小売店の資金繰り
- 谷は「仕入代金を払う日」から「売れて現金になる日」までの長さでできる
- 計算例(月の仕入180万円、預金200万円)では、在庫60日・仕入先へ30日後払い・売上は現金なら寝ているお金は180万円で20万円余る
- 在庫が90日に増えると360万円で160万円足りない
- 仕入先へ現金前払いだと360万円で160万円足りない
- 在庫を45日に絞れば90万円で110万円余る
- 仕入を1.5倍にすると同じ条件でも70万円足りなくなる
- 在庫日数は「在庫額÷(月の仕入原価÷30)」で自分で出せる
- 今日は「在庫額・月の仕入額・仕入先への支払日」の3つを出す
この記事の内容
この記事は、商品を仕入れて店やネットで売っている小売店の店主で、「売上はあるのに預金が減っていく」と感じている人に向けて書いています。 結論から言うと、原因は儲かっていないことではなく、商品を仕入れて代金を払う日と、その商品が売れて現金になる日の間が長いことです。その長さを数字にして、お金がどれだけ寝ているかを先に知る方法を、計算例つきで書きます。
- 売れているはずなのに、仕入の支払日になると預金が足りない
- 棚に残っている商品が気になるが、いくらぶん寝ているのか分からない
- 品ぞろえを増やしたり、セール前に多めに仕入れたりすると、急に苦しくなる
結論:谷は「仕入代金を払う日」から「売れて現金になる日」までの長さでできる
小売店は、お金の出入りの順番が決まっています。仕入れる、棚に並べる、売れる、入金される。仕入代金は先に出ていき、売上は後から戻ってきます。
寝ているお金は、1日あたりの仕入額に、現金化までの日数をかけた額に近くなります。 毎日仕入れて毎日売る商売なら、現金化までの日数の分だけ、まだ戻っていないお金が常に商品や未入金として積み上がるからです。だから、仕入を増やすほど、寝ているお金も増えます。品ぞろえを広げたり、繁忙期の前に多めに仕入れたりして苦しくなるのは、この形の商売の自然な動きです。
売れているのに苦しいのは、店の腕のせいではありません
棚に商品が並んでいて、お客さんも来ている。それなのに、月末の支払いの前に通帳を見て青くなる。これは、商品を選ぶ目や接客が悪いからではありません。仕入れた商品が現金に戻るまでに時間がかかっているだけです。
「もっと売れば楽になるはず」と考えがちですが、売れる量が増えれば、その分だけ仕入も増え、寝るお金も増えます。自分を責める前に、日数を数えてみてください。数えれば、どこに手を入れるかが決められます。
眠れない日が続くほど追い詰められているときは、お金の整理と並行して、医師にも相談してください。
お金を寝かせる3つの日数
| 日数 | 何のことか | 変えやすさ |
|---|---|---|
| ① 在庫日数 | 仕入れてから売れるまでの平均日数 | 仕入の量と選び方で動かせる |
| ② 入金までの日数 | 売れてから現金が口座に入るまでの日数。現金売上は0日、カードやQR決済は決済会社と契約で決まる | 決済手段の選び方で動くことがある。日数は決済手段別の入金サイクル比較で確認 |
| ③ 支払までの日数 | 仕入れてから仕入先に代金を払うまでの日数 | 仕入先との交渉で動くことがある |
現金化までの日数 = ① 在庫日数 + ② 入金までの日数 − ③ 支払までの日数 です。③が長いほど、仕入先が代金の立て替えを助けてくれている形になり、寝るお金は減ります。
在庫日数は、自分で出せます。在庫日数 = 在庫額(原価)÷(月の仕入原価÷30) です。たとえば、棚卸しで在庫が原価で360万円、月の仕入が180万円なら、360万円÷(180万円÷30)=60日です。在庫の考え方をもう少し詳しく見たい人は在庫が資金繰りを圧迫する仕組みも読んでください。
計算例:月の仕入180万円の店で、寝ているお金はいくらか
読者の状況を1つ仮置きします。数字は実在の店ではありません。
| 前提 | 内容 |
