取引先の与信調査を無料でする方法
- 国税庁法人番号公表サイトは番号法に基づき運営され、商号・本店所在地・法人番号の基本3情報を誰でも無料で検索できる
- 登記情報提供サービス(一般財団法人民事法務協会運営)は全部事項(商業・法人)の情報を330円(登記手数料320円+指定法人手数料10円)で閲覧できるが、これは証明書ではなく閲覧用の情報であり、正式な証明書が必要な場合は登記・供託オンライン申請システムか法務局窓口を使う(法務省「登記情報提供サービスの利用料金等一覧」2026年4月1日時点の料金)
- 官報発行サイト(内閣府が2025年4月1日に開設、https://www.kanpo.go.jp)では、破産・特別清算などの倒産手続きに関する公告を発行から90日間無料で閲覧・ダウンロードできる
- 無料で確認できるのは「法人として実在するか」「倒産歴・法的手続きの履歴があるか」までで、決算書レベルの支払い能力・資金繰りの実態は無料調査では分からない
この記事の内容
この記事は、新しい取引先から発注や契約の話が来ていて、契約前にどこまで相手を調べればいいのか分からない一人社長・小規模事業者に向けて書いています。 結論から言うと、無料で確認できるのは「法人として実在するか」「登記情報に不自然な点がないか」「倒産・法的手続きの履歴がないか」までで、相手の資金繰りの実態や支払い能力そのものは、無料の調査では分かりません。この記事では、無料で使える公的サービスの具体的な使い方と、無料調査の限界をどう取引条件でカバーするかを順番に説明します。
- 新しい取引先と契約する前に、信用調査会社に頼む予算はないが、何もせず契約するのも不安
- 「怪しい会社ではないか」を確認したいが、どこを見ればいいのか分からない
- 無料でできることと、お金を払わないと分からないことの境目を知りたい
結論:無料でわかるのは「実在」と「履歴」まで
新規取引先の与信チェックというと、帝国データバンクや東京商工リサーチのような信用調査会社に依頼する調査報告書を思い浮かべるかもしれませんが、これは1件あたり数万円かかることが多く、小規模な取引のたびに使える金額ではありません。
一方で、費用をかけずに確認できる範囲も、実は思っているより広くあります。 具体的には次の3つです。
- その法人が実在するか(法人番号・商号・所在地)
- 登記情報に不自然な点がないか(頻繁な移転・代表者変更など)
- 破産・特別清算などの倒産手続きの履歴がないか
逆に、決算内容や資金繰りの実態、支払い能力そのものは、相手が開示しない限り無料では分かりません。無料調査でできることとできないことの境目を知ったうえで使うのが、この記事の狙いです。
まず全体像:無料で確認できる範囲
| 確認したいこと | 使えるもの | 費用 |
|---|---|---|
| 法人として実在するか | 国税庁法人番号公表サイト | 無料 |
| 登記情報(商号・所在地・役員・資本金等) | 登記情報提供サービス(閲覧) | 330円/件(2026年4月1日時点。法務省公表料金) |
| 登記情報を正式な証明書として使いたい | 登記・供託オンライン申請システム、法務局窓口 | 有料(証明書発行手数料) |
| 破産・特別清算などの倒産歴 | 官報発行サイト | 無料(発行から90日間) |
| 事業実態・営業年数の目安 | 公式サイト・SNS・地図アプリの口コミ | 無料 |
| 財務内容・支払い能力の詳細 | 信用調査会社の報告書、または本人からの決算書開示 | 有料、または相手の任意開示次第 |
この表の上から3段が、費用をかけずに使える調査です。順番に見ていきます。
法人として実在するかを確認する:国税庁法人番号公表サイト
まず確認すべきは、「その法人が本当に存在するか」です。名刺や契約書に書かれた会社名・所在地が実在するかどうかは、国税庁法人番号公表サイト(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/)で無料で確認できます。
このサイトは、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)に基づいて国税庁が運営しており、法人番号の指定を受けた法人について、商号(または名称)・本店(または主たる事務所)の所在地・法人番号という基本3情報を、誰でも無料で検索できます(国税庁法人番号公表サイトによる)。会社名または法人番号のどちらからでも検索できるため、相手から提示された情報が実在するものと一致するかを、契約前に必ず照合してください。
ここで一致しない、あるいはヒットしない場合は、名刺・請求書に書かれた法人自体が実在しない可能性があるため、契約を進める前に相手に確認する必要があります。
登記情報を確認する:登記情報提供サービス
法人の実在が確認できたら、次に見るのは登記情報です。役員構成、資本金、本店移転の履歴、設立年月日などが分かります。
無料ではありませんが、登記情報提供サービス(一般財団法人民事法務協会が運営)を使えば、法務局の窓口に行かなくても、全部事項(商業・法人)の情報を1件330円(登記手数料320円+指定法人手数料10円。2026年4月1日時点の料金。法務省「登記情報提供サービスの利用料金等一覧」による)で確認できます。
