約束手形の廃止はいつか
- 「2026年に約束手形が廃止される」と言われるものの中身は2つあり、①紙の約束手形そのものを無くす取り組みは政府・業界団体の自主的な目標(法的強制力なし)、②2026年1月1日施行の改正法(下請法→中小受託取引適正化法)による手形払いの禁止は法律による強制、という別物が重なっている
- 手形の物理的な交換自体はすでに2022年11月2日・4日に全国179か所の手形交換所が廃止され、電子交換所に一本化済み(全国銀行協会)
- 2026年1月1日以降、取適法の対象となる取引(資本金基準に加え従業員基準300人・100人が新設)では手形払いが原則禁止され、支払期日は受領から60日以内の厳守が求められる
この記事の内容
この記事は、取引先や銀行から「約束手形は2026年に廃止される」と聞き、自社の手形取引をいつまでにどう変えればいいのか分からない経理担当者・一人社長に向けて書いています。 結論から言うと、「2026年廃止」という言葉の中身は2つの別物が重なっています。ひとつは、紙の約束手形そのものをなくしていこうという政府・産業界の自主的な目標(法的な強制力はない)。もうひとつは、2026年1月1日に施行される改正法(下請法から「中小受託取引適正化法」への改称)による、手形払いの法律上の禁止です。この記事では、この2つを分けたうえで、今どこまで進んでいて、何がいつから変わるのかを時系列で整理します。
- 「約束手形は2026年に廃止」と聞いたが、自社の手形取引がいつから使えなくなるのか分からない
- 下請法が変わるらしいと聞いたが、自社が対象になるのかどうか判断できない
- 手形からでんさい(電子記録債権)や振込への切り替えを、いつまでに終わらせればいいのか知りたい
結論:「目標としての廃止」と「法律による禁止」は別物
政府は2021年6月18日に閣議決定した「成長戦略実行計画」の中で、「本年夏を目途に、産業界及び金融界による自主行動計画の策定を求めることで、5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する」という方針を示しました(内閣官房、成長戦略実行計画・令和3年6月18日、2026年9月1日確認)。これを受けて一般社団法人日本貿易会が2021年11月に「約束手形の廃止に向けた自主行動計画」を策定するなど、業界団体が手形の利用を減らす取り組みを進めてきましたが、これ自体は法律ではなく、産業界・金融界に対する要請・自主的な目標です。
一方、2026年1月1日には下請法(下請代金支払遅延等防止法)が改正され、正式名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に、略称が「中小受託取引適正化法」に、通称が「取適法」に変わります(中小企業庁「中小受託取引適正化法」ページ、公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」ページ、2026年9月1日確認)。この法律では、対象となる取引について手形払いが原則禁止され、支払期日は受領から60日以内のできる限り短い期間で定める義務が課されます(公正取引委員会「2026年1月から「下請法」は「取適法」へ」リーフレット本文で確認、2026年9月1日確認)。こちらは法律による義務であり、対象取引に該当すれば強制力があります。
つまり「2026年に手形が使えなくなる」と一律に考えるのではなく、①自社の取引が取適法の対象になるかどうかを確認すること、②対象にならない取引でも、手形の実務基盤自体が電子化に向かっていることを踏まえて早めに移行を検討すること、の2段階で考える必要があります。
まず、手形取引を続けてきたこと自体は問題ではない
「うちはまだ手形で取引している」と焦る必要はありません。約束手形は長年、多くの企業間取引で使われてきた正当な決済手段であり、これまで手形を使ってきたこと自体に問題はありません。 変わるのは、これからの制度と実務のルールです。自社の取引内容を確認し、必要な範囲で切り替えを進めれば十分に対応できます。
資金繰りへの不安が強い場合は、この記事の情報より先に、取引金融機関やでんさいネット参加金融機関の窓口に相談することをおすすめします。ここから先は、廃止に向けた経緯と、今後のスケジュールの整理です。
なぜ約束手形の廃止が進められているのか
約束手形による支払いは、受け取る側(下請事業者など、取引上の立場が弱くなりやすい側)の資金繰りに負担をかけてきました。手形は振り出されてから実際に現金化(支払期日での決済、または金融機関での割引)されるまでに時間がかかり、経済産業省が実施した調査に基づくとして、現金振込の場合に入金まで約50日かかるのに対し、約束手形では約100日かかるという数字が複数の解説記事で紹介されています。ただし、この数字の元と見られる中小企業庁「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」の報告書・配布資料(中小企業庁サイト掲載PDF)は、アクセス制限のため運営者が原文を確認できていません(2026年9月6日の再調査でも同様)。一次資料で裏付けが取れた数字ではないため、本記事では「解説記事で紹介されている目安」として扱います。
