小さな会社の資金繰りガイド 苦しくなる前の備えから、危機のときの順番まで
ホーム › 長い案件は分割請求にする
本ページはプロモーションが含まれます

長い案件は分割請求にする

この記事の結論
  • 長い案件を最終検収後の一括請求にすると、着手から入金までのあいだ外注費・人件費を自社が立て替え続ける形になり、その立て替え額(寝ている資金)が案件の進行とともに膨らみ続ける
  • 案件を着手金・中間金・完了金の3回に区切って請求すれば、進行の途中で資金を回収できるため、寝ている資金のピークを圧縮できる(本文の計算例では300万円の一括請求に対し、分割にすると寝ている資金のピークは110万円まで下がる)
  • 民法633条は報酬を仕事の目的物の引渡しと同時に支払うことを原則としており、分割払いにしたい場合は契約書にその旨を明記する必要がある
  • 分割請求は少額・多件数の取引には向かず、単価が大きく期間の長い案件から優先して切り替えるのが現実的
この記事の内容
  1. 結論:検収待ちの一括請求が、資金を寝かせている
  2. なぜ長い案件ほど資金が寝るのか
  3. 分割請求とは何か:着手金・中間金・完了金
  4. 分割請求に向く案件・向かない案件
  5. 分割請求を契約に組み込む手順
  6. 計算例:一括請求と分割請求で「寝ている資金」はどれだけ変わるか
  7. 文例:取引先に分割請求への切り替えを提案する
  8. 実体験:検収完了まで一円も入らない契約を見てきた立場から
  9. 次にやること

この記事は、受託開発・コンサルティング・建設などで着手から完了まで数ヶ月かかる案件を抱え、外注費や人件費を毎月払い続けているのに、入金は最終検収が終わったあとの一括請求だけ、という個人事業主・中小企業の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、案件が長いほど、最終検収まで請求を待つ一括払いは自社が資金を立て替え続ける形になり、その立て替え額(寝ている資金)は案件が進むほど膨らみます。案件を着手金・中間金・完了金のように区切って請求する「分割請求」に変えるだけで、契約金額の総額を変えずに、途中の時点で資金を回収できます。

こんな状態ではありませんか
  • 案件は順調に進んでいるのに、外注費や人件費の支払いで手元資金が先に減っていく
  • 最終検収が終わるまで一切入金が無いため、案件が長引くほど資金繰りが不安になる
  • 取引先に「途中で請求したい」と言うのは角が立ちそうで、切り出し方が分からない

結論:検収待ちの一括請求が、資金を寝かせている

長い案件で「最終検収が終わってから請求書を出す」という一括払いの形にしていると、案件の着手から入金までのあいだ、外注費・人件費・材料費などのコストは自社が先に立て替え続けることになります。案件が1ヶ月で終わるなら立て替え期間も短くて済みますが、3ヶ月・半年とかかる案件では、その分だけ立て替え額が積み上がった状態が長く続きます。この「まだ回収できていない立て替え額」が、この記事で言う「寝ている資金」です。 案件を着手金・中間金・完了金のように区切って請求する分割請求に変えれば、契約金額の総額はそのままに、途中の時点で一部を回収でき、寝ている資金のピークを下げられます。

なぜ長い案件ほど資金が寝るのか

一括請求の案件では、入金が発生するのは検収完了後の1回だけです。一方でコスト(外注費・人件費など)は案件の進行に合わせて毎月発生し、多くの場合その都度支払う必要があります。つまり、案件が進めば進むほど「支払い済みだが、まだ回収していない金額」が増え続け、検収が完了して請求書を出し、実際に入金されるまでその状態が解消されません。

案件が1ヶ月で終わるなら、この立て替え期間は短くて済みます。しかし3ヶ月・半年とかかる案件では、立て替え額が高い水準のまま数ヶ月間続くことになり、その間に別の支払い(家賃・給与・他の案件の外注費など)が重なると、案件自体は黒字で進んでいても手元の現金が足りなくなることがあります。これは、この記事の親カテゴリである資金繰りの問題によく見られる「利益は出ているのに現金が足りない」構造の典型例です。

