資金繰り予測の作り方
- 資金繰り予測は、資金繰り表の「予定」欄を埋める作業で、実績欄とは役割が違う。月末現金残高を「前月末残高+入金予定-出金予定」の式で3ヶ月分積み上げて先を読む作業
- 入金は売掛金の回収予定日ベース、出金は固定費(家賃・人件費・借入返済)と変動費(仕入)を分けて洗い出す
- 賞与・社会保険料の増額・消費税や法人税の中間納付など、月によってしか出ない出金を見落とすと予測が外れる
- 簡易シミュレーションは概算把握が目的であり、実際の資金調達判断には請求書・通帳の実データでの裏付けが必要
この記事の内容
この記事は、日々の入出金はなんとなく把握しているものの、3ヶ月先の現金残高が読めずに不安を抱えている経営者・個人事業主に向けて書いています。 結論から言うと、資金繰り予測は「今月末の現金残高」に「入ってくるお金」を足し、「出ていくお金」を引く作業を3ヶ月分積み上げるだけで作れます。特別な会計知識や高価なソフトは要りません。この記事では、その作り方を手順と計算例で示します。
- 通帳の残高は見ているが、来月・再来月に足りなくなるかどうかが分からない
- 資金繰り表という言葉は聞いたことがあるが、過去の記録なのか将来の予測なのか区別できていない
- 何を入金・出金として洗い出せばいいのか、項目の立て方が分からない
結論:月末残高を3ヶ月分、積み上げるだけで作れる
資金繰り予測の骨格は、次の1本の式です。
当月末の現金残高 = 前月末の現金残高 + 当月の入金予定 - 当月の出金予定
この式を1ヶ月分計算したら、出てきた「当月末の現金残高」を次の月の「前月末の現金残高」として使い、同じ計算をもう一度繰り返します。これを3回繰り返せば3ヶ月先までの現金残高が見えます。難しいのは計算式ではなく、「入金予定」と「出金予定」に何を、いくらで入れるかという洗い出しの部分です。この記事ではそこに絞って手順を示します。
資金繰り表の「実績」欄と「予定」欄は役割が違う
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21は、資金繰り表を「資金繰り実績表」と「資金繰り予定表」の2種類に分け、後者を「これからの会社経営に伴う資金の動きをみるためのもの」と説明しています(出典:J-Net21「資金繰り表を活用する」https://j-net21.smrj.go.jp/solution/handbook/finance/table.html、2026年10月確認)。つまり資金繰り表そのものが「過去だけの記録」というわけではありません。
実績欄は、すでに通帳に記帳された金額を、科目別に並べて「何が起きたか」を確認する部分です。これだけでは、これから先の現金残高は分かりません。
この記事で扱う「資金繰り予測」は、まだ起きていない先の入出金を見積もって、将来の現金残高を試算する部分、つまり予定欄を埋める作業です。実績を土台にはしますが、目的が違います。実績欄は振り返り、予定欄は先読みです。実績だけを毎月つけていても、3ヶ月後に現金が足りなくなることには気づけません。
比較表:資金繰り表の実績欄と予定欄(資金繰り予測)の違い
| 項目 | 資金繰り表の実績欄 | 予定欄(資金繰り予測) |
|---|---|---|
| 対象期間 | 過去〜現在(すでに確定した入出金) | 未来(まだ確定していない入出金) |
| 目的 | 何にいくら使ったかを把握する | 先の現金残高が足りるかを試算する |
| 数字の根拠 | 通帳・帳簿の実績値 | 請求書の入金予定日・契約上の支払期日などの見積り |
| 使うタイミング | 月次・週次の締めのあと | 資金が足りなくなる前(この記事の対象) |
| 見るべき頻度 | 過去分を都度追加 | 状況が変わるたびに更新(見積りのため) |
資金繰り予測は見積りである以上、常に実績とのズレが出ます。ズレが出ること自体は問題ではなく、そのズレを見つけたら予測を更新し続けることが運用の本体です。
手順:3ヶ月先の資金繰り予測を作る5ステップ
ステップ1:今日時点の現金残高を確定する
事業用の預金口座の残高(複数口座があれば合計)と、手元現金を足した金額を「起点」とします。ここが曖昧だと、この先の積み上げがすべてずれます。
ステップ2:入金予定を洗い出す
発行済みの請求書のうち未回収のものを、入金予定日ごとに並べます。掛取引が中心の場合は、取引先ごとの支払サイト(例:月末締め翌月末払い)から入金予定日を逆算します。借入の実行予定があれば、それも入金として入れます。
ステップ3:出金予定を「固定費」と「変動費」に分けて洗い出す
固定費は家賃・人件費(給与)・リース料・借入返済・保険料など、毎月ほぼ一定額で出ていくものです。変動費は仕入・外注費など、売上や生産量に応じて変わるものです。分けて洗い出す理由は、固定費は先の月までそのまま横に伸ばせるのに対し、変動費は月ごとに見積り直す必要があるためです。
ステップ4:月ごとに「入金-出金」を計算し、前月末残高に足す
ステップ1の起点に、当月の入金予定を足し、出金予定を引きます。出てきた金額がその月の月末残高です。
ステップ5:その月末残高を次の月の起点にして、同じ計算を繰り返す
これを3回繰り返すと3ヶ月先までの月末残高が並びます。途中の月でマイナスになる、または想定より大きく減る月が見つかったら、その月が対策を打つべき月です。