また、全国銀行協会の「手形・小切手機能の電子化に関する検討会」が2018年(平成30年)7月26日にまとめた中間報告では、手形・小切手を電子化することで印紙代・搬送コストなどが削減され、振出側・受取側の双方でコスト削減効果が見込めるとされています(全国銀行協会「手形・小切手機能の電子化に関する検討中間報告」平成30年7月26日、2026年9月1日確認)。具体的な削減金額の内訳は今回のPDF一次資料の読み取りができなかったため本文には記載しません。こうした受取側の資金繰り負担と、手形の物理的な処理コストの両方を減らす狙いで、政府・業界が電子化を進めてきました。
時系列で見るスケジュール(表)
| 時期 | 出来事 | 性質 |
|---|---|---|
| 2021年6月18日 | 「成長戦略実行計画」閣議決定。5年後の手形廃止に向けた取組みを産業界・金融界に要請 | 政府方針(目標) |
| 2021年11月 | 日本貿易会など業界団体が「約束手形の廃止に向けた自主行動計画」を策定 | 業界の自主的な計画 |
| 2022年11月2日・4日 | 全国179か所の手形交換所が交換業務を終了し、電子交換所に業務を一本化 | 実施済み(インフラの電子化) |
| 2024年4月30日 | 公正取引委員会が、割引困難な手形とみなすサイトの基準を120日から60日に変更する旨を正式発出(2024年2月28日〜3月28日の意見募集を経て確定) | 運用基準の変更 |
| 2024年11月1日 | 下請中小企業振興法「振興基準」改正施行。手形払いのサイトを業種問わず60日以内に徹底 | 振興基準(努力義務ベース) |
| 2026年1月1日 | 下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」に改称して施行。対象取引で手形払いを原則禁止、支払期日60日以内を義務化 | 法律による義務 |
※2026年9月1日時点の調査。内閣官房・全国銀行協会・公正取引委員会の公式サイト、および施行後の解説記事(マネーフォワード クラウド契約・2026年3月27日更新、東京商工リサーチ)で運営者が確認しました。
2026年1月1日施行「取適法」で何が変わるか
取適法では、次の内容が変わります(公正取引委員会リーフレット「2026年1月から「下請法」は「取適法」へ」、マネーフォワード クラウド契約解説記事・2026年3月27日更新、2026年9月1日確認)。
- 手形払いの原則禁止:支払手段として手形を使うこと自体が禁止されます。電子記録債権(でんさい)やファクタリングであっても、支払期日までに実際に資金化することが難しい場合は同様に規制対象になります
- 支払期日60日以内の義務化:発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることが義務になり、支払期日までに支払わないこと(手形払い等を含む)が禁止されます
- 振込手数料の負担禁止:振込手数料を受注側(中小受託事業者)に負担させることが禁止されます。合意があっても振込手数料を差し引いて支払うことは「減額」に該当し、取適法違反になり得ます(公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」ページで確認、2026年9月1日確認)
- 規制対象の拡大(従業員基準の新設):従来の資本金基準に加えて、常時使用する従業員数による基準が新設されます。基準は取引内容によって2段階に分かれ、①製造委託・修理委託・特定運送委託、および情報成果物作成委託・役務提供委託のうちプログラム作成・運送・物品の倉庫における保管・情報処理に限るものは、発注側の資本金3億円超または従業員300人超で対象、②それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託は、発注側の資本金5千万円超または従業員100人超で対象になります。発注側がいずれかの基準を満たせば、資本金の金額にかかわらず取適法の対象になり得ます(公正取引委員会「2026年1月から「下請法」は「取適法」へ」リーフレット本文で確認、2026年9月1日確認)
経過措置は設けられていません。 対象となる取引がある場合、2026年1月1日から新しいルールがそのまま適用されます。
手形交換所はすでに2022年に廃止されている
見落とされがちですが、紙の手形・小切手を金融機関同士でやり取りする物理的な仕組み(手形交換所)自体は、すでに2022年11月2日に全国179か所すべてが交換業務を終了し、同月4日から「電子交換所」に一本化されています(全国銀行協会「電子交換所システムの稼動について」2022年、東京商工リサーチ「『電子交換所』の運用開始と企業決済『全面電子化』への道筋」、2026年9月1日確認)。電子交換所では、手形類のイメージデータを金融機関間で送受信することで交換・決済が完結し、手形類の現物搬送が不要になりました。
つまり、紙の手形を振り出すこと自体は今も可能ですが、その処理はすでに電子的な仕組みの上で行われています。取適法の対象にならない取引であっても、手形を扱う実務基盤そのものが縮小・電子化に向かっている流れは変わりません。
自社は対象になるか、どう確認するか
取適法の対象になるかどうかは、次の2つの基準のいずれかで判定されます。
- 資本金基準:従来の下請法と同様、発注側・受注側の資本金の額による基準