分割請求とは何か:着手金・中間金・完了金

分割請求とは、案件全体の完了(最終検収)を待たず、案件を進行段階ごとに区切り、区切りごとに請求書を発行する方式です。よく使われる区切り方は次の3段階です。

  • 着手金:契約成立・案件着手の時点で請求する。案件全体の金額のうち一定割合(例:2〜3割)を先に受け取る
  • 中間金:案件の途中、一部の成果物が完成した時点や、進行が半分を超えた時点で請求する
  • 完了金:最終検収が完了した時点で、残りの金額を請求する

建設業では出来高払い(工事の進捗度合いに応じて請求する方式)、受託開発では要件定義・設計・実装などの工程ごとの検収、コンサルティングでは月次の成果物ごとの請求として、それぞれ同じ考え方が使われています。呼び方は業界によって異なりますが、「最終検収を待たず、進行の途中で区切って請求する」という構造は共通です。 建設業の出来高払いについては、公共工事でも国土交通省が前払金制度・出来高部分払い制度として制度化しており(工期半ばでの中間前金払いなど)、民間の受発注でも同じ発想が使われています(国土交通省「資金繰り対策」ページで確認、2026年9月時点)。

民法633条は、請負契約の報酬について「仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない」と定めています(e-Gov法令検索で条文を確認、2026年9月時点)。つまり契約書に特約が無ければ、報酬全体の支払いは原則として完成物の引渡し(検収)のタイミングまで待つ形になります。分割請求にしたい場合は、この原則とは別に、契約書へ「着手金・中間金・完了金それぞれの金額とタイミング」を明記しておく必要があります。

分割請求に向く案件・向かない案件

  • 向く:期間が長く(目安として1ヶ月を超える)、単価も大きい案件。受託開発・大型のコンサルティング契約・建設工事など。1件あたりの寝る資金額が大きいため、区切って回収する効果が大きい
  • 向く:成果物や進行の区切り(要件定義の完了、中間報告、施工の一部完了など)を客観的に示せる案件。区切りが曖昧だと中間金を請求するタイミングを取引先と合意しづらい
  • 向かない:1〜2週間程度で完了する短い案件。分割するほどの期間がなく、請求業務が増えるだけになりやすい
  • 向かない:取引先の社内規程で、支払いは検収完了後の一括のみと定められている場合(この場合はまず社内規程の範囲内で区切れないか確認する)

すべての案件を一律で分割にする必要はありません。期間が長く、単価が大きい案件から優先して分割請求に切り替えるのが現実的です。

分割請求を契約に組み込む手順

  1. 案件の進行を区切れる地点(要件定義完了・中間報告・一部施工完了など)を洗い出す
  2. 区切りごとの金額配分を決める(例:着手金3割・中間金4割・完了金3割)。配分は案件の性質やコストの発生タイミングに合わせる
  3. 契約書または発注書に、区切りごとの金額・請求のタイミング・支払期日を明記する(民法633条の原則を上書きするのはこの記載)
  4. 見積もり・提案の段階で取引先に分割請求の希望を伝える(契約後に切り替えるより、契約前に条件として提示する方が合意を得やすい)
  5. 既に一括払いで契約済みの案件は、次の契約更新や追加契約のタイミングで分割請求への変更を打診する

計算例:一括請求と分割請求で「寝ている資金」はどれだけ変わるか

次の前提で、同じ案件を「一括請求」と「分割請求(着手金3割・中間金4割・完了金3割)」で比べます。

前提項目 設定値
契約金額(税抜) 300万円
案件期間 4月1日着手〜6月30日最終検収(3ヶ月)
コスト(外注費・人件費) 毎月末に100万円ずつ発生・支払い済み(3ヶ月で計300万円)
取引先の支払条件 月末締め・翌月末払い
分割請求の配分 着手金90万円(4月)・中間金120万円(5月)・完了金90万円(6月)

