リスケ中の資金繰り
- リスケ(返済条件の変更)に応じた債務者に対し、金融庁の監督指針は「貸付けの条件の変更等の履歴があることのみをもって、新規融資や条件変更の申込みを謝絶していないか」を金融機関の評価項目としているが(金融庁「金融監督に関する指針」、2026年9月確認)、実務上は返済原資を示しにくいリスケ中の事業者への新規融資は難しくなる傾向がある(複数の税理士事務所・資金調達サービスの解説記事、2026年9月確認)
- ファクタリングは、契約上売主が償還請求権(リコース)を負わず不払いリスクが買取業者に実質的に移転していると評価できる場合は債権の売買(債権譲渡)として貸金業に該当しないとされるが、経済的な実態が貸付けと同様のものは貸金業に該当するおそれがあると金融庁が注意喚起している(金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」、東京地裁令和2年9月18日判決・東京高裁令和4年6月15日判決、2026年9月確認)
- 経営改善計画策定支援事業(通称405事業)は、認定経営革新等支援機関の支援を受けて経営改善計画を策定する費用を中小企業活性化協議会が3分の2(通常枠上限300万円)負担する制度(中小企業庁の公式解説・中小企業基盤整備機構の解説、2026年9月確認)
この記事の内容
この記事は、銀行融資の返済条件変更(リスケ)に応じてもらったばかりで、次に資金が足りなくなったときどうすればいいか分からない小規模事業者・一人社長に向けて書いています。 結論から言うと、リスケ中は新規の追加融資を前提にせず、①資金繰り表で先の見通しを可視化する、②支払・入金サイトのずれを詰める、③固定費と資産を見直して現金を作る、④売掛金があればファクタリング(借入ではない資金化手段)を検討する、⑤経営改善計画の実行報告を止めない、という順番で組み立てるのが現実的です。
- リスケに応じてもらったばかりで、次にまた資金が足りなくなったらどうすればいいか分からない
- 銀行に「追加の融資は難しい」と言われ、正直このあとどう回せばいいのか見えていない
- ファクタリングなど借入以外の方法が、リスケ中の自分でも使えるのか分からない
結論:借入を前提にせず5つの手を順番に組む
リスケ(返済条件の変更)に応じてもらえたこと自体は、資金繰りの危機を先送りできたという意味で一つの区切りです。ただし、そこから先の資金繰りを「また借りて埋める」という発想で組み立てようとすると、次の壁にぶつかります。リスケ中は、金融機関からも日本政策金融公庫からも新規の追加融資を受けにくくなるのが実務上の一般的な傾向だからです。
だからこそ、リスケ中の資金繰りは「借りずに回す」ことを前提に組み立て直す必要があります。具体的には、①資金繰り表で先の入出金を可視化する、②支払サイトと入金サイトのずれを詰める、③固定費と遊休資産を見直して現金を作る、④売掛金があればファクタリングという借入以外の資金化手段を検討する、⑤経営改善計画の実行報告を止めない、の5つです。この5つは単独でも効きますが、上から順に手をつけるほど土台がしっかりします。
なぜリスケ中は新規融資が受けにくいのか
まず、なぜリスケ中は追加融資が難しくなるのかを整理しておきます。金融庁の「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針」は、金融機関の監督上の評価項目として、貸付条件の変更等を行った債務者に対して適切に信用供与を行うべきであり、貸付条件の変更等の履歴があることのみをもって新規融資や条件変更の申込みを謝絶していないかを挙げています(金融庁の公式ページより)。つまり、リスケの履歴があるという理由「だけ」で新規融資を拒否することは、制度の建前としては想定されていません。
ただし、これは「リスケ中でも普通に借りられる」ことを保証する話ではありません。新規融資の審査では、リスケの履歴とは別に、今後の返済原資(利益とキャッシュフローの見通し)が示せるかどうかが見られます。リスケ中の事業者は、その返済原資を数字で示しにくい状態にあることが多いため、結果として新規融資が難しくなる、というのが実務上の一般的な流れです(複数の税理士事務所・資金調達サービスの解説記事に共通する説明)。制度上は「履歴だけを理由にした謝絶」を禁じているが、実務上は返済原資の説明の難しさが壁になる、という2段階で理解しておくと、金融機関の対応に一喜一憂せずに済みます。
