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減価償却と資金繰り

この記事の結論
  • 減価償却費は、設備投資でお金を支払った年ではなく、耐用年数にわたって毎年少しずつ費用計上する会計上の仕組みで、計上した年にその分の現金が出ていくわけではない(法人は法人税法31条、個人事業主は所得税法49条。耐用年数の区分は減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づく、2026年9月確認)
  • 現金が出ていくのは設備を取得した年にまとめて一度だけで、その後の年に費用計上される減価償却費は「過去に払ったお金を後から費用として割り振っているだけ」
  • この性質のため、資金繰りを見るときは「税引後利益+減価償却費」という簡易キャッシュフローの考え方が使われる
  • 2026年4月以降に取得した資産は、40万円未満の資産を一括で費用にできる中小企業向けの特例がある(法人は租税特別措置法67条の5、個人事業主は同28条の2。年間合計300万円が上限。財務省「令和8年度税制改正の大綱」に基づく、2026年9月確認)。適用要件は年度ごとに見直されており税理士に確認したほうがよい
  • 減価償却費そのものは現金を生まないため、これを資金の裏付けと考えて投資判断をすると資金繰りを誤る
この記事の内容
  1. 結論:減価償却費は現金の動きと切り離された費用
  2. なぜこの仕組みがあるのか:一度に払ったお金を何年かに割り振る
  3. 現金が動くタイミングと、費用に計上されるタイミングの違い
  4. 計算例:定額法で減価償却費を計算し、現金の動きと並べる
  5. 資金繰りで使う考え方:税引後利益+減価償却費
  6. 40万円未満の資産を一括費用にできる特例(中小企業向け)
  7. 減価償却費を資金繰りで誤解しやすい点
  8. チェックリスト:設備投資前に確認すること
  9. 実体験:設備投資の稟議で減価償却費と現金を分けて見ていた立場から
  10. 次にやること

この記事は、試算表や決算書に「減価償却費」という大きな費用が計上されているのに、その分の現金が通帳から減っている実感がなく、資金繰りとどう結びつけて考えればいいか分からない個人事業主・中小企業の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、減価償却費は設備投資でお金を払った年ではなく、その後の何年かにわたって少しずつ費用として計上する会計上の仕組みです。計上したタイミングでは現金は動きません。現金がまとまって出ていくのは、設備を取得した年に一度だけです。この記事では、この仕組みがなぜ存在するのか、資金繰りを考えるときにどう使えるのかを、計算例つきで整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 試算表を見ると減価償却費という大きな費用があるのに、通帳の現金は減っていない
  • 設備投資をした年に現金がまとまって出ていったはずなのに、費用計上はその後何年も続く理由が分からない
  • 減価償却費を資金繰りの計画にどう組み込めばいいか分からない

結論:減価償却費は現金の動きと切り離された費用

減価償却費とは、建物・機械・車両・パソコンなどの固定資産を取得したときに支払った金額(取得価額)を、その資産が使える期間(耐用年数)にわたって、毎年少しずつ費用として計上していく会計上の仕組みです(根拠となる条文は、法人が法人税法31条、個人事業主が所得税法49条で、それぞれ別の条文です。耐用年数の区分は減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づきます。2026年9月確認)。ここで重要なのは、現金が実際に出ていくのは資産を取得した年に一度だけで、その後の年に計上される減価償却費は、過去に払ったお金を後から費用として割り振っているだけだという点です。損益計算書の上では毎年費用が計上され続けますが、その計上のたびに通帳からお金が減るわけではありません。この「費用の計上時期」と「現金の支出時期」がずれる性質を理解しておくと、資金繰りを考えるときの見え方が変わります。

なぜこの仕組みがあるのか:一度に払ったお金を何年かに割り振る

固定資産は、購入した年だけでなく何年にもわたって事業に使われ、売上に貢献し続けます。もし取得価額を支払った年に全額費用として計上してしまうと、その年だけ極端に利益が下がり、翌年以降は資産が生み出す収益だけが計上されて費用が対応しない、という不自然な決算になります。減価償却は、資産が実際に使われる期間に費用を対応させることで、各年の損益をより実態に近い形で表すための仕組みです。「いつ払ったか」ではなく「いつ使われたか」に合わせて費用を配分する、という発生主義の考え方の一種と捉えると理解しやすくなります。

