小さな会社の資金繰りガイド 苦しくなる前の備えから、危機のときの順番まで
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経営者の個人資産を守る

この記事の結論
  • 会社(法人)と経営者(個人)は法律上別人格であり、会社の借金は原則として会社のものにとどまる
  • 個人資産に及ぶのは主に、経営者保証(連帯保証)を結んでいる場合と、会社法429条1項の役員の第三者に対する損害賠償責任(悪意または重過失で任務を怠った場合)の2つの経路である
  • 破産しても現金99万円は手元に残る(破産法34条3項1号・民事執行法131条3号・同法施行令1条)
  • 経営者保証に関するガイドラインを使うと、雇用保険の給付期間に応じた生計費相当額や華美でない自宅を法定の自由財産に上乗せして残せる可能性がある(廃業時の基本的考え方、2022年3月)
  • 小規模企業共済の共済金を受け取る権利は差し押さえられない(小規模企業共済法15条)
この記事の内容
  1. 結論:会社の借金が個人に及ぶのは「保証」と「役員の責任」の2経路だけ
  2. そもそも会社と経営者は別人格である
  3. 経路①経営者保証(連帯保証):自分で個人保証を結んでいる場合
  4. 経路②会社法429条:役員の第三者に対する損害賠償責任
  5. 日頃の資金混同も、いざというとき経営者に不利に働く
  6. 破産しても手元に残る現金:99万円という基準の仕組み
  7. 経営者保証ガイドラインを使うと、もっと残せる可能性がある
  8. 小規模企業共済は差し押さえられない
  9. 今のうちにやっておくこと
  10. 実体験:管理部門を統括した立場から見た「分ける」ことの意味
  11. 次にやること

この記事は、会社の資金繰りが厳しく、この先どうなっても自分と家族の生活だけは守りたいと考えている経営者に向けて書いています。 結論から言うと、会社(法人)と経営者(個人)は法律上別の人格であり、会社の借金は原則として会社のものにとどまります。個人資産に危機が及ぶのは、主に①経営者保証(連帯保証)を結んでいる場合、②会社法上、役員個人が第三者に損害賠償責任を負う場合、の2つの経路に限られます。逆に言えば、この2つの経路を把握し、日頃から法人と個人のお金を分けておけば、最悪の事態になっても手元に残せるものがあります。

こんな状態ではありませんか
  • 会社の資金繰りが厳しく、このままだと自宅や個人の預金まで失うのではないかと不安になっている
  • 「会社の借金は経営者個人にも及ぶ」という話をどこかで聞いたが、自分がどの立場に当てはまるのか分からない
  • 万が一のとき、生活費や自宅がどこまで守れるのか具体的に知りたい

結論:会社の借金が個人に及ぶのは「保証」と「役員の責任」の2経路だけ

会社が資金繰りに行き詰まっても、それだけで経営者個人の自宅や預金が自動的に差し押さえられるわけではありません。株式会社の場合、会社の債務について経営者(取締役)個人が責任を負うのは、主に次の2つの経路に限られます。

  1. 銀行融資や取引先との契約で、経営者自身が連帯保証人になっている(経営者保証)
  2. 会社法429条1項により、役員が悪意または重大な過失で任務を怠り、その結果第三者に損害を与えたと認められる

この2つの経路を避けている(または整理できている)限り、会社の借金そのものは会社の債務にとどまります。まずはこの2つの経路のどちらに自分が当てはまるのかを確認することが、生活防衛の出発点になります。

そもそも会社と経営者は別人格である

株式会社は法律上、出資者(株主)や経営者(取締役)とは独立した「法人」として権利義務の主体になります。株主は自分が出資した金額の範囲でしか責任を負わない「株主有限責任」が原則であり、会社法104条は株主の責任について「その有する株式の引受価額を限度とする」と定めています(会社法第104条)。取締役についても同様に、会社の借入や取引債務について、個人として連帯保証をしていない限り、原則として自分の財産で弁済する義務は負いません。

この「別人格」の原則があるからこそ、経営者保証がここまで重要な論点になります。金融機関が経営者保証を求めるのは、法律上当然に及ぶわけではない経営者個人の責任を、契約によってあえて作り出しているからです。経営者保証を外す条件や交渉の進め方は[融資の連帯保証|経営者保証を外す条件]で詳しく整理しています。

経路①経営者保証(連帯保証):自分で個人保証を結んでいる場合

もっとも典型的な経路が、融資契約書に経営者自身が連帯保証人として署名しているケースです。会社が返済できなくなると、金融機関は連帯保証人である経営者個人に対して、会社の債務の返済を直接請求できます。この場合、自宅や預金といった個人資産が返済原資として問題になります。