|---|---|
| 月の売上 | 300万円 |
| 原価率 | 60%(月の仕入原価は180万円、1日あたり6万円) |
| 在庫日数 | 60日 |
| 仕入先への支払 | 仕入れてから30日後 |
| 売上の入金 | 全部現金売上(入金0日) |
| 預金 | 200万円 |
式は、寝ているお金=1日あたりの仕入額(6万円)×現金化までの日数です。
| ケース | 現金化までの日数 | 寝ているお金 | 預金200万円との差 |
|---|---|---|---|
| ① 上の前提のまま | 60+0−30=30日 | 6万円×30=180万円 | 20万円の余裕 |
| ② 動きの遅い商品が増え、在庫日数が90日に | 90+0−30=60日 | 6万円×60=360万円 | 160万円の不足 |
| ③ 仕入先が現金前払いのみになった | 60+0−0=60日 | 6万円×60=360万円 | 160万円の不足 |
| ④ 在庫を絞り、在庫日数が45日に | 45+0−30=15日 | 6万円×15=90万円 | 110万円の余裕 |
| ⑤ 売上の半分がカード。入金は売上の20日後(仮定) | 60+10−30=40日 | 6万円×40=240万円 | 40万円の不足 |
| ⑥ ①のまま、仕入を月270万円(1.5倍)に増やす | 30日 | 9万円×30=270万円 | 70万円の不足 |
⑤は、売上の半分が20日後に入るので、入金までの日数を平均で10日としています。実際の入金日数は決済会社と契約で異なるので、自店の数字に置き換えてください。
見てほしい点が3つあります。
- ①は、月に120万円の粗利が出ている(売上300万円−仕入180万円)店です。それでも、条件が少し変わるだけで預金が足りなくなります。黒字と資金繰りは別物です
- ②と④の差は、在庫日数45日と90日の違いだけで、寝るお金が270万円も動きます。仕入額が同じでも、動きの遅い商品が積み上がるかどうかで決まります
- ⑥は、①では20万円の余裕があった店が、売上を伸ばして仕入を増やしただけで70万円足りなくなる例です。伸びているときほど、先に計算しておく必要があります
この計算は概算です。家賃や人件費などの固定費、消費税、月の途中の細かい出入りは入れていません。自店で使うときは、この式の枠に、自店の在庫額・月の仕入額・支払日を入れてください。
動きの遅い在庫は、現金化が一番遅い
同じ在庫でも、売れる速さは商品ごとに違います。まず在庫を3つに分けて見てください。下の3つの区切り(1か月・3か月・半年)は、この記事での目安です。公的な基準ではありません。
| 種類 | 見分け方 | 現金化への効き方 | 打ち手の例 |
|---|---|---|---|
| 売れ筋 | 1か月で在庫がほぼ入れ替わる | 現金化が速い。切らすと売上を逃す | 切らさない量だけ持つ |
| 動きの遅い商品 | 3か月以上、動きが少ない | 現金化が遅く、寝るお金の中心になる | 仕入を止める、値下げの候補にする |
| 売れ残りの商品 | 半年以上動いていない | 現金化の見込みが薄い | セット売り、値下げ、まとめて売る先を探す |
動きの遅い商品を値下げして売ることは、利益を削る手でもあります。たとえば、原価3,000円で定価5,000円の商品を30%引きにすると、3,500円で売れて、粗利は500円です。定価で売れたときの2,000円より小さくなります。それでも、棚で何か月も寝ているよりは、3,500円の現金(うち500円が粗利)が戻るほうが、資金繰りの上では役に立ちます。
値下げするかどうかは、その値引きで粗利がいくら残るかを先に出して決めます。 原価を割る売り方は、続けると傷が広がるので、粗利率の見方で自店の目安を確かめてからにしてください。
寝ているお金を減らす順番
費用と後戻りのしにくさが小さい順に並べます。
| 順番 | やること | 気をつけること |
|---|---|---|
