役員報酬の減額は期中でもできる?認められる3つの改定事由と注意点
- 役員報酬は「定期同額給与」として毎月同額を支給しないと損金算入できないのが原則で、期中に自由に変更すると税負担が増えることがある(法人税法34条1項1号)
- 期中の改定が損金算入されるのは、事業年度開始から3ヶ月以内の通常改定・役員の地位変更等の臨時改定事由・経営の著しい悪化による業績悪化改定事由の3パターンに限られる(法人税法施行令69条1項1号イ・ロ・ハ)
- 業績悪化改定事由は「資金繰りが苦しい」という主観だけでは認められず、第三者(金融機関・株主等)から見て客観的に経営が悪化している事情が必要とされる
- 理由のない期中減額は、減額前の高い金額と減額後の金額の差額部分(下げる前に多く払っていた分)が損金不算入になり、資金は出ていったのに税務上は経費にできないという二重の負担が生じる
- 役員報酬の減額には株主総会(または定款の定め)による決議が必要(会社法361条1項)
この記事の内容
この記事は、資金繰りが苦しくなり「自分の役員報酬を下げて資金を残したい」と考えている中小企業の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、役員報酬は毎月同額でなければ経費として認められないのが原則で、期中に理由なく下げると、下げる前の高い金額との差額分が税務上の経費にならず、かえって税負担が増えることがあります。ただし「経営の状況が著しく悪化した」と言える場合には、期中でも減額が認められる例外があります。
- 資金繰りが厳しく、まず自分の役員報酬を下げて資金を残したいが、いつでも下げていいのかわからない
- 「役員報酬は自由に決められる」と思っていたら、税務上は毎月同額でないと経費にならないと聞いて不安になった
- 下げるにしても、株主総会の決議や書面が必要なのかがわからない
結論:期中減額には条件があり、理由が要る
役員報酬は経営者が自分の意思だけで自由に変更できるものではありません。法人税法上、役員報酬は「定期同額給与」として、事業年度中は毎月同じ金額を支給することで初めて全額を経費(損金)にできます(法人税法34条1項1号)。期中に金額を変えると、その変更が法律の定める一定の事由に当てはまらない限り、変更前後の差額部分が損金不算入になります。資金繰りを守るために役員報酬を下げたいのであれば、「いつ・どんな理由で・どういう手続きで下げるか」を先に確認してから動く必要があります。
なぜ役員報酬が資金繰り対策の選択肢に挙がるのか
資金繰りが苦しくなったとき、まず見直されるのは広告費や仕入れといった変動費ですが、それでも足りない場合、固定費である人件費に手をつける段階に進みます。役員報酬は、他の従業員の給与と違い、経営者自身の判断で金額を決められる立場にあるため、固定費削減の中でも着手しやすい項目として検討されやすいものです。加えて、役員報酬を下げると、会社が負担する社会保険料(健康保険・厚生年金保険の会社負担分)も報酬月額に連動して下がるため、資金繰りへの効果は本人の手取り減少額以上に及ぶことがあります。ただし、この社会保険料の減額は将来受け取る年金額にも影響するため、資金繰り対策として即断する前に、その点も踏まえておく必要があります。
役員報酬は自由に変えられない|定期同額給与の原則
法人税法34条1項1号は、支給時期が1ヶ月以下の一定期間ごとであり、かつその事業年度内の各支給時期における支給額が同額であるものを「定期同額給与」と定め、この要件を満たす役員給与を損金算入の対象としています(法人税法34条1項1号)。逆に言えば、事業年度の途中で金額を変え、変更前と変更後で支給額が異なる期間が生じると、その差額部分は原則として損金に算入できません。
この規定がある理由は、役員報酬という「会社と役員の力関係次第でいくらでも動かせる支出」を利益調整の手段に使わせないためです。国税庁の解説でも、定期給与の額の改定を期中に認める例外は「利益調整等の恣意性があるとはいえないもの」に限る、という考え方が示されています(国税庁「役員給与に関するQ&A」)。この原則がある以上、「資金繰りが厳しいから今月から下げる」という単純な理由だけでは、税務上は認められません。
期中でも減額が認められる3つの改定事由
定期同額給与であっても、次の3つの事由による改定であれば、期中の変更でも損金算入が認められます(法人税法施行令69条1項1号イ・ロ・ハ)。
| 改定事由 | 内容 | 資金繰り対策としての使いやすさ |
|---|---|---|
| イ:通常改定 | 事業年度開始の日から3ヶ月を経過する日までにされた改定 | 期首から3ヶ月以内であれば理由を問わず使えるが、資金繰りが悪化してから使える期間は限られる |
| ロ:臨時改定事由 | 役員の役職上の地位の変更や職務内容の重大な変更など、やむを得ない事情による改定 | 資金繰りの悪化そのものを理由にはできない |
| ハ:業績悪化改定事由 | 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定(減額の場合に限る) | 資金繰り対策として現実的に使える唯一の期中減額ルート |
イ(通常改定)は事業年度開始から3ヶ月以内という期限があるため、資金繰りが年度の途中で急に悪化した場合には使えません。ロ(臨時改定事由)は地位や職務内容の変更が前提であり、資金繰り目的の減額には使えません。したがって、期中に資金繰りを理由として役員報酬を下げる場合、実務上はハ(業績悪化改定事由)に該当するかどうかが焦点になります。
「業績悪化改定事由」として認められる範囲
法人税基本通達9-2-13は、業績悪化改定事由にいう「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」について、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうとし、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないとしています(法人税基本通達9-2-13)。国税庁のQ&Aでも、これを敷衍して「経営状況の悪化に伴い、株主、債権者、取引先等の第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情」が生じている必要があるとされています(国税庁「役員給与に関するQ&A」)。