現金が動くタイミングと、費用に計上されるタイミングの違い

現金の動き 損益計算書への計上
設備を取得した年 取得価額の全額(または頭金・借入分)が動く 減価償却費としてその年の耐用年数分だけ計上
取得の翌年以降(耐用年数の間) 動かない(ローン返済がある場合はその返済額だけ動く) 毎年、耐用年数に応じた減価償却費が計上され続ける
耐用年数が終わった後 動かない 減価償却費の計上も終わる

この表からわかるとおり、現金の動きと費用の計上は、設備取得年を除いて基本的に一致しません。借入で設備を購入した場合はさらにもう1つずれが生じます。借入金の元本返済は損益計算書上の費用にはならないのに現金は毎月減っていく一方、減価償却費は損益計算書上の費用になるのに現金は動かない、という向きが逆のずれです。この点は黒字倒産が起きる仕組みとも重なる部分で、「利益が出ているのに現金が足りない」「利益は薄いのに現金は残っている」といった帳簿と実態の食い違いの一因になります。

計算例:定額法で減価償却費を計算し、現金の動きと並べる

次の前提で、設備投資をした年とその後の年の、損益計算書上の費用と現金の動きを比べます。定額法(耐用年数にわたって毎年同じ金額を費用計上する計算方法)を使います。

前提項目 設定値
設備の取得価額 500万円
耐用年数 5年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令の区分に基づき仮に設定)
定額法の償却率 0.200(耐用年数5年の場合の償却率。国税庁公表の減価償却資産の償却率表に基づく)
支払方法 取得年に全額を現金で一括払い

年間の減価償却費

500万円 × 0.200 = 100万円(1年目から5年目まで、毎年同額)

現金の動きと費用計上の比較

1年目(取得年) 2〜5年目(各年)
現金の支出 500万円 0円
損益計算書上の費用(減価償却費) 100万円 100万円(各年)

1年目は現金で500万円が出ていくのに、損益計算書上の費用は100万円しか計上されません。逆に2年目以降は、毎年100万円の費用が計上され続けるのに、現金は1円も出ていきません。5年間の合計で見れば、現金支出500万円と費用計上の合計500万円(100万円×5年)は一致しますが、年ごとに見ると計上時期が大きくずれる、というのがこの仕組みの核心です(数値はいずれも説明のための仮の設定です)。

資金繰りで使う考え方:税引後利益+減価償却費

減価償却費は現金の支出を伴わない費用(非資金費用)であるため、損益計算書上の利益に減価償却費を足し戻すと、その期間に実際に事業が生み出した現金に近い金額を簡易的に把握できます。これは「簡易キャッシュフロー」と呼ばれる考え方で、次の式で表されます。

簡易キャッシュフロー = 税引後利益 + 減価償却費

例えば、税引後利益が200万円で減価償却費が100万円の期間であれば、簡易キャッシュフローは300万円です。これは、損益計算書の利益だけを見ていると見落としがちな「実際に手元に残る現金力」を大まかに掴むための考え方で、正式なキャッシュフロー計算書(売掛金・在庫・買掛金の増減なども反映する)ほど精緻ではありませんが、決算書だけで簡単に試算できる点が実務上の利点です。

40万円未満の資産を一括費用にできる特例(中小企業向け)

青色申告を行う中小企業者等(法人)または中小事業者(個人事業主)が、一定の要件のもとで取得価額40万円未満の減価償却資産を取得した場合、耐用年数にわたって分割せず取得年に全額を費用にできる特例があります。根拠となる条文は、法人が租税特別措置法67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)、個人事業主が同28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)で、それぞれ別の条文です。