資金繰り表を「実績+3ヶ月先」で運用し直す
リスケ中に金融機関との関係で最も問われるのは、「次に資金が足りなくなる時期と金額を、自分で先に把握できているか」です。感覚ではなく数字で示せる状態を、資金繰り表で作っておく必要があります。
資金繰り表は、リスケ前から作っていた場合でも、リスケ中は運用の仕方を変える必要があります。ポイントは、過去の実績だけでなく、今後3ヶ月分の入出金の見込みまで含めて更新し続けることです。売上・仕入・固定費・返済額(リスケ後の圧縮された金額)を並べ、月末時点の現預金残高がどう推移するかを毎月確認します。資金繰り表の具体的な作り方は資金繰り表の作り方|一人社長は3列で足りるで整理しています。
この資金繰り表は、自分のためだけのものではありません。リスケ中は、金融機関から定期的な報告を求められることが一般的で、その際に「先の見通しを持って経営している」ことを示す一番の材料になります。逆に、資金繰り表を更新せずに感覚だけで動いていると、次に資金が足りなくなったときに慌てて動くことになり、交渉の余地も狭くなります。
支払サイトと入金サイトのずれを詰める
借入に頼らずに手元の現金を増やす方法として、まず着手できるのが支払サイト(仕入先への支払いまでの期間)と入金サイト(取引先からの入金までの期間)のずれを詰めることです。入金サイトが長く、支払サイトが短いと、売上が増えるほど手元の現金が先に減っていく構造になります。
具体的には、取引先ごとの入金サイトを一覧にし、特に長いところから交渉の余地がないかを確認します。自社が発注する側で、相手が中小受託事業者(旧・下請代金支払遅延等防止法における下請事業者)にあたる場合は、逆に自社が支払いを遅らせることが中小受託取引適正化法(通称・取適法。旧下請法が2026年1月1日付で改称)に触れる可能性がある点にも注意が必要です(公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」、2026年9月確認)。支払サイトと入金サイトのずれを詰める交渉の順番は入金サイトと支払サイトのずれを直す|交渉の順番で、下請法で守られる範囲は入金サイトが長い取引先への対処|下請法で守られる範囲で、それぞれ整理しています。
固定費と遊休資産を見直して現金を作る
支払・入金サイトの調整と並行して、固定費の見直しと遊休資産の現金化にも着手します。固定費は、リスケの合意時に提出した経営改善計画に削減目標を盛り込んでいることが多く、計画どおりに実行できているかどうかは金融機関からの見え方にも直結します。削る順番の考え方は固定費の下げ方|資金繰りが苦しいときに削る順番で整理しています。
固定費の見直しだけで足りない場合は、使っていない設備・車両・在庫など、事業に直接使っていない資産を現金化できないかも確認します。売却の可否や金額感は個別の資産ごとに異なるため、ここでは「見直しの対象に入れる」という考え方の整理にとどめます。
売掛金があればファクタリングも選択肢に入る
新規融資が難しい状況でも、売掛金(取引先への請求済みの債権)があれば、ファクタリングという選択肢が残ります。ファクタリングは、事業者が保有する売掛債権を期日前に一定の手数料を差し引いて買い取ってもらう取引です。契約上、売主が償還請求権(リコース)を負わず、不払いリスクが実質的に買取業者へ移転していると評価できる場合は、法的には債権の売買(債権譲渡)であり、金銭の貸し借り(貸付け)には該当しないと判断されています(東京地裁令和2年9月18日判決、東京高裁令和4年6月15日判決)。ただし金融庁は、契約の名目にかかわらず経済的な実態が貸付けと同様のもの(実質的な買戻し義務や返済義務が伴うものなど)は貸金業に該当するおそれがあると注意喚起しています(金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」)。「ファクタリングだから一律に貸金業規制の対象外」と決めつけず、契約内容の実質で判断される点に注意してください。