- 従業員基準(新設):発注側の常時使用する従業員数が、委託内容に応じて300人超(製造委託・修理委託・特定運送委託、および情報成果物作成委託・役務提供委託のうちプログラム作成・運送・物品の倉庫における保管・情報処理に限るもの)または100人超(それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託)で、受注側がそれ以下の場合
どちらか一方に該当すれば取適法の対象になり得ます。自社が発注側・受注側のどちらであっても、資本金だけでなく従業員数も含めて確認する必要があります。判断に迷う場合は、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口、または顧問税理士・弁護士に個別の取引内容を示して確認することをおすすめします。
こういう対応はしない
- 「まだ2026年だから大丈夫」と静観する:取適法の施行に経過措置はありません。対象取引がある場合、1月1日からそのまま新しいルールが適用されます
- 資本金基準だけで対象外と判断する:従業員基準が新設されたことで、資本金が小さくても従業員数の基準で対象になる場合があります
- 手形をでんさいに切り替えれば無条件に安全と考える:でんさいやファクタリングであっても、支払期日までに資金化が難しい場合は取適法の規制対象になり得ます。切り替え先の支払条件も確認が必要です
実体験:管理部門を統括する立場から見ていた支払い実務
正直に書きます。私自身が手形の振り出し・受け取りの実務を直接担当した経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいましたが、対象法人の主要な取引は振込決済が中心で、手形取引そのものを深く扱う機会はありませんでした。そのため、この記事は「手形実務を担当した側」の視点ではなく、公開情報を調べた範囲での整理です。
ただし、支払条件(支払サイト)が数十日単位で変わるだけで、資金繰り計画の前提が大きく変わるという感覚は、管理部門で入出金を見てきた立場から見ても実感があります。取引先から支払方法・支払サイトの変更を打診されたとき、それが自社にとって資金繰り上プラスかマイナスかを即座に判断できる状態を作っておくことは、手形かどうかにかかわらず重要だと感じています。
次にやること
まず、自社が発注側・受注側いずれかで結んでいる取引のうち、手形払いが残っているものを洗い出し、それぞれの相手企業の資本金と従業員数を確認してください。 資本金基準・従業員基準のいずれかで取適法の対象になり得る場合は、2026年1月1日を待たず、支払方法(振込・でんさいなど)と支払サイト(60日以内)への切り替えを取引先と相談してください。判断に迷う取引があれば、公正取引委員会または中小企業庁の相談窓口に、具体的な取引条件を示して確認することが確実です。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。政府広報オンラインの解説記事(2025年11月公開と見られる記事)はアクセス制限のため運営者が原文を直接確認できておらず、本文には反映していません。経済産業省・中小企業庁の調査結果とされる数字(手形の現金化に約100日、振込に約50日)は解説記事からの引用であり、一次資料(中小企業庁の検討会資料)はアクセス制限のため確認できていません(2026年9月6日の再調査でも同様)。個別の取引が取適法の対象になるかどうかは、公正取引委員会・中小企業庁の窓口、または顧問税理士・弁護士への確認をおすすめします。
出典 - 内閣官房「成長戦略実行計画」(令和3年6月18日閣議決定) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/ap2021.pdf(2026年9月1日、存在とタイトルを確認。PDFは38ページと大部でツールによる本文の直接抽出はできなかったが、「産業界及び金融界による自主行動計画の策定を求めることで、5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する」の文言は、この文書を引用する複数の独立した検索結果(自由民主党ニュース等)で一致) - 一般社団法人日本貿易会「約束手形の廃止に向けた自主行動計画」(2021年11月策定、中小企業庁サイト掲載) https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/koudoukeikaku/trade.pdf(2026年9月1日、URLへのアクセスは403で不可。策定時期・「現金払(振込)またはでんさい等への移行を進める」という内容は検索結果の要約・複数の解説記事で確認。なお、これとは別に金融界側では一般社団法人全国銀行協会が2021年7月19日に「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を策定しており、産業界(日本貿易会)・金融界(全銀協)の双方が自主行動計画を策定した形になっている) - 一般社団法人全国銀行協会「電子交換所システムの稼動について」(2022年) https://www.zenginkyo.or.jp/news/2022/n071901/(2026年9月1日確認。