| ① 寝ている額を数字にする | 計算例の式に、自店の在庫額・月の仕入額・支払日を入れる | 在庫額が出せない場合は、棚卸しから始める |
| ② 動きの遅い在庫を見分ける | 在庫を3つの種類に分け、動きの遅い商品の仕入を止める | 「いつか売れる」で仕入を続けると増える一方になる |
| ③ 仕入の量を小分けにする | 一度に多めに仕入れず、回数を増やして少しずつ入れる | 送料や仕入先の最低ロットが増えることがある |
| ④ 仕入先に支払条件を相談する | 月末締め翌月末払いなどにできないか聞く。手順は仕入先との支払条件の決め方 | — |
| ⑤ 入金の速い決済手段を見直す | 決済手段ごとの入金日数を比べる。決済手段別の入金サイクル比較 | 手数料が上がる場合がある。差し引きで見る |
| ⑥ 谷が来る前に、借りる枠を作る | 銀行・公庫の運転資金。日本政策金融公庫の融資の種類と銀行との付き合い方 | — |
| ⑦ 手元に置く現金の目安を持つ | 手元現金は月商の何ヶ月分必要か | 業種や季節で必要な額は変わる |
②までは、お金がかからず、今日から始められます。 ④以降は相手との調整が要るので、①の数字を持ってから動くほうが、話が早く進みます。必要な運転資金の全体の額を出したい人は、運転資金の計算式も参考になります。
文例:仕入先に支払条件を相談するメール
支払日を長くしてほしいと頼むのは、言い出しにくいものです。理由と提案を先に整えて、記録の残るメールで出すと、話が進みやすくなります。○○は自店の内容に置き換えます。
件名:お支払い条件のご相談(○○(店名))
○○株式会社 ご担当
○○様
いつもお世話になっております。○○(店名)の○○です。
現在、御社からの仕入は、納品後○日以内のお支払いでお願いしております。
月の仕入は、平均して○○万円ほどです。
今後、取扱いを増やす予定があり、
お支払い条件について、ご相談させてください。
・現在の条件:納品後○日以内のお支払い
・ご相談したい条件:月末締め・翌月末払い(または、月2回の締めなど)
・お支払いは、指定の日に口座から振り込みます
ご検討いただき、○月○日までにご返事をいただけると助かります。
ご都合のよい日時を、いくつかお知らせください。
○○(店名) ○○
断られたら、支払日を変えずに、仕入の量や回数を見直す道も残ります。条件を頼むことで、これまでの支払いを真面目にしてきた店だと伝わることもあります。
チェックリスト:今月やる在庫と支払いの点検
□ 棚卸しで、原価ベースの在庫額を出した □ 月の仕入原価を出し、在庫日数(在庫額÷(月の仕入原価÷30))を計算した □ 仕入先ごとの支払日(仕入れてから何日後か)を書き出した □ 売上のうち、現金とカード・QR決済の割合と、それぞれの入金日を確かめた □ 計算例の式で、寝ているお金を出し、預金との差を確かめた □ 在庫を「売れ筋・動きの遅い商品・売れ残り」の3つに分けた □ 動きの遅い商品と売れ残りの商品の、仕入を止めるか値下げするかを決めた □ 次の繁忙期の前に、いつ・いくら仕入れる予定か、その支払日までに預金が足りるかを並べた
全部埋まらなくても構いません。埋まらなかった項目は、来月の宿題です。数字が出ないものは、「出せない」と分かったことが最初の成果になります。
次にやること
まず、在庫額(原価)・月の仕入額・仕入先への支払日の3つを、紙に書き出してください。 棚卸しの結果、仕入の請求書、通帳があれば足ります。その3つの数字をこの記事の式に入れたとき、預金との差が、自店の谷の深さです。
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報整理です。計算例の数字は仮置きで、実際の資金繰りを保証するものではありません。決済会社の入金日数や手数料、仕入先の条件は、契約や会社によって異なります。個別の状況は、税理士、金融機関、商工会議所などの専門家にご確認ください。