納期の特例で源泉所得税を年2回に
- 源泉所得税の納期の特例は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者が使える制度で、承認を受けると1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日にまとめて納付できる(国税庁No.2505・所得税法216条ほか)
- 申請書に提出期限は無いが、提出した月の翌月に支払う給与等から適用対象になる
- 税務署長から却下の通知が無ければ、申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされる(みなし承認、国税庁No.2505)
- 対象は給与・退職手当・税理士等の一定の報酬の源泉徴収に限られ、原稿料・講演料・外交員報酬は対象外(国税庁A2-8・No.2795・No.2804)
この記事の内容
この記事は、給与から天引きした源泉所得税を毎月10日までに納めていて、この事務と資金繰りの負担を減らせないか知りたい経営者・個人事業主に向けて書いています。 結論から言うと、「源泉所得税の納期の特例」という制度を使えば、給与の支給人員が常時10人未満であることを条件に、納付を毎月から年2回(1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日)にまとめられます。申請書を出すだけで使える制度ですが、いつ提出したかで最初に特例が効く月がずれるため、仕組みを知らずに提出すると「思ったより効果が出るのが遅い」ということが起きます。
- 毎月10日の源泉所得税の納付が地味に事務負担で、まとめて納められないか知りたい
- 「納期の特例」という言葉は聞いたことがあるが、自社が対象になるのか分からない
- 申請書を出したら、いつから納付がまとまるのか知りたい
結論:給与の支給人員が常時10人未満なら、納付を年2回にまとめられる
源泉所得税の納期の特例とは、給与等から天引き(源泉徴収)した所得税及び復興特別所得税について、通常は「支払った月の翌月10日まで」の納付を、年2回にまとめて納められる制度です。対象になるのは、給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者で、承認を受けると1月から6月までに支払った分は7月10日まで、7月から12月までに支払った分は翌年1月20日までに納付すればよくなります(国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」で確認、2026年9月10日確認)。手続きは「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を所轄税務署に提出するだけで、承認された(またはみなし承認された)月の翌月に支払う給与等から対象になります。
源泉所得税の納期の特例とは何か
給与や退職手当、税理士等への一定の報酬を支払う事業者は、支払いの際に所得税(源泉所得税)を天引きし、原則として支払った月の翌月10日までに国に納める義務があります(国税庁、同上、2026年9月10日確認)。従業員数が少ない小規模な事業者にとって、毎月この納付事務を行うのは負担になります。そこで設けられているのが納期の特例で、承認を受けると納付の回数が年12回から年2回に減ります。金額そのものが減るわけではなく、あくまで「まとめて納める」制度である点には注意してください。
対象になる要件は何か:常時10人未満の判定
納期の特例が使えるかどうかは、給与の支給人員が常時10人未満かどうかで決まります。
対象になるのは「給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者」です(国税庁、同上、2026年9月10日確認)。パート・アルバイトを含めた人数でカウントするのか、繁忙期だけ一時的に10人を超えた場合はどう扱うのかといった細かい判定基準は、国税庁の「給与等の支払を受ける者が常時10人未満であるかどうかの判定」の案内で個別に示されています。自社の人員構成で判定に迷う場合は、申請前に所轄税務署または顧問税理士に確認してください。なお、承認後に給与の支給人員が常時10人以上となり要件から外れた場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出する必要があります(国税庁「A2-9 源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出」、2026年9月10日確認)。
特例の対象になる所得の範囲
納期の特例の対象になる源泉所得税は、次の支払いに限られます(国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」で確認、2026年9月10日確認)。
- 給与等から源泉徴収した所得税及び復興特別所得税
- 退職手当等から源泉徴収した所得税及び復興特別所得税
- 税理士、弁護士、司法書士など一定の報酬から源泉徴収した所得税及び復興特別所得税
原稿料や講演料、外交員報酬は、この特例の対象に含まれません。国税庁「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」には「納期の特例の対象とはなりません」と明記されており、「No.2804 外交員等に支払う報酬・料金」にも「支払者が源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合であっても、外交員等に支払う報酬・料金については、納期の特例の対象とはなりません」と明記されています(いずれも2026年9月10日確認)。これらの支払いは、納期の特例の承認を受けていても、支払った月の翌月10日までに毎月納付する必要があります。取引先に支払う報酬の種類が多い場合は、どの支払いが特例の対象になるかを事前に税務署または税理士に確認してください。
申請書の提出先と提出方法
申請書の名称は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」で、提出先は特例の適用を受けようとする給与支払事務所等の所在地の所轄税務署です。提出方法は、書面であれば税務署窓口への持参または郵送、そのほかe-Taxソフトを使ったオンライン提出も可能です。申請書自体は国税庁ホームページから入手できます(国税庁、同上、2026年9月10日確認)。
