運転資金の計算式
- 経常運転資金は「売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産(在庫)-買入債務(買掛金・支払手形)」で計算できる(在高方式。弥生株式会社「資金調達ナビ」、資金調達フリー「金融ナビ」の解説記事で確認、2026年9月12日確認)
- 貸借対照表の数字をそのまま当てはめるだけで出せる、最も手早い算出方法
- もう一つの回転期間方式は「1日当たり平均売上×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)」で計算し、入金と支払のタイムラグを日数で捉える(資金調達フリー「金融ナビ」の解説記事で確認、2026年9月12日確認)
- 2つの方式は棚卸資産を売価ベースか原価ベースかで計算するため結果が完全には一致しないことがある
- 計算して出た金額は資金繰り表への反映と、融資を申し込む際の必要額の説明にそのまま使える
この記事の内容
この記事は、「運転資金がいくら必要か」を感覚ではなく数字で出したい個人事業主・中小企業の経営者に向けて書いています。 銀行や日本政策金融公庫に相談する前に、「うちはだいたい月商の2ヶ月分くらい」という曖昧な感覚ではなく、自社の貸借対照表の数字から計算した金額を持っていきたい、という場面を想定しています。結論から言うと、運転資金は「売上債権(売掛金など)+棚卸資産(在庫)-買入債務(買掛金など)」という計算式に、自社の数字を当てはめるだけで出せます。
- 運転資金がいくら必要かを聞かれても、感覚でしか答えられない
- 銀行や公庫に相談する前に、自分の会社の数字で計算しておきたい
- 計算式はあるらしいが、自社の貸借対照表のどの数字を当てはめればいいか分からない
「弥生株式会社」で調べた方へ。 弥生株式会社は1978年創業の業務ソフトウェア会社で、会計・商取引・給与計算などの「弥生シリーズ」を開発・販売しています(弥生株式会社 会社情報、2026年10月3日確認)。 この記事が使っている運転資金の計算式は、同社が運営する「資金調達ナビ」の解説記事で確認したものです。 弥生が融資をする話ではなく、計算で出した金額は金融機関や日本政策金融公庫への相談に使います。 会社の基本情報は、下の「弥生株式会社とは」の節にまとめています。
結論:運転資金は「売上債権+棚卸資産−買入債務」で計算する
運転資金を計算する方法はいくつかありますが、最も手早いのは「在高方式」と呼ばれる計算式です。
経常運転資金 = 売上債権(売掛金・受取手形) + 棚卸資産(在庫) − 買入債務(買掛金・支払手形)
貸借対照表(決算書や試算表)に載っている3つの科目の数字を、そのまま足し引きするだけで出せます(弥生株式会社「資金調達ナビ」、資金調達フリー「金融ナビ」の解説記事で確認、2026年9月12日確認)。新しく何かを調べる必要はなく、手元の試算表を開けば今すぐ計算できます。
まず、感覚で答えられなくても焦る必要はない
「経営者ならこのくらい即答できないと」と自分を責める必要はありません。日々の売上や支払いに追われていると、貸借対照表の数字を運転資金の計算に使うという発想自体、意識しない限り出てこないものです。 感覚で「なんとなく足りない」と分かっていること自体は、すでに経営の実感として正しい方向を向いています。あとは、その感覚を数字に変換する作業が残っているだけです。
心身に不調が出るほど追い詰められている場合は、この記事の情報より先に、医師や産業医への相談を優先してください。ここから先は、計算という作業の整理です。
運転資金とは何か:売上と支払いのあいだの「すきま」を埋めるお金
運転資金とは、日々の事業を回すために恒常的に必要になる資金のことです。設備投資のような一時的な支出(設備資金)とは区別されます。運転資金が発生する理由はシンプルで、商品を仕入れてから代金を回収するまでの間に、必ずタイムラグがあるためです。
- 商品を仕入れる(買掛金が発生。まだ現金は出ていない)
- 在庫として保管する(現金化されていない資産)
- 販売する(売掛金が発生。まだ現金は入っていない)
- 入金される(ここでようやく現金になる)
この一連の流れの中で、支払いのほうが先に来て入金が後から来る期間が生まれます。その期間を乗り切るために手元に置いておく必要があるお金が運転資金です。売上が伸びている会社ほど、仕入や在庫も増えるため、この「すきま」も大きくなります。黒字なのに現金が足りなくなる、いわゆる黒字倒産の入り口もここにあります。
計算式:在高方式(貸借対照表の数字をそのまま使う)
在高方式では、貸借対照表上の3つの科目をそのまま計算式に当てはめます。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 売上債権 | 売掛金や受取手形など、まだ現金化されていない売上(弥生株式会社「資金調達ナビ」で確認) |
| 棚卸資産 | 仕入れた商品で在庫として残っているもの(同上) |
| 買入債務 | 買掛金や支払手形など、まだ支払っていない仕入代金(同上) |
