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給料が払えないときの優先順位

この記事の結論
  • 賃金の支払いは労働基準法24条で「通貨・直接・全額・毎月1回以上・一定期日」の5原則が定められ、違反には30万円以下の罰金がある(労基法120条1号)
  • 給料債権は民法306条・308条の雇用関係の先取特権により会社の総財産から優先弁済を受ける権利がある
  • 未払賃金立替払制度(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)は倒産により退職した労働者に未払賃金の80%を独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が立替払いする制度で、退職時の年齢により88万〜296万円の上限がある
  • 対象は「法律上の倒産」と労基署長が認定する「事実上の倒産」の2種類
  • 社会保険料の滞納は厚生年金保険法89条・健康保険法183条により国税徴収の例で滞納処分(差押え)に進みうる
この記事の内容
  1. 結論:給料は最後まで守るべき支払い
  2. なぜ給料の支払いは他の支払いと違うのか
  3. 払えないと分かった時点でやる優先順位
  4. 支払いの優先順位を比較する
  5. それでも倒産に至ったとき:未払賃金立替払制度
  6. 対象になる「倒産」の2つの種類
  7. 立替払いされる範囲と上限額
  8. 申請の流れと経営者が協力すべきこと
  9. 実体験:管理部門を統括した立場から見た給与支払いの重み
  10. 次にやること

この記事は、資金繰りが厳しく、従業員の給料日までに支払いが間に合わないかもしれない経営者・個人事業主に向けて書いています。 結論から言うと、給料は法律上「最後まで守るべき支払い」に位置づけられており、払えない兆候が出た時点で動く必要があります。それでも倒産に至った場合には、未払賃金立替払制度によって従業員の生活は一定の範囲で守られる仕組みがあります。

こんな状態ではありませんか
  • 来月の給料日までに、全員分の給料を用意できるか分からない
  • 一部だけでも払うべきか、他の支払いを優先すべきか判断できない
  • もし倒産してしまったら、従業員はどうなるのか、経営者として何をすればいいのか分からない

結論:給料は最後まで守るべき支払い

資金繰りが厳しくなると、経営者はどの支払いを先に回すか、どれを待ってもらうかという判断を迫られます。その中で従業員の給料は、他の支払いとは法律上の位置づけが異なります。労働基準法は賃金の支払い方法そのものを義務として定めており、違反には刑事罰があります。さらに給料債権には、会社の財産から他の一般債権より優先して弁済を受ける権利(先取特権)も認められています。「給料は後回しにしてよい支払い」ではなく、「他の支払いより先に確保すべき支払い」として扱う必要がある、というのがこの記事の結論です。

なぜ給料の支払いは他の支払いと違うのか

労働基準法24条は、賃金について「通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払い」という5つの原則(賃金支払いの5原則)を定めています。この規定に違反すると、30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法120条1号)。仕入先への支払い遅延が主に民事上の債務不履行の問題であるのに対し、従業員への給料の未払いは刑事罰が定められた違反行為であるという点が、まず大きな違いです。

さらに民法にも、給料を守る規定があります。民法308条は「給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権」について、雇用関係の先取特権を認めています。これは民法306条が定める一般の先取特権のひとつで、従業員は未払いの給料について、会社の総財産から他の一般債権者より優先して弁済を受ける権利を持ちます。ただし、破産手続に入った場合はこの優先性がそのまま適用されるわけではなく、破産法149条により、破産手続開始前3か月間の給料債権は「財団債権」として最優先で弁済される一方、それより前の分は先取特権のある破産債権として扱われるなど、時期によって優先度に濃淡が生じます(会社更生の場合は会社更生法130条にも同種の規定がありますが、財団債権化の対象期間は更生手続開始前6か月間で、破産法149条の3か月間とは長さが異なります)。

払えないと分かった時点でやる優先順位

ここが要点

給料が払えないと分かった時点で最優先すべきは、「隠さないこと」と「一部でも、いつ払えるかを明示すること」です。連絡がないまま支払日が過ぎることが、従業員の不信感と離職を最も強く引き起こします。

  1. まず資金繰りの他の選択肢を検討したか確認する。 ファクタリングや短期の借入、支払いを待ってもらう交渉など、給料以外の支払いを動かせないかを先に洗い出します。
  2. 一部でも払える金額と時期を、従業員に先に伝える。 労働基準法25条は、労働者が出産・疾病・災害など非常の場合の費用に充てるために請求したときは、支払期日前でも既往の労働に対する賃金を支払わなければならないと定めています(非常時払い)。全額が無理でも、確定している分だけでも早める余地がないかを検討します。
  3. 休業させる場合は休業手当を検討する。 使用者の責に帰すべき事由で休業させる場合、平均賃金の60%以上を休業手当として支払う義務があります(労働基準法26条)。全額を止めるのではなく、休業という形に切り替えられないかも選択肢のひとつです。
  4. 社会保険労務士・弁護士に早い段階で相談する。 給料の未払いが続く見通しが立った時点で、労務面と法的整理面の両方に詳しい専門家に相談しておくと、後の対応(未払賃金立替払制度の申請を含む)がスムーズになります。
  5. 社会保険料・税金との比較で優先順位を崩さない。 社会保険料の滞納には、厚生年金保険法89条・健康保険法183条により国税徴収の例による滞納処分(差押えなど)に進む規定があります。滞納にはペナルティがありますが、それでも給料を後回しにする判断は、刑事罰の対象になりうる労働基準法違反に直結することを踏まえて検討する必要があります。