ここで注意が必要なのは、このサービスで取得できるのは証明書ではなく、閲覧用の情報だという点です(登記情報提供サービス公式サイト「証明文や公印等」の説明による。当サービスは「閲覧」と同等のサービスであり、登記事項証明書とは異なり証明文や公印等は付加されないと明記されています)。登記官の認証文や登記官印が付かないため、契約書に添付する正式な証明書としては使えません。あくまで「自社が内部で確認するための情報」という位置づけです。取引先から正式な証明書の提出を求める場合は、相手自身に法務局で履歴事項全部証明書を取得してもらうか、登記・供託オンライン申請システムを利用することになります。
確認すべきポイントは次のとおりです。
- 設立から日が浅すぎないか(極端に新しい法人との高額取引はリスクが高い)
- 本店所在地の移転を短期間に繰り返していないか
- 代表者や役員が頻繁に変わっていないか
- 資本金の額が、取引規模に見合っているか
これらは「絶対にダメ」という基準があるわけではありませんが、複数の不自然な点が重なる場合は、契約金額を抑える・前払いにするなど、取引条件を慎重にする材料になります。
倒産歴を確認する:官報発行サイト
もう一つ、無料で確認できる重要な情報が、破産・特別清算などの倒産手続きに関する公告です。これらの手続きが開始されると、裁判所は官報にその旨を公告します。
官報は、内閣府が2025年4月1日に開設した官報発行サイト(https://www.kanpo.go.jp)で、発行から90日間、原則として無料で閲覧・ダウンロードできます(内閣府公式サイトによる。90日を過ぎた分は有料の官報情報検索サービスを利用することになります)。
会社名や代表者名で直近の官報を確認し、破産手続開始決定や特別清算開始命令などの公告が出ていないかをチェックしてください。ただし、90日より前の履歴を無料で遡って調べることはできないため、「直近に倒産手続きが出ていないか」を確認する用途に限られる点は理解しておく必要があります。過去の倒産歴まで含めて調べたい場合は、有料の官報情報検索サービスか、信用調査会社の報告書が必要になります。
ネット上の実態を確認する
登記情報や官報だけでは分からない「事業として実際に動いているか」は、公開情報を組み合わせて確認します。
- 公式サイトが存在するか、更新が止まっていないか
- 会社所在地が地図アプリ上で実在する建物・テナントか(バーチャルオフィスの可能性も含めて確認)
- SNSアカウントの活動が継続しているか
- 検索した際に、支払い遅延や契約トラブルに関する口コミ・報道が出てこないか
これらは1つひとつが決定的な証拠にはなりませんが、複数の情報を突き合わせたときに違和感が残るかどうかが判断材料になります。調査した範囲でこの記事に書けるのはここまでで、個別の取引先について「危険かどうか」を断定することはできません。
無料調査では分からないこと
ここまでの方法で確認できるのは、法人の実在性・登記情報・倒産歴・ネット上の実態までです。一方で、次の情報は無料調査では分かりません。
- 直近の売上・利益・借入金などの決算内容
- 現在の資金繰り(支払いが遅れがちかどうか)
- 他の取引先への支払い状況
これらを知るには、信用調査会社(帝国データバンク、東京商工リサーチなど)に依頼して調査報告書を取得するか、取引先本人に決算書の開示を求めるしかありません。東京商工リサーチの公式料金表によれば、調査報告書(TSR REPORT)は会員外で1件5万円+付帯料金、tsr-van2会員などでは1件3万円+付帯料金で、ポイント制の大口契約であれば1件あたり1万5千円程度まで下がります(東京商工リサーチ公式サイト「調査料金表」2026年9月確認)。帝国データバンクは公式サイトに固定料金を公開しておらず、会員登録のうえで個別見積もりとなります(帝国データバンク公式サイト確認、2026年9月)。いずれにしても数千円で済むものではなく、継続的に大きな金額を取引する相手であれば検討する価値があります。
無料調査の限界を、取引条件でカバーする
無料調査だけでは相手の支払い能力までは分からない以上、調査で埋まらない不安は、取引条件の設計でカバーするという考え方が実務的です。具体的には次のような方法があります。
- 初回取引は少額・小ロットから始め、支払い実績を見てから取引を拡大する
- 掛け売りではなく、前払いまたは代金引換から始める
- 取引先ごとに与信限度額(掛け売りで許容する上限金額)を自社内で決めておく
- 支払いサイトを短くする(月末締め翌月末払いより、締め後2週間払いのほうがリスク期間が短い)
これらは相手の信用力を上げる方法ではなく、万一支払いが滞ったときに自社が被る損失を、あらかじめ小さくしておく方法です。無料調査で「特に問題なさそう」と判断できた相手であっても、初回取引からいきなり大きな金額・長い支払いサイトで契約するのは避けたほうがよいというのが、この記事で示せる実務上の考え方です。
なお、実際に取引先が倒産して売掛金の回収が問題になった場合の対応は、073で扱っています。
次にやること
契約前に、国税庁法人番号公表サイトで法人の実在を確認し、官報発行サイトで直近90日以内に倒産手続きの公告が出ていないかをチェックしてください。この2つは無料・数分ででき、最低限のリスクを除外できます。そのうえで取引金額が大きい場合は、登記情報提供サービス(330円)で登記内容を確認するかどうかを判断してください。