計算例:仮の数字で3ヶ月分の現金残高を出す
次の前提で、10月・11月・12月の3ヶ月分を試算します。数値は説明のための仮置きです。自社の実際の請求書・支払予定に置き換えて計算してください。
| 前提項目 | 9月末時点 |
|---|---|
| 現金残高(起点) | 300万円 |
| 月 | 入金予定 | 出金予定(内訳) | 当月末残高 |
|---|---|---|---|
| 10月 | 450万円(売掛金回収) | 380万円(仕入180万+人件費150万+家賃30万+借入返済20万) | 300+450-380=370万円 |
| 11月 | 400万円(売掛金回収) | 460万円(仕入160万+人件費150万+家賃30万+借入返済20万+冬季賞与100万) | 370+400-460=310万円 |
| 12月 | 420万円(売掛金回収) | 420万円(仕入170万+人件費150万+家賃30万+借入返済20万+消費税中間納付50万) | 310+420-420=310万円 |
消費税の中間納付の月は、課税期間の開始月で変わります。国税庁の説明では、直前の課税期間の確定消費税額が48万円超400万円以下なら年1回で、納付額は直前の確定消費税額の6/12に、その22/78の地方消費税額を加えた額、期限は中間申告の対象期間(課税期間の開始から6ヶ月)の末日の翌日から2ヶ月以内です(出典:国税庁タックスアンサー No.6609「中間申告の方法」、2026年10月確認)。この例の12月納付は、4月決算の法人を想定した仮置きです。3月決算なら11月、個人事業者(12月締め)なら8月になります。【各自確認:自社の直前の確定消費税額から中間申告の回数と納付月を割り出す。国税庁タックスアンサー No.6609と、直近の確定申告書の控えで確認】
この例では3ヶ月とも現金残高がプラスで、一見問題なさそうに見えます。ただし11月は賞与、12月は消費税の中間納付という「毎月は出ない出金」が入ったことで、11月は出金が入金を60万円上回り、12月は入金と出金が同額(420万円)になっています。もしこの2つの項目を洗い出しの段階で見落としていたら、11月の予測は実際より100万円、12月は賞与の分が繰り越されるため実際より150万円(賞与100万円+消費税50万円)多い残高として出てしまい、資金が足りなくなる兆候に気づけません。この見落としを防ぐための項目を、次のチェックリストにまとめます。
チェックリスト:予測に入れ忘れやすい項目
- □ 賞与(夏季・冬季)の支給月と概算額を入れたか
- □ 社会保険料の算定基礎届による改定(7月1日現在の被保険者について毎年7月10日までに届出、決まり直した標準報酬月額は9月から翌年8月まで適用。日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html。保険料の納付期限は対象月の翌月末のため、9月分は10月末が納付期限。日本年金機構「納付期限」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20121121.html、2026年10月確認)で、会社負担額が変わっていないか
- □ 消費税・法人税・法人住民税・法人事業税の中間申告・納付の月を入れたか(法人税は事業年度開始から6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内=法人税法71条、国税庁「法人税のあらましと申告の手引」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2024/pdf/01.pdf。前事業年度の法人税額を6ヶ月分に換算した額が10万円以下なら中間申告は不要。法人都民税は、法人税法71条1項ただし書で法人税の中間申告を要しない場合は中間申告の義務なし=東京都主税局。消費税は上の計算例の注を参照)
- □ 借入の返済スケジュール(元金+利息)を、返済表どおりの金額で入れたか(据置期間が終わる月に返済額が変わる場合は特に注意)
- □ 大口取引先からの入金予定日を、実際の支払サイト(締め日・支払日)で確認したか(相手の資金繰り都合で遅れることもあるため、確定ではなく予定として扱う)
- □ 季節変動がある事業の場合、繁忙期・閑散期で売上と仕入の波を反映したか
- □ 保険料(年払い契約のもの)や更新料など、年1回だけ発生する出金を該当月に入れたか
次にやること
まず、今日時点の現金残高(預金口座の合計+手元現金)を確定し、この記事の計算例の表と同じ形で、来月・再来月・翌々月の3行だけ埋めてみてください。 入金は発行済みの請求書から、出金は固定費と、上のチェックリストにある「毎月は出ない項目」から拾います。3行を埋めた時点でマイナスになる月、または残高が大きく減る月が見つかったら、その月を起点に資金調達や支払時期の調整を検討してください。
※本記事は2026年9月時点の一般的な実務整理で、制度の数字は2026年10月に中小企業基盤整備機構(J-Net21)・日本年金機構・国税庁・東京都主税局の公開ページで確認しています。計算例の数値は説明のための仮置きであり、実際の資金繰り判断には請求書・返済予定表・通帳等の実データでの裏付けが必要です。個別の資金調達・納税スケジュールの判断は、必要に応じて税理士等の専門家にご相談ください。