支払いの優先順位を比較する

支払い先 遅れた場合の主なリスク 法的な位置づけ
従業員の給料 労働基準法違反(刑事罰)、従業員の生活への直接の影響、離職 労基法24条・120条(刑事罰)、民法306条・308条(先取特権)
社会保険料 延滞金、滞納処分(差押え)に進みうる 厚生年金保険法89条・健康保険法183条(国税徴収の例)
税金 延滞税、滞納処分(差押え)に進みうる 国税徴収法
仕入先・外注先への支払い 取引停止、信用低下 契約(民法)に基づく債務不履行

どれも軽視できない支払いですが、給料だけが「支払い方法そのものに刑事罰がある」「先取特権で会社財産から優先弁済される」という二重の位置づけを持つ点が、他の支払いとの違いです。優先順位に迷ったときは、この表を判断の出発点にしてください。

それでも倒産に至ったとき:未払賃金立替払制度

打てる手を尽くしても倒産に至り、給料が支払えないまま従業員が退職することになった場合、従業員には未払賃金立替払制度という国のセーフティネットがあります。これは「賃金の支払の確保等に関する法律」(昭和51年法律第34号)第7条に基づく制度で、独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が、会社に代わって未払賃金の一部を立て替えて労働者に支払う仕組みです。1976年の制度創設から2025年3月までの累計で、約137万人に対し総額約5,651億円が立替払いされています(JOHAS公式サイトで確認)。経営者にとっては、「会社が倒産しても従業員の生活が即座に断たれるわけではない」ことを知っておく意味があります。

対象になる「倒産」の2つの種類

制度の対象になる倒産には、次の2種類があります。

種類 内容 手続き
法律上の倒産 破産手続開始、特別清算開始、再生手続開始、更生手続開始などの決定・命令 裁判所への申立て等
事実上の倒産(中小企業のみ) 事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない状態 労働基準監督署長への認定申請

事実上の倒産の認定を受けるには、労働基準監督署長への認定申請を、退職した日の翌日から起算して6か月以内に行う必要があります(厚生労働省Q&Aで確認)。対象となる労働者は、法律上の倒産では裁判所への申立て等が行われた日、事実上の倒産では労基署長への認定申請が行われた日の、それぞれ6か月前から2年間に退職した労働者です。

立替払いされる範囲と上限額

立替払いされる金額は、未払賃金総額(退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来した定期賃金と退職手当の合計)の80%です。ただし、未払賃金総額には退職日時点の年齢による上限があり、その上限を超える場合は上限額の80%が立替払いされます。

退職日時点の年齢 未払賃金総額の上限 立替払いされる額(80%)
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

(JOHAS公式サイト「未払賃金の立替払制度の概要」、厚生労働省公式サイトで確認、2026年9月確認)

なお、未払賃金の総額が2万円未満の場合は対象外です。ボーナス(賞与)は立替払いの対象に含まれません。また、立替払いの対象になるのは労災保険の適用事業で、かつ1年以上事業活動を行っていた事業主に限られます。個人事業主か法人かにかかわらず、労災保険が適用される事業であれば対象になり得ますが、開業したばかりで1年未満の場合は対象外になる点は、経営者として知っておく必要があります。

申請の流れと経営者が協力すべきこと

申請の主体は退職した従業員側ですが、経営者(または破産管財人などの倒産手続の担当者)には、証明書類の発行など手続きへの協力が求められる場面があります。

  1. 法律上の倒産は裁判所への申立て等、事実上の倒産は労働基準監督署長への認定申請(退職日の翌日から6か月以内)
  2. 労働基準監督署長に、未払賃金額などの確認を申請する
  3. 従業員がJOHASに立替払いを請求する(法律上の倒産は裁判所の破産手続開始等の決定日または命令日の翌日から、事実上の倒産は労基署長が倒産の認定をした日の翌日から、それぞれ2年以内。JOHAS公式サイトで確認)
  4. JOHASの審査を経て、対象と認められた分が従業員に立替払いされる

経営者側が事実関係の確認や証明に協力できるかどうかで、従業員が制度を利用できるまでの期間が変わってきます。倒産の見通しが立った時点で、この制度の存在を従業員に伝えておくこと自体が、経営者としてできる数少ない誠実な対応のひとつです。

実体験:管理部門を統括した立場から見た給与支払いの重み

正直に書きます。私自身が経営者として給料を払えなかった経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事も「経営者として資金繰りに窮した」体験ではなく、支払いを実行する側として見てきた事実に基づいています。資金繰りが厳しい月であっても、給与の支払日だけは他のどの支払いよりも先に確保する前提で運用されていた、というのが管理部門側から見ていた実感です。給料は「払えたら払う」支払いではなく、「他を削ってでも払う」支払いとして扱われていました。

次にやること

まず、来月分の給料を全額払えるかどうかを、今日の時点の残高と入金予定だけで確認してください。足りないと分かった時点で、社会保険労務士か弁護士に相談するのが最初の一歩です。相談が早いほど、給料以外の支払いを動かす選択肢も、従業員への説明の仕方も、選べる幅が広がります。

当サイト運営者

執行役員として、会社の管理部門を統括していました

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

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