自分がどの融資に、どの範囲で保証を付けているかを正確に把握できていない経営者は少なくありません。まず契約書を確認し、保証の対象になっている融資の残高を洗い出すことが最初の一歩です。保証を外せる可能性があるかどうかは、法人と個人の資金の分離・財務基盤・情報開示という3要件で判断されます(詳細は[融資の連帯保証|経営者保証を外す条件]を参照)。

経路②会社法429条:役員の第三者に対する損害賠償責任

連帯保証をしていなくても、経営者個人が責任を問われる経路がもう一つあります。会社法429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています(会社法第429条第1項)。

これは、経営が苦しくなったこと自体を罰する条文ではありません。判例上、この責任は会社が経済社会で重要な地位を占め、会社の活動が取締役の職務執行に依存していることを踏まえた「第三者保護」のための規定と位置づけられています(弁護士による解説記事に基づく整理、2026年9月確認)。実際に問題になりやすいのは、資金繰りが破綻することが分かっていながら、それを取引先に隠したまま新たな発注や取引を続け、支払不能に陥らせたようなケースです。「経営が苦しい」ことと「悪意・重過失で第三者に損害を与えた」ことは別の話であり、資金繰りに窮したという事実だけで直ちにこの責任が発生するわけではありません。ただし、資金繰りの窮状を隠したまま取引を継続する行為は、この責任が問題になりうる典型例として意識しておく必要があります。

日頃の資金混同も、いざというとき経営者に不利に働く

経営者保証にも役員の第三者責任にも直接はあたらない場合でも、法人と経営者個人のお金が日常的に混同していると、いざというときに不利に働きます。会社の経費に個人の支出が紛れている、経営者への貸付金・仮払金が整理されないまま残っている、といった状態は、金融機関との交渉や、後述する経営者保証ガイドラインを使った資産の切り分けの場面で、経営者個人の資産と会社の資産の境界を曖昧にしてしまいます。

ここが要点

「別人格だから会社の借金は個人に及ばない」という原則は、法人と個人のお金が実際に分かれていて初めて意味を持ちます。日頃から口座・経費・貸付金を分けておくことは、危機が来てからでは間に合わない準備です。

融資の使い道を法人の目的以外(経営者個人の生活費や住宅ローンの返済など)に回すことも、契約上の資金使途違反にあたり、一括返済を求められる原因になります。この点は[融資の資金使途違反はなぜまずいか|転用がバレる仕組み]で整理しています。

破産しても手元に残る現金:99万円という基準の仕組み

経営者保証を結んでいて、その保証債務についても返済しきれず自己破産に至った場合でも、法律上、手元に残せる財産(自由財産)があります。破産法34条3項1号は、民事執行法131条3号に定める金額に2分の3(1.5倍)を乗じた額の金銭を、破産財団に属しない財産(本来的自由財産)として定めています(破産法第34条第3項第1号)。

民事執行法131条3号は、差し押さえてはいけない金銭として「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額」を挙げ、その額は同法施行令1条により66万円と定められています(民事執行法第131条第3号、民事執行法施行令第1条)。この66万円に2分の3(1.5倍)を乗じると99万円になり、これが破産手続で自動的に(裁判所の判断を待たずに)手元に残せる現金の基準額です。

さらに破産法34条4項は、裁判所が破産者の生活状況や収入の見込みなどを考慮して、破産手続開始決定があった時からその決定が確定した日以後1か月を経過する日までの間、この自由財産の範囲を拡張できると定めています(破産法第34条第4項)。つまり99万円は最低ラインであり、個別の事情によってはそれ以上を残せる余地があります。

経営者保証ガイドラインを使うと、もっと残せる可能性がある

破産という法的整理に進む前に、経営者保証に関するガイドラインに沿った私的整理(廃業時の保証債務整理)を選べば、破産の自由財産よりも多くの資産を手元に残せる可能性があります。「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(令和4年3月、経営者保証に関するガイドライン研究会)は、経営者に残せる資産(インセンティブ資産)として、①一定期間の生計費に相当する額、②華美でない自宅、③その他の資産、を挙げています(同基本的考え方、2026年9月確認)。

①の生計費相当額は、雇用保険の基本手当の給付期間と、月額33万円(前述の民事執行法施行令の基準を参考にした額)を掛け合わせて算定する考え方が紹介されています。雇用保険の給付期間は年齢や被保険者期間によって異なり、45歳以上60歳未満で被保険者期間20年以上などの最も長い区分では330日(11か月)とされているため、この考え方に沿うと33万円×11か月で363万円程度が目安になり得ます(法律事務所の解説記事による整理、2026年9月確認)。②の華美でない自宅については、ローン残高が自宅の価値を上回っている(オーバーローン)場合は残しやすい一方、無担保やアンダーローンの場合は周辺相場・同居家族の状況などを踏まえて個別に判断されるとされています(同、2026年9月確認)。