一括請求の場合:検収完了(6/30)まで請求書を出さず、6月末締めで発行 → 入金は7月31日の1回のみ

分割請求の場合:着手時(4/1)に着手金90万円、中間時点(5/31)に中間金120万円、最終検収(6/30)に完了金90万円をそれぞれ発行(いずれも締め月の末日に発行し、翌月末払い)

各月末時点で、コストの累計発生額に対して入金がどれだけ追いついているかを並べると、次のようになります。

月末時点 コスト累計発生額 一括請求:入金累計 分割請求:入金累計 一括:寝ている資金 分割:寝ている資金
4月末 100万円 0円 0円 100万円 100万円
5月末 200万円 0円 90万円 200万円 110万円
6月末 300万円 0円 210万円 300万円 90万円
7月末 300万円 300万円 300万円 0円 0円

この例では、寝ている資金(コスト発生額から入金額を差し引いた未回収額)のピークは、一括請求だと6月末時点の300万円になります。分割請求にすると、ピークは5月末時点の110万円まで下がります。契約金額の総額も最終的な入金の合計額も変わらず、区切って請求するだけで、案件期間中に立て替え続ける資金の最大額を190万円圧縮できるという計算です。自社の案件に当てはめる場合は、コストの発生月と請求・入金のタイミングを同じように並べてみると、どの区切り方が寝る資金を最も減らせるかを比較できます。

文例:取引先に分割請求への切り替えを提案する

分割請求は取引先にとっても支払い回数が増える依頼になるため、契約前の見積もり段階で条件として提示するか、契約後であれば理由を添えて相談する形にすると通りやすくなります。

件名:お支払い条件(分割請求)のご相談

○○株式会社
○○様

いつもお世話になっております。

このたびの案件につきまして、期間が3ヶ月ほどにわたる見込みのため、
お支払い条件を下記のとおり分割にてご相談させていただきたく、
ご連絡いたしました。

・着手時:契約金額の3割(着手金)
・中間報告完了時:契約金額の4割(中間金)
・最終検収完了時:契約金額の3割(完了金)

それぞれの時点で請求書を発行させていただき、
貴社の締め日・お支払いサイトはこれまでと変わらない前提です。

ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

この文例も、都度請求の打診と同じく「支払サイトなどの基本条件は変えない」ことを明示している点がポイントです。金額配分は案件やコスト発生のタイミングに合わせて調整してください。

実体験:検収完了まで一円も入らない契約を見てきた立場から

私の場合

前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括していましたが、外部の制作会社やコンサルティング会社に発注する案件で、契約書に「検収完了後、一括請求」とだけ書かれているケースを何度も見てきました。案件自体は数ヶ月かけて進んでおり、発注先も相応の人員を投下しているはずですが、契約上は完了まで一円も入らない形になっていたことになります。

このとき感じたのは、発注する側からすると一括後払いの方が支払い管理はシンプルになりますが、受注する側の資金繰りへの負担は契約書の中で誰も検討していないことが多いという点でした。発注側として契約書を作る際に、着手金・中間金の設定を選択肢として提示するだけでも、取引先との関係は変わってくると今は考えています。

次にやること

まず、現在進行中の案件のうち、期間が1ヶ月を超えるものを1つ選び、着手から検収完了までのコスト発生の月次見込みを書き出してください。 そのうえで、着手金・中間金・完了金にどう区切れば寝ている資金のピークを下げられるかを、この記事の計算例と同じ形で並べてみてください。区切りが決まったら、上記の文例をもとに取引先へ相談してみてください。


※本記事は2026年9月時点の一般的な実務整理です。民法633条の条文の引用箇所以外は、法令上の具体的な数字の引用は行っておらず、一般的な商慣行に基づく整理です。契約条件の変更を伴う交渉は、契約書の内容を確認したうえで行ってください。

当サイト運営者

執行役員として、会社の管理部門を統括していました

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

この記事の作り方: 下書きにAIを使い、法令の条文と官公庁の公式ページに照らして事実確認したうえで公開しています。確認の取れない記述が残る記事は公開せず、一次資料が見つからない箇所は本文にそう書いています。確認の手順を見る →

あわせて読みたい