でんさい(電子記録債権)とは
- でんさいは電子記録債権法(平成19年法律第102号)に基づき、でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク、2013年2月18日業務開始)が記録・管理する金銭債権で、手形と違い印紙税がかからず紛失リスクもない
- 全国銀行協会は2027年度初から電子交換所での手形・小切手の交換を廃止する方針に切り替えており、2026年1月施行の改正下請法(取適法)で手形払いも原則禁止されたため、手形からでんさいへの切り替えは今後さらに進む見通し
- 移行時の最大の注意点は「取引先もでんさいネット参加金融機関に口座を持っている必要がある」こと
この記事の内容
この記事は、取引先から「今後はでんさいでお願いします」と言われた、あるいは自社で手形からの切り替えを検討している経理担当者・一人社長に向けて書いています。 結論から言うと、でんさいは手形の電子版にあたる仕組みで、印紙税がかからず紛失リスクもない代わりに、取引先が同じネットワークの金融機関に口座を持っている必要があるという条件があります。
- 取引先から急に「でんさいで」と言われて、何のことか分からない
- 手形とどう違うのか、メリット・デメリットを整理して判断したい
- 自社もでんさいに切り替えるべきか、まだ迷っている
結論:でんさいは「手形の電子版」
でんさいとは、電子記録債権法(平成19年6月27日法律第102号、2008年12月1日施行)に基づいて創設された金銭債権の一種で、株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称「でんさいネット」、平成22年6月8日設立、平成25年2月18日業務開始)がコンピューター上で発生・譲渡の記録を行う仕組みです(でんさいネット公式サイトで確認)。手形が紙の証券に金額・支払期日を記載して振り出すのに対し、でんさいはでんさいネットのシステムに「発生記録」を登録することで同じ機能を電子的に実現します。最大の違いは、印紙税が不要になる点と、紙の現物を保管・郵送する手間がなくなる点です(でんさいネット公式サイトで確認)。
急に言われても、分からなくて当然の話
取引先から「今後はでんさいで」と言われて戸惑うのは、知識不足のせいではありません。でんさいネットの業務開始は2013年で、まだ全ての企業に浸透しているわけではなく、実務で初めて触れる人が多い制度です。 焦って契約せず、まず仕組みを理解してから対応しても遅くありません。
でんさい(電子記録債権)とは何か
でんさいは、手形や売掛債権が抱えていた「紛失・盗難のリスク」「保管・郵送のコスト」「分割ができない」といった問題点を電子化によって解消するために作られた金銭債権です(でんさいネット公式サイトで確認)。仕組みとしては、支払う側(債務者)と受け取る側(債権者)がともにでんさいネットの参加金融機関に口座を持ち、その口座を通じて発生記録・譲渡記録をやり取りします。支払期日になると、手形のように窓口に持参して取り立てる必要はなく、口座間で自動的に送金されます。
参加している金融機関は、都市銀行・地方銀行・信用金庫・信用組合など、2026年5月2日時点で488機関(都市銀行5、地方銀行61、信用金庫253など)に及びます(でんさいネット公式サイトで確認)。自社が取引している銀行がでんさいネットに参加しているかどうかは、その銀行の窓口またはでんさいネット公式サイトの参加金融機関一覧で確認できます。
比較表:でんさい vs 約束手形
| 項目 | でんさい | 約束手形 |
|---|---|---|
| 形式 | 電子データ(でんさいネットのシステム上で記録) | 紙の証券 |
| 印紙税 | かからない(でんさいネット公式サイトで確認) | かかる。手形金額10万円未満は非課税、10万円以上100万円以下は200円、以降金額に応じて段階的に増額(国税庁タックスアンサーNo.7103で確認) |
| 紛失・盗難リスク | ネットワーク上で管理されるため実質的にない | 現物を紛失・盗難されると再発行等の手続きが必要になる |
| 保管・郵送 | 不要 | 現物の保管・郵送が必要 |
| 分割 | 分割して譲渡・割引が可能(でんさいネット公式サイトで確認) | 原則として分割不可 |
| 支払い方法 | 支払期日に口座間で自動送金 | 支払期日に手形を金融機関に持参して取り立て |
| 必要条件 | 債務者・債権者ともにでんさいネット参加金融機関に口座が必要 | 手形帳を持つ当座預金口座があれば発行可能 |
なぜ今、手形からでんさいへの移行が進んでいるのか
全国銀行協会は2021年7月19日に「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を制定し、当初は2026年度末までに全国の手形交換所における紙の約束手形・小切手の交換枚数をゼロにする目標を掲げていました。しかし2024年時点の削減進捗が年間目標の6割程度にとどまったことを踏まえ、全国銀行協会は2025年3月26日に計画を見直し、2027年度初から電子交換所での手形・小切手の交換そのものを廃止する方針に切り替えています(全国銀行協会公式サイトで確認)。この「廃止」は電子交換所を通じた取扱いの終了を意味し、手形・小切手そのものがその日から使えなくなるわけではありませんが、各金融機関の判断で郵送等による相対決済への移行が進むとされています。
さらに2026年1月1日には、下請法を改正した「中小受託取引適正化法(取適法)」が施行され、対象となる委託取引では手形による支払いそのものが原則として禁止されました(中小企業庁公式サイトで確認)。手形に代わる支払手段としてでんさいが使われる場面もありますが、取適法では支払期日までに現金化することが困難な電子記録債権も同様に禁止対象とされているため、でんさいを使う場合も現金化しやすい条件での運用が求められます。法律で紙の手形自体が全面的に禁止されるわけではありませんが、金融機関の実務対応と下請取引の法規制の両面から電子化が進んでいるため、今後は取引先から「でんさいへの切り替え」を求められる場面がさらに増える見通しです。
でんさいの仕組み:発生記録・譲渡記録
でんさいの取引は、大きく分けて2つの「記録」で成り立っています。