具体的に該当するとされる例として、国税庁の同Q&Aは、①株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与を減額せざるを得ない場合、②取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において役員給与を減額せざるを得ない場合、③業績や財務状況・資金繰りの悪化により、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要から策定された経営改善計画に役員給与の減額が盛り込まれている場合、の3つを挙げています(国税庁「役員給与に関するQ&A」)。つまり、「資金繰りが苦しいから下げたい」という経営者本人の判断だけでなく、金融機関への説明や経営改善計画への組み込みなど、第三者から見て客観的に裏付けられる事情があるかどうかが分かれ目になります。
理由のない減額は税負担を増やす|損金不算入の仕組み
期中の減額がイ・ロ・ハのいずれにも該当しない場合、何が起きるのかを具体的に見ておきます。法人税法施行令69条1項1号は、改定があった場合、改定前の期間と改定後の期間とに区分し、それぞれの期間内の各支給時期における支給額が同額であるかどうかで定期同額給与への該当性を判定すると定めています(法人税法施行令69条1項1号)。国税庁の質疑応答事例は増額改定のケースでこの考え方を示しており、増額改定前の低い支給額に相当する部分は引き続き定期同額給与として認められ、それを超えて上乗せした部分だけが損金不算入になるとしています(国税庁「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)」)。
これと同じ期間区分の考え方を、減額のケースに当てはめると次のようになります。
- 例:月80万円で支給していた役員報酬を、事業年度の途中(通常改定の期限後)に、業績悪化改定事由に該当しない理由で月50万円に減額した場合
- 改定後の期間は各支給時期とも月50万円で同額なので、この期間は定期同額給与に該当する
- 改定前の期間は、年度を通じて本来は改定後と同じ月50万円で支給されるべきだったところを月80万円で支給していたことになるため、80万円のうち50万円を超える30万円の部分(減額改定までの月数分)は、定期同額給与に該当せず損金不算入になる
つまり、資金繰りのために報酬を下げたにもかかわらず、下げる前にすでに支払ってしまった高い金額の一部が経費として認められず、法人税の計算上は利益に加算されてしまいます。資金はすでに会社の外に出ているのに、税務上はその分の負担軽減効果を受けられない、という二重の不利益が生じるわけです。これが、期中の役員報酬減額を「思いつきで」行ってはいけない最大の理由です。
減額の手続き|株主総会決議と議事録
税務上の要件を満たしていても、手続きを飛ばして良いわけではありません。取締役の報酬は、定款にその額を定めていない場合、株主総会の決議によって定めることとされています(会社法361条1項)。役員報酬の減額もこの規定の対象であり、代表取締役が独断で金額を変更しても、会社法上有効な決定とは言えません。
実務上の進め方は次の順序になります。
- 減額の理由と時期を整理する:業績悪化改定事由に該当する客観的な事情(金融機関との協議内容、経営改善計画の内容など)を書面で残しておく
- 株主総会(取締役会設置会社であれば取締役会への報告も含め)を開催し、決議を得る:同族会社で株主が経営者本人のみの場合でも、議事録の作成は省略しない
- 議事録を作成し保管する:税務調査の際に、減額が業績悪化改定事由に該当することを説明する根拠資料になる
- 改定後の金額を、以後の事業年度末まで同額で支給し続ける:再度期中で変更すると、同じ問題が繰り返される
議事録の作成を省略してしまうと、後になって業績悪化改定事由に該当することを税務署に説明する材料が乏しくなり、否認されるリスクが高まります。
実体験:管理部門を統括してきた立場から
正直に書きます。私自身が、自分の役員報酬について株主総会での減額改定の当事者になった経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は「自分の報酬を下げた」経験ではなく、「固定費や人件費の見直しをどの順番で、どこまでの根拠を揃えて進めるべきかを判断してきた」側の視点に基づいています。
固定費の見直しの議論では、「役員報酬を下げれば資金繰りが楽になる」という結論だけが先に出て、なぜその金額に、いつから下げるのかという根拠づけが後回しになりがちです。しかし役員報酬に限っては、根拠と手続きを飛ばした変更が、資金繰り対策のつもりが税負担の増加という逆効果を招くという、他の固定費にはない特有のリスクがあります。だからこそ、下げる前に「業績悪化改定事由に当てはまるか」「株主総会の決議と議事録は揃っているか」を確認する順番を崩さないことが重要だと考えています。
次にやること
まず、今期すでに事業年度開始から3ヶ月を経過しているかを確認してください。 経過していなければ「通常改定」として理由を問わず減額できます。すでに経過している場合は、金融機関との協議や経営改善計画など、業績悪化改定事由に該当すると第三者に説明できる客観的な事情があるかを確認したうえで、税理士に相談しながら株主総会の決議と議事録の準備を進めてください。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。業績悪化改定事由への該当性は個別の事情によって判断が分かれるため、実際に役員報酬を減額する際は、顧問税理士または税務署にご確認ください。
出典 - 法人税法第34条第1項第1号(役員給与の損金不算入)(2026年9月6日、法令集サイトで条文原文を確認) - 法人税法施行令第69条第1項第1号イ・ロ・ハ(定期同額給与の範囲等)(2026年9月6日、法令集サイトで条文原文を確認) - 会社法第361条第1項(取締役の報酬等)(2026年9月6日、法令集サイトで条文原文を確認) - 国税庁「役員給与に関するQ&A」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf(2026年9月6日、原文で該当箇所を確認) - 国税庁「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/03.htm(2026年9月6日確認。増額改定の設例のため、減額のケースは施行令69条1項1号の期間区分の原則を本記事で対称的に当てはめたもの) - 法人税基本通達9-2-13(経営の状況の著しい悪化に類する理由)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_03.htm(2026年9月6日、原文で確認)