この特例は令和8年度税制改正で見直されており、令和8年(2026年)4月1日以降に取得した資産は取得価額の上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外になりました(それより前に取得した資産は、改正前の30万円未満・500人以下という基準のままです)。年間の合計限度額は300万円で、この点は改正の前後で変わっていません(財務省「令和8年度税制改正の大綱」に基づく、2026年9月確認)。対象者の細かい要件や適用期限は年度ごとに見直されるため、適用を検討する場合は税理士に確認してください。

この特例を使うかどうかは、その年の利益水準や、翌年以降にどれだけ費用を残しておきたいかによって判断が分かれます。一括で費用にすれば当期の税負担は下がりますが、翌年以降に計上できる費用がその分減ります。

減価償却費を資金繰りで誤解しやすい点

  • 減価償却費が計上されている年に、その金額に相当する現金が新たに生まれるわけではありません。現金はすでに取得年に出ています
  • 「減価償却費のぶん税金が減るから現金が増える」という理解は半分正しく半分不正確です。正確には、減価償却費を費用計上することで課税所得が下がり、その分の法人税・所得税の支払いが抑えられます。これは現金の「流出を抑える」効果であって、現金を新たに生み出す効果ではありません
  • 設備投資の資金を減価償却費の見込み額から捻出しようとする考え方は成立しません。減価償却費はあくまで過去の支出を会計上割り振ったものであり、将来の投資原資として積み立てられているお金ではないためです

チェックリスト:設備投資前に確認すること

  • □ 設備投資の代金を、取得年に一括で払うのか、借入で分割して払うのかを決めている
  • □ 取得年に現金がどれだけ減るか(頭金・一括払いの場合は全額)を資金繰り表に反映している
  • □ 借入で購入する場合、元本返済額(現金支出)と減価償却費(費用計上額)が別物であることを踏まえて、両方を資金繰り表に入れている
  • □ 減価償却費を「将来使える現金」として投資計画に組み込んでいない
  • □ 40万円未満(2026年4月以降取得分。それより前の取得分は30万円未満)の資産について、一括費用にするかどうかを税理士と相談している

実体験:設備投資の稟議で減価償却費と現金を分けて見ていた立場から

私の場合

前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括しており、物流設備やシステム投資の稟議を審査する立場にありました。稟議書には投資額と減価償却費の年割り金額が並んで書かれていることが多く、この2つを混同すると判断を誤りやすいという感覚を、この業務を通じて持つようになりました。特に「減価償却費が計上される分、税負担が軽くなるので投資しやすい」という説明だけで投資を進めようとする案件については、実際に現金がいつ・いくら出ていくのか(取得年の一括支出、または借入の場合の毎月の返済額)を資金繰り表に落とし込んでから判断する、という確認を欠かさないようにしていました。

次にやること

まず、直近で行った(または予定している)設備投資について、①取得年に現金がいくら出ていったか、②今期の損益計算書に減価償却費としていくら計上されているか、の2つの金額を並べて書き出してください。 一致していないのが正常です。そのうえで、今期の資金繰り表に、減価償却費ではなく「実際の現金支出(一括払いの金額、または借入返済額)」が反映されているかを確認してください。反映されていなければ、そこが資金繰り表の見直しどころです。


※本記事は一般的な会計・資金繰りの仕組みに基づく整理であり、2026年9月時点の調査によるものです。減価償却の考え方は、法人が法人税法31条、個人事業主が所得税法49条、耐用年数の区分は減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づく整理です。中小企業向けの少額減価償却資産の特例(法人:租税特別措置法67条の5/個人事業主:同28条の2)は要件・限度額・適用期限が見直される制度のため、適用の可否は税理士にご確認ください。個別の投資判断・資金繰り対策は、税理士・中小企業診断士など専門家にご相談ください。

出典 - 法人税法31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)/所得税法49条(個人事業主の場合) - 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 - 国税庁「減価償却資産の償却率表」(定額法・耐用年数5年の償却率0.200) - 租税特別措置法67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例、法人)/租税特別措置法28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例、個人事業主) - 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(少額減価償却資産の特例の取得価額上限を30万円未満から40万円未満に引き上げ、対象法人を従業員400人以下に見直し)

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執行役員として、会社の管理部門を統括していました

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

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