません。
次にやること
まず、直近の試算表を出して、役員貸付金・在庫・売掛金の残高のうち「実態と合っていないもの」がないかを確認してください。 そのうえで、決算日までに実行できる整理(返済・相殺・評価損の計上など)があれば、顧問税理士に相談しながら決算日までに手を打ってください。決算日を過ぎてからでは、その期の数字には反映できません。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。自己資本比率・債務償還年数の目安値は金融機関・信用保証協会が公式に定めた基準ではなく、複数の専門家サイトが紹介する実務上の目安です。実際の審査基準は金融機関ごとに異なり公表されていません。個別の税務・法的判断については、税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
出典 - 刑法第246条第1項(詐欺罪、10年以下の拘禁刑)(2026年9月7日、条文原文で確認) - 会社法第960条(特別背任罪)・第963条(会社財産を危うくする罪)(2026年9月7日、条文原文で確認。いずれも2025年6月1日施行の刑法等改正により「懲役」から「拘禁刑」に改められている) - 融資の決定打!スコアリング項目の債務償還年数を解説|株式会社エフアンドエム https://www.fmclub.jp/blog/zaimu/121(2026年9月7日確認) - 自己資本比率の目安は?業種別平均・計算方法・高める方法を公認会計士・税理士が解説 https://relyne-kaikei.com/資金調達・資金繰り/equity-ratio/(2026年9月7日確認) - 中小企業実態基本調査 令和7年確報(令和6年度決算実績) 2.資産及び負債・純資産(法人企業)(2)産業中分類別表|中小企業庁・e-Stat(政府統計の総合窓口) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00553010&tstat=000001019842&cycle=7&tclass1=000001244536&tclass2=000001244537&tclass3val=0(公開日2026年6月29日。原表(Excel)を直接取得し、純資産÷資産の計算値が本文の数値と完全一致することを確認。2026年9月23日確認) - 役員貸付金とは|融資審査への影響と7つの解消方法|会社設立のミチシルベ https://www.soico.jp/no1/news/cardloan/16729(2026年9月7日確認) - 国税庁 タックスアンサー No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5501.htm(2026年9月22日確認) - 国税庁 タックスアンサー No.5320 貸倒損失(貸倒れとして損金にできる場合) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5320.htm(2026年9月22日確認) - 国税庁 法人税基本通達 第9款 棚卸資産の評価損 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm(2026年9月22日確認) - 粉飾決算で問われる罪とは? 具体事例や罰金、刑事罰の内容|ベリーベスト法律事務所 https://corporate.vbest.jp/columns/6180/(2026年9月7日確認) - 粉飾決算で融資を受けた会社の破産|代表者の詐欺罪・免責不許可|弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所 https://lawmirai.jp/kobe/column/7220/(2026年9月7日確認)