計算式は次のとおりです。
経常運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 − 買入債務
売上債権と棚卸資産は「まだお金になっていない、これから現金が必要になる資産」、買入債務は「まだ払っていない、支払いを猶予されている負債」です。前者から後者を引くことで、自社がどれだけ現金を立て替えている状態かが分かります(弥生株式会社「資金調達ナビ」、資金調達フリー「金融ナビ」の解説記事で確認、2026年9月12日確認)。
計算例:自社の数字を当てはめてみる
ここでは、ネット通販を営む個人事業主を例に計算します。以下は説明用に仮置きした数値です。自社の数字は試算表・決算書の該当科目で置き換えてください。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上債権(売掛金。モール決済の入金サイト分) | 350万円 |
| 棚卸資産(在庫) | 200万円 |
| 買入債務(仕入先への買掛金) | 180万円 |
計算すると、
運転資金 = 350万円 + 200万円 − 180万円 = 370万円
この事業者は、日々の事業を回すために恒常的に370万円の現金を手元(または借入枠)に持っておく必要がある、ということになります。逆に言えば、通帳の残高が370万円を常に下回っている状態が続くなら、それは「一時的に苦しい」のではなく、構造的に運転資金が不足している状態だと判断できます。
なぜこの計算式で必要額が分かるのか
売上債権と棚卸資産は、どちらも「すでにお金や労力を投じたが、まだ現金として回収できていないもの」です。売掛金は商品を渡した後の未回収分、在庫は仕入代金を払った後にまだ売れていない分にあたります。この2つを合計すると、「現金化を待っている資産の総額」が出ます。
一方の買入債務は、仕入先から見れば「まだ払ってもらっていない代金」であり、自社から見れば「支払いを待ってもらっている分」です。これは他人の資金で一時的に事業を回せている部分にあたるため、必要な運転資金から差し引くことができます。
「現金化を待っている資産」から「支払いを待ってもらえている負債」を引いた残りが、自社が自前で用意しなければならない現金、というのがこの計算式の考え方です。
もうひとつの計算式:回転期間方式(タイムラグを日数で見る)
在高方式は貸借対照表のある一時点の数字を使いますが、もう一つ「回転期間方式」という計算方法もあります。こちらは入金と支払いのタイムラグを日数で捉える方式です(資金調達フリー「金融ナビ」の解説記事で確認、2026年9月12日確認)。
経常運転資金 = 1日当たり平均売上 ×(売上債権回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 買入債務回転期間)
各回転期間は次の式で出します。
- 売上債権回転期間 =(売掛金+受取手形)÷(年間売上高÷365日)
- 棚卸資産回転期間 = 棚卸資産÷(年間売上原価÷365日)
- 買入債務回転期間 =(買掛金+支払手形)÷(年間売上原価÷365日)
先ほどの通販事業者(年間売上高4,800万円、年間売上原価2,880万円、原価率60%と仮定)に当てはめると、日商は4,800万円÷365日≒13.2万円、原価ベースの日商は2,880万円÷365日≒7.9万円になります。売上債権回転期間は350万円÷13.2万円≒約27日、棚卸資産回転期間は200万円÷7.9万円≒約25日、買入債務回転期間は180万円÷7.9万円≒約23日です。これを式に入れると、
運転資金 = 13.2万円 ×(27日 + 25日 − 23日)= 13.2万円 × 29日 ≒ 約383万円
在高方式で出した370万円と近い数字になりますが、完全には一致しません。棚卸資産を在高方式では売価ベースの金額のまま使うのに対し、回転期間方式では原価ベースの売上原価で日数換算するため、ここで差が出ます。どちらか一方だけを正解として扱うのではなく、2つの方式で計算した金額の幅の中で見るくらいの使い方が実務的です。
チェックリスト:計算する前に確認すること
- □ 直近の試算表・決算書の貸借対照表を手元に用意したか
- □ 売掛金には、受取手形など他の「まだ現金化されていない売上」も含めて集計したか
- □ 棚卸資産には、季節商材など回転の遅い在庫が偏って積み上がっていないか確認したか
- □ 買掛金には、支払手形など他の「まだ払っていない仕入代金」も含めて集計したか
- □ 一時点の数字だけでなく、売上が伸びる時期(繁忙期前など)の見込み数字でも計算してみたか
最後の項目は特に重要です。運転資金は売上が増えるほど必要額も増えるため、現在の数字だけでなく、今後売上が伸びた場合の見込み数字でも計算しておくと、増加運転資金(売上拡大に伴って追加で必要になる運転資金)への備えになります。
出した金額をどう使うか:資金繰り表と融資相談
計算した運転資金の金額は、2つの使い道があります。