- 発生記録:債務者(支払う側)が、支払金額・支払期日・債権者などを登録することで、でんさいが発生する。手形の「振り出し」にあたる
- 譲渡記録:債権者(受け取る側)が、支払期日より前に資金が必要な場合、そのでんさいを金融機関に譲渡(割引)したり、第三者に譲渡したりする記録を行う。手形の「裏書」にあたる
手形と大きく違うのは、この譲渡記録が債権の一部だけを切り出して分割することができる点です(でんさいネット公式サイトで確認)。たとえば500万円のでんさいのうち200万円分だけを先に資金化し、残り300万円は支払期日まで保有する、といった使い方ができます。手形は原則として金額を分割できないため、この点は資金繰りの柔軟性という意味で明確な違いになります。
でんさい割引とファクタリングはどう違うか
でんさいを支払期日より前に現金化する方法として、金融機関に買い取ってもらう「でんさい割引」があります。これは、売掛金を売却して早期資金化する「ファクタリング」と目的は近いものの、対象となる債権の性質が異なります。でんさいは発生時点で金融機関のネットワークに記録された確定債権であるのに対し、ファクタリングは請求書ベースの売掛債権(でんさいに記録されていないもの)も対象にできます。取引先がでんさいネットに参加していない、あるいはでんさい化されていない請求書を早期に現金化したい場合は、でんさい割引ではなくファクタリングが選択肢になります(ファクタリングの選び方はファクタリングおすすめ3選を参照してください)。
切り替え前に確認すべきこと
- 取引先もでんさいネット参加金融機関に口座を持っているか:自社だけが対応していても、相手が非対応なら発生記録を登録できません
- 手数料体系:発生記録・譲渡記録には金融機関ごとに手数料がかかります。既存の当座取引の手数料体系と比較してください(手数料額は金融機関ごとに個別に確認する必要があります)
- 時効の違い:約束手形は、振出人に対する請求権が手形法上3年で時効消滅します(手形法77条1項8号・70条1項)。でんさいも同じく3年で、電子記録債権法23条が「電子記録債権は、これを行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」と明文で定めています(電子記録債権法23条で確認)。一般の金銭債権に適用される民法166条の消滅時効(権利行使できると知った時から5年、権利行使できる時から10年のいずれか早い方)より短い期間になる点に注意してください。個別の取引に関わる法的な判断は、顧問弁護士や取引金融機関に確認してください
実体験:手形の事務作業を見てきた立場から
正直に書きます。私自身がでんさいを利用者として使った経験はありません。前職では執行役員として管理部門を統括する立場にいたため、この記事は「利用者として体験した」視点ではなく、「手形の事務処理を見てきた側」として感じていたことに基づいています。
手形は、振り出しのたびに収入印紙を用意し、金額を確認し、金庫に保管し、期日には銀行に持参するという、地味だが確実に人手がかかる作業でした。担当者が休むと処理が滞る、紛失すると再発行の手続きに追われる、といった「紙であること」自体のリスクを間近で見ていたので、印紙税がかからず現物の保管も要らないでんさいの仕組みは、実務担当者の負担を減らす方向の変化だと感じています。
次にやること
まず、自社の取引銀行がでんさいネットの参加金融機関かどうかを、窓口かでんさいネット公式サイトの一覧で確認してください。 そのうえで、取引先からでんさいへの切り替えを求められている場合は、取引先も同じく参加金融機関に口座があるかを確認し、手数料体系を既存の手形・振込と比較してから判断してください。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。制度・手数料の詳細は各金融機関・でんさいネット公式サイトで最新情報をご確認ください。個別の法的判断については、弁護士や税理士などの専門家にご相談ください。
出典 - 電子記録債権法(平成19年6月27日法律第102号)(2026年9月6日、日本法令索引で確認) - でんさいとは|でんさいネット https://www.densai.net/about/(2026年9月6日確認) - 会社概要|でんさいネット https://www.densai.net/company/(2026年9月6日確認) - 全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)|一般社団法人全国銀行協会 https://www.zenginkyo.or.jp/abstract/efforts/system/densai/(2026年9月6日確認) - 手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画(全国銀行協会、2021年7月19日制定) https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news360329_3.pdf(2026年9月6日確認) - 手形・小切手の電子化に関する中間的な評価を踏まえた抜本的な取組み等について~2027年度初からの電子交換所における手形・小切手の交換廃止等~(全国銀行協会、2025年3月26日) https://www.zenginkyo.or.jp/news/2025/n032601/(2026年9月6日確認) - 【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など「取適法」がもたらす変化|中小企業庁 https://mirasapo-plus.go.jp/infomation/30416/(2026年9月6日確認) - No.7103 約束手形又は為替手形|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7103.htm(2026年9月6日確認) - 手形法第70条・第77条(2026年9月6日、条文原文で確認) - 電子記録債権法第23条(消滅時効)(2026年9月6日、条文原文で確認) - 民法第166条(債権等の消滅時効)(2026年9月6日、条文原文で確認)