ツールによる抽出では東京手形交換所の廃止日(11月2日)・電子交換所の決済開始日(11月4日)は確認できたが、「全国179か所」の数字はこのページ単体には記載なし) - 東京商工リサーチ「『電子交換所』の運用開始と企業決済『全面電子化』への道筋」 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197373_1527.html(2026年9月1日確認。「全国179か所」「2022年11月4日」の記述はこちらで確認。時事通信の記事(2022年9月5日)でも同趣旨を確認) - 公正取引委員会「(令和6年4月30日)『手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について』の発出について」 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/apr/240430_tegata.html(2026年9月1日確認。2024年2月28日〜3月28日の意見募集を経て2024年4月30日に正式発出、2024年11月1日から適用という時系列を確認。サイト基準「120日→60日」の具体的な数値はこのページ本文には無く、別紙掲載のため未確認) - 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ」リーフレット https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf(2026年9月1日、PDF本文を直接読み取り確認。手形払い等の禁止、従業員基準300人・100人の新設、資本金基準との組み合わせ、支払期日60日以内の義務、法律名の変更をリーフレット本文で確認。ただし振込手数料の負担禁止はこのリーフレットには記載なし) - 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」 https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html および https://www.jftc.go.jp/toriteki_2025/(2026年9月1日確認。法律の略称・通称の関係、振込手数料を差し引く支払いが「減額」に該当し禁止される旨を確認) - 中小企業庁「中小受託取引適正化法」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/daikin.html(2026年9月1日確認。正式名称「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、令和7年(2025年)5月16日成立、2026年1月1日施行を確認) - 経済産業省「下請中小企業振興法に基づく『振興基準』を改正しました」(2024年11月1日) https://www.meti.go.jp/press/2024/11/20241101001/20241101001.html(2026年9月1日、直接アクセスは403で不可。「公正取引委員会が2024年4月30日にサイト基準を120日から60日に見直したことを踏まえ、振興基準で業種を問わずサイトを60日以内とすることを徹底する旨を規定し、2024年11月1日施行」という内容を、日本商工会議所・全国スーパーマーケット協会等の複数の独立した第三者記事で一致確認) - 中小企業庁「mirasapo-plus」2026年1月1日施行・取適法解説 https://mirasapo-plus.go.jp/infomation/30416/(2026年9月1日確認。手形払いの原則禁止・振込手数料の負担禁止の記載を確認。支払期日60日以内・従業員基準の記載は未確認) - 一般社団法人全国銀行協会「手形・小切手機能の電子化に関する検討中間報告」(平成30年7月26日) https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news300726.pdf(2026年9月1日、存在を確認。PDFは37ページと大部でツールによる本文の直接抽出はできず、削減金額の具体的な数字は検索結果でも情報源間で不一致(単位の誤変換の疑いがある表記も見られた)が見られたため、本文には記載していない) - マネーフォワード クラウド契約「取適法はいつから施行された?2026年改正下請法の変更点や手形廃止の対応を完全解説」(2026年3月27日更新、民間企業の解説記事) https://biz.moneyforward.com/contract/basic/23261/(2026年9月1日確認) - 中小企業庁「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会 報告書」(令和3年3月) https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shiharaikaizen/2021/210315shiharaikaizen_report.pdf(2026年9月6日再調査。アクセスは403で不可。手形の現金化約100日・振込約50日の数字の一次資料と見られるが原文未確認のため、本文では解説記事による目安として扱う)