この「借入とは別枠で判断される」という性質が、リスケ中の資金繰りにとって意味を持ちます。リスケの合意は既存の借入(金銭消費貸借契約)の返済条件についての取り決めであり、真正なファクタリング(償還請求権なしの債権譲渡)はその枠の外にある取引だからです。ただし、ファクタリングは手数料が発生するため、毎月の資金繰りの前提として常用すると、その分だけ手元に残る現金が減り続ける点には注意が必要です。単発の資金化手段として使うのか、繰り返し使う前提にしてしまっているのかは、資金繰り表を見ながら定期的に確認してください。契約前には、契約書に償還請求権なし(ノンリコース)と明記されているか、手数料が売掛金額に対して不自然に高額でないか(担保目的とみなされる水準でないか)の2点を必ず確認することをお勧めします。手数料そのものに公的な上限規制はありません。
経営改善計画の実行報告を止めない
リスケの合意は、多くの場合「経営改善計画」の提出とセットになっています。この計画は作って提出したら終わりではなく、実行状況を定期的に(多くは月次・四半期ごとに)金融機関へ報告し続けることが前提になっています。報告を怠ったり、計画と実績の差が説明できないまま放置したりすると、次のリスケの更新や条件の見直しを相談する際に、金融機関との信頼関係が弱くなります。
自力での計画策定が難しい場合は、経営改善計画策定支援事業(通称405事業)という制度があります。国が認定した経営革新等支援機関(税理士・中小企業診断士等)の支援を受けて本格的な経営改善計画を策定する際、その費用の3分の2(上限300万円)を中小企業活性化協議会が負担する仕組みです(中小企業庁の公式解説より)。すでにリスケの交渉自体を進めている場合は、コロナ融資(ゼロゼロ融資)の返済が苦しいときの選択肢でも、中小企業活性化協議会への相談窓口を扱っています。
比較表:借入とそれ以外の資金化手段の違い
| 手段 | 借入に該当するか | リスケへの影響 | 即効性 |
|---|---|---|---|
| 銀行・公庫からの新規融資 | 該当する | リスケ中は審査が通りにくい傾向 | 低い(審査に時間がかかる) |
| ファクタリング(売掛金の売買) | 償還請求権なしの真正な債権譲渡なら非該当 | 既存の借入契約とは別枠 | 高い(売掛金があれば数日〜) |
| 支払・入金サイトの見直し | 該当しない | 影響なし | 中(交渉の合意まで時間差) |
| 固定費・資産の見直し | 該当しない | 経営改善計画の実行として評価される | 中〜低(効果が出るまで数ヶ月) |
| 経営改善計画の実行報告 | 該当しない | 次のリスケ更新の可否を左右する | 低い(信頼構築は積み重ね) |
実体験:管理部門を統括した側から見たリスケ中の資金繰り
前職で執行役員として管理部門を統括していたとき、資金繰りが厳しい時期の社内資料として、資金繰り表を毎月更新し、金融機関への報告に使っていました。そこで実感したのは、リスケの交渉そのものよりも、その後の「資金繰り表を更新し続けて見せにいく」という地道な作業のほうが、金融機関との関係を保つうえで効いていたということです。
一度リスケに応じてもらえると、そこで気が緩んで報告が形だけになりがちですが、数字が計画とずれ始めたときに早めに説明できるかどうかで、次の交渉の余地はまったく変わってきます。借りずに回す組み立てというのは、突き詰めると「見通しを自分で持ち続けられているか」という一点に集約されると感じています。
次にやること
まず、今月の資金繰り表を開き、今後3ヶ月分の入出金の見込みまで書き込まれているかを確認してください。書き込まれていなければ、そこから手をつけるのが最初の一歩です。そのうえで、売掛金があればファクタリングの見積もりを1社分だけ取ってみる、経営改善計画の実行状況を金融機関にいつ報告したかを振り返る、という順で確認していくことをお勧めします。
Sources: - 中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針 | 金融庁 - ファクタリングの利用に関する注意喚起 | 金融庁 - 経営改善計画策定支援 | 中小企業庁 - 経営改善計画策定支援事業 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 - 中小受託取引適正化法(取適法)関係 | 公正取引委員会 - リスケジュール中の追加融資は可能か?資金調達の方法と注意点を解説 | CVMAX - リスケ中の融資は可能?リスケ中にできる8つの資金調達方法をご紹介 | キークレア税理士法人