この申請書には決まった提出期限がありません。いつ提出しても受け付けてもらえますが、次の項で説明するとおり、提出する月によって特例が効き始めるタイミングが変わります。
特例はいつから効くか:みなし承認の仕組み
申請書を提出すると、税務署で承認または却下の審査が行われますが、実務上は「みなし承認」という規定で処理されるのが一般的です。国税庁の案内では「税務署長から納期の特例の申請について却下の通知がない場合には、この納期の特例申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされ」ると説明されています。つまり税務署長から却下の通知が無ければ、申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされます(国税庁、同上、2026年9月10日確認)。
そして、特例の対象になるのは、申請書を提出した月の翌月に支払う給与等からです。例えば7月に申請書を提出した場合、8月に支払う給与から特例の対象になります。7月分の給与(8月10日納付)は通常どおりの納付が必要で、そこから先の8月分・9月分…12月分をまとめて、翌年1月20日までに納付する形になります。申請書を提出した月以前の分は、原則どおり毎月納付が必要という点に注意してください。
計算例:申請月によって最初の資金繰り効果は何日分違うか
ここまでの「提出した月の翌月支払い分から対象」というルールだけを使い、申請月による違いを実際に計算します。前提は次のとおりです。
| 前提項目 | 設定値 |
|---|---|
| 給与にかかる源泉所得税額 | 毎月5万円(仮定) |
| 通常の納付期限 | 支払った月の翌月10日 |
| 特例適用後の納付期限 | 1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日 |
パターン1:1月に申請書を提出した場合
2月に支払う給与から対象になります。1月分の給与にかかる源泉税(5万円)は通常どおり2月10日納付ですが、2月分以降は特例対象になり、2〜6月分(合計25万円)をまとめて7月10日に納付します。本来なら2月分は3月10日納付のはずが7月10日になるため、2月分の5万円は約4か月(3月10日→7月10日)納付が先延ばしになります。
パターン2:7月に申請書を提出した場合
8月に支払う給与から対象になります。7月分までは通常どおり毎月納付、8〜12月分(合計25万円)をまとめて翌年1月20日に納付します。本来なら8月分は9月10日納付のはずが翌年1月20日になるため、8月分の5万円は約4か月10日(9月10日→翌年1月20日)納付が先延ばしになります。
どちらのパターンでも、申請書を提出した直後の月ではなく、その翌月分から効果が出始める点は共通です。「今月中に申請すれば来月分から即まとまる」わけではないので、資金繰り計画に組み込む際は、実際に効果が出る月を1か月ずらして見込んでください。
チェックリスト:申請前に確認すること
申請書を提出する前に、次の点を確認してください。
- □ 給与の支給人員が常時10人未満であるか(パート・アルバイトを含めた実態で確認)
- □ 対象にしたい支払いが、給与・退職手当・税理士等の一定の報酬のいずれかに当てはまるか
- □ 申請書の提出先が、給与支払事務所等の所在地を管轄する税務署になっているか
- □ 提出する月によって、特例が効き始めるのが「翌月支払い分から」であることを資金繰り計画に反映しているか
- □ すでに滞納している源泉所得税が無いか(滞納がある場合の取り扱いは税務署に確認する)
実体験:毎月の源泉税納付を経理担当が処理していた立場から
正直に書きます。私自身が「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を自分の手で作成・提出した経験はありません。前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括していましたが、源泉所得税の実務は経理担当者が毎月処理しており、私自身が申請書を書く立場ではありませんでした。
ただ、毎月10日前後になると経理から「源泉税の納付、今月分お願いします」という確認が来ていたのは覚えています。従業員数が一定規模になると特例の対象外になるため、会社の規模が大きくなるにつれて「毎月納付が当たり前」という感覚になっていきました。逆に言えば、従業員10人未満の小規模な段階でこそ使える制度だということは、この記事を書く過程で改めて確認しました。
次にやること
まず、自社の給与の支給人員が常時10人未満かどうかを確認し、当てはまるなら「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を所轄税務署にすぐ提出してください。 提出した月の翌月支払い分から対象になるため、早く提出するほど、早い月から納付事務と資金繰りの負担が軽くなります。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。制度の詳細・自社の適用可否については、所轄税務署または顧問税理士にご確認ください。
出典 - No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm(2026年9月10日確認) - A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_14.htm(2026年9月10日確認) - A2-9 源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_15.htm(2026年9月10日確認) - No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2795.htm(2026年9月10日確認) - No.2804 外交員等に支払う報酬・料金|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2804.htm(2026年9月10日確認)