この生計費相当額や自宅の扱いは、あくまで金融機関との協議・専門家の関与を前提とした私的整理の枠組みの中で検討されるものであり、破産のように自動的に確保できる金額ではありません。 保証債務の整理を検討する段階になったら、早い時期に弁護士や中小企業活性化協議会に相談し、この枠組みが使えるかどうかを確認することが重要です。

小規模企業共済は差し押さえられない

経営者個人の老後・退職金代わりとして加入する小規模企業共済についても、法律で保護された財産です。小規模企業共済法15条は「共済金等の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない」と定めています(小規模企業共済法第15条)。これにより、共済金を受け取る権利は破産法上も差押禁止財産(本来的自由財産)として扱われ、破産財団に組み込まれません(破産法第34条第3項の考え方に基づく整理、2026年9月確認)。

一方、経営者保険などの生命保険の解約返戻金は、この差押禁止の対象には含まれず、原則として財産として評価の対象になります。生命保険を資金繰りの手当てに使う契約者貸付という選択肢については[生命保険の契約者貸付という選択肢|経営者保険から借りる]で整理しています。「経営者向けの積立」であっても、制度によって法律上の扱いがまったく違う、という点は押さえておく必要があります。

今のうちにやっておくこと

危機が実際に来てから慌てて動くのではなく、平時のうちにできることは次の3点です。

やること 目的
自分が結んでいる保証(連帯保証)の対象融資と残高を一覧化する 個人資産に及ぶ範囲を正確に把握する
会社の口座・経費・貸付金/仮払金から、経営者個人の支出を切り離す 資金混同を解消し、ガイドライン適用時の資産区分を明確にしておく
小規模企業共済への加入状況を確認する 差押禁止財産として、いざというときの生活基盤を確保する

これらは資金繰りが悪化してからではなく、経営が安定している時期にこそ整えておく方が、後で選べる選択肢が広がります。

実体験:管理部門を統括した立場から見た「分ける」ことの意味

私の場合

正直に書きます。私自身が経営者として、会社の危機の中で自分の個人資産を守る手続きを取った経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は「守る側」として体験した事実ではなく、会社として法人と経営者個人のお金の境界を管理する側で見てきた事実に基づいて書いています。

その立場で感じていたのは、法人と個人のお金が日頃から明確に分かれている会社ほど、金融機関や専門家との話がシンプルに進む、ということでした。逆に、経営者への貸付金や仮払金が整理されないまま何年も残っている状態だと、いざ資産の状況を説明しなければならない場面で、どこまでが会社の資産でどこからが個人の資産なのかを一つひとつ確認する作業に時間を取られていました。「別人格だから守られる」という原則を実際に機能させるには、日頃の帳簿がその原則どおりに整理されている必要がある、というのが実感です。

次にやること

まず、自分が個人として結んでいる保証(連帯保証)の対象になっている融資を一覧にし、その残高を確認してください。 保証がある場合は、その保証を外せる可能性があるか、あるいは万が一の際に経営者保証ガイドラインの私的整理が使えるかを、早めに弁護士や中小企業活性化協議会に相談することをおすすめします。保証がない場合でも、会社の経費と個人の支出、貸付金・仮払金が混ざっていないかを、直近の試算表で確認してください。


※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。個別の保証契約・資産状況・法的整理の判断については、弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

出典 - 会社法第104条(株主の責任)、会社法第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)(2026年9月7日、条文原文で確認) - 破産法第34条第3項第1号・第4項(破産財団の範囲、自由財産の拡張)(2026年9月7日、条文原文で確認) - 民事執行法第131条第3号(差押禁止動産・金銭)、民事執行法施行令第1条(政令で定める額・66万円)(2026年9月7日、条文原文で確認) - 小規模企業共済法第15条(譲渡し等の禁止)(2026年9月7日、条文原文で確認) - 廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方(令和4年3月、経営者保証に関するガイドライン研究会)、金融庁公式サイト掲載 https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20231213/03.pdf(2026年9月7日、公式サイトの掲載を確認。本文の生計費計算・自宅の扱いの具体例は下記の法律事務所解説記事で補足) - 「経営者保証に関するガイドライン」~残存資産の範囲|あすか法律事務所 https://www.asuka-c.com/cms/blog/%E3%80%8C%E7%B5%8C%E5%96%B6%E8%80%85%E4%BF%9D%E8%A8%BC%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%80%8D%EF%BD%9E%E6%AE%8B%E5%AD%98%E8%B3%87%E7%94%A3/(2026年9月7日確認) - 会社法429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)の判例上の位置づけ:取締役の第三者に対する責任(会社法429条)|赤塚総合法律事務所 https://akatsuka-law.jp/column/director-liability-against-third-party.html(2026年9月7日確認)

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執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

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