1つ目は資金繰り表への反映です。「恒常的に370万円が必要」という数字が分かれば、通帳の残高がその水準を下回りそうな月をあらかじめ見つけやすくなります。
2つ目は、金融機関への相談です。日本政策金融公庫の融資制度は、制度ごとに融資限度額が異なります。たとえば新規開業・スタートアップ支援資金は融資限度額7,200万円(うち運転資金の返済期間は10年以内)と公式サイトに明記されています(2026年9月12日確認)。「なんとなく心細いので借りたい」ではなく、「在高方式で計算した結果、恒常的に370万円の運転資金が必要」という根拠を示せると、申込時の説明が具体的になります。個別の融資限度額・審査基準は制度ごとに異なるため、申込前に公庫や取引金融機関の窓口で直接確認してください。
弥生株式会社とは?会社概要と、この記事の計算式との関係
弥生株式会社の公式の会社情報で確認できる基本情報は次のとおりです(2026年10月3日確認)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創業 | 1978年 |
| 代表取締役 | 武藤 健一郎(社長執行役員 最高経営責任者) |
| 事業内容 | 業務ソフトウェアおよび関連サービスの開発・販売・サポート |
| 決算期 | 9月30日 |
| 従業員数 | 792名(2026年9月現在、役員除く) |
| 株主 | KKRグループ |
| グループ会社 | アラームボックス、創業手帳、Miletos(持分法適用会社) |
弥生の会計ソフトで帳簿をつけている場合は、そのソフトから試算表(貸借対照表)を出力すれば、売掛金・在庫・買掛金の残高が確認できます。 その3つの数字を、前の節の在高方式の式に当てはめるのが最短の手順です。
ここで詰まりやすいのは「弥生に頼めば運転資金を借りられるのか」という点です。 弥生株式会社はソフトウェアと情報提供の会社で、この記事で参照した「資金調達ナビ」は計算方法などを解説するページです。 借入の申込先は、取引金融機関や日本政策金融公庫などになります。 申込の前に、この記事の計算で必要額の根拠を作っておくと、窓口での説明が具体的になります。
実体験:管理部門から見た運転資金の感覚
前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括していましたが、繁忙期前に仕入を増やすタイミングでは、決まって運転資金の話が経営会議の議題に上がっていました。売上が伸びる見込みが立つほど、仕入も在庫も先に増やす必要があり、その分の現金が入金より先に出ていくためです。当時は在高方式のような形式張った計算を毎回するというより、売掛金・在庫・買掛金の残高推移を月次で見ながら「このペースで在庫を積むなら、来月はいくら手元に残るか」を確認する運用でした。振り返ると、それはまさにこの記事の計算式がやっていることと同じで、売上が伸びている時期ほど、利益とは別に「現金がいくら必要か」を切り分けて見る習慣が効いていたと感じています。
次にやること
まず、直近の試算表を開き、売掛金(売上債権)・在庫(棚卸資産)・買掛金(買入債務)の3つの残高を書き出してください。 その3つの数字を「売上債権+棚卸資産−買入債務」の式に当てはめるだけで、自社の運転資金が出ます。出た金額と、今の通帳の残高を比べて、下回っている(または近い)月がないかを確認してください。近い場合は、資金繰り表を作るか、金融機関への相談を検討する段階です。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。計算式は弥生株式会社「資金調達ナビ」、資金調達フリー「金融ナビ」の解説記事で確認しました。計算例の数値はすべて説明用の仮置きであり、実在の企業のものではありません。日本政策金融公庫の融資限度額は制度ごとに異なるため、個別の申込条件は公庫窓口でご確認ください。個別の資金計画については、税理士・中小企業診断士など専門家にご相談ください。
出典 - 経常運転資金とは? ~計算方法、考える際の注意点~|資金調達ナビ|弥生株式会社【公式】 https://shikin.yayoi-kk.co.jp/study/financing/working-capital-02.html(2026年9月12日確認) - 運転資金の計算方法は?在高方式・回転期間方式をわかりやすく解説|金融ナビ powerd by 資金調達フリー https://financenavi.jp/basic-knowledge/calculation-working-capital/(2026年9月12日確認) - 新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫 https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/index_k_02.html(2026年9月12日確認) - 会社情報|弥生株式会社【公式】 https://www.yayoi-kk.co.jp/company/about/(2026年10月3日確認)