小さな会社の資金繰りガイド 苦しくなる前の備えから、危機のときの順番まで
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製造業・下請けの資金繰り

この記事の結論
  • 谷は「材料代を払う日」から「入金の日」までの長さでできる
  • 計算例(材料120万円・加工費45万円・受注300万円を毎月1ロット、預金400万円)では、材料先払い・納品後60日入金の谷は450万円で50万円足りず、材料代を1か月後払いにできれば330万円で70万円余る
  • 入金が納品後120日なら780万円で380万円足りない
  • 取適法は対象の取引なら、受領日から60日以内の支払期日・手形払いの禁止・有償支給材料の代金の早期決済の禁止・協議に応じない一方的な代金決定の禁止を定める
  • 対象かどうかは発注側と自社の資本金または従業員数で決まる
  • 今日は「1ロットの持ち出し額と、材料代を払う日から入金までの月数」を出す
この記事の内容
  1. 結論:谷は「材料代を払う日」から「入金の日」までの長さでできる
  2. 忙しいのにお金が足りないのは、腕や段取りのせいではありません
  3. 谷をつくる3つの日数
  4. 計算例:材料120万円の仕事で、谷はいくらの深さになるか
  5. 取適法は、どこまで守ってくれるのか
  6. 有償支給の材料代を、先に引かれていないか
  7. 谷を浅くする順番
  8. 文例:材料が上がったときの価格協議の申し入れ
  9. チェックリスト:今月やる支払いと入金の点検
  10. 次にやること

この記事は、材料を買って加工し、発注元に納めている製造業の下請け(町工場・個人事業主・一人社長)で、「仕事は回っているのに預金が減る」と感じている人に向けて書いています。 結論から言うと、原因は儲かっていないことではなく、材料代を払う日と入金される日の間が長いことです。その長さを数字にして、谷の深さを先に知る方法を、計算例つきで書きます。

こんな状態ではありませんか
  • 材料を先に買っているのに、入金は2〜3か月先で、忙しいほど預金が減る
  • 発注元の支払い条件が長く、手形や翌々月払いと言われると断りづらい
  • 黒字のはずなのに、月末に払えるかどうかが毎月心配になる

結論:谷は「材料代を払う日」から「入金の日」までの長さでできる

製造業の下請けは、お金の出入りの順番が独特です。材料を買う、加工する、納める、請求する、入金される。出ていくお金は最初のほうに集まり、入ってくるお金は最後に来ます。

谷の深さは、1回の仕事で先に出ていく額に、入金までの月数をかけた額に近くなります。 仕事を毎月1件ずつ受けて回していれば、入金までの月数の分だけ、まだ入金されていない仕事が同時に積み上がるからです。だから、受注が増えるほど谷は深くなります。忙しくなったのに苦しくなるのは、この形の商売の自然な動きです。

忙しいのにお金が足りないのは、腕や段取りのせいではありません

材料は値上がりし、納期は詰まり、発注元は支払いを先に延ばす。その間に立って、自分の預金で全部をつないでいる。この形の負担は、腕の良し悪しでは決まりません。

月末に通帳を開くたびに、黒字なのに減っている数字を見るのは、つらいものです。支払いと入金の日のずれは、数字にすれば見えます。見えれば、手を打つ順番が決められます。

眠れない日が続くほど追い詰められているときは、お金の整理と並行して、医師にも相談してください。

谷をつくる3つの日数

日数 何のことか 変えやすさ
① 材料代を払う日 材料の発注時の先払い、または月末締めの後払いなど 仕入先との交渉で動くことがある
② 加工から納品までの期間 材料を買ってから、納めるまでにかかる日数 段取りで縮められる範囲は限られる
③ 納品から入金までの日数 検収・締め日・支払日で決まる 発注元の条件次第。法律で守られる場合がある

①と③は、相手が決める部分が大きいので、こちらの努力だけでは動きません。だからこそ、どこが何日になっているかを、まず自分で数えておく必要があります。

計算例:材料120万円の仕事で、谷はいくらの深さになるか

読者の状況を1つ仮置きします。数字は実在の会社ではありません。

前提 内容
受注 毎月1ロット。1ロットの受注額は300万円
材料代 1ロット120万円。仕入先へ発注時に現金で先払い
加工にかかる費用 人件費・外注・光熱費で1ロット45万円。加工した月に払う
日数 材料を買ってから納品まで30日。納品後60日で入金
預金 400万円

1ロットで先に出ていく額は、材料120万円と加工費45万円で165万円です。受注額300万円に対して、135万円が手元に残る計算です。

谷の深さは、次の式で概算します。材料代×(材料代を払う日から入金までの月数)+加工費×(加工費を払う日から入金までの月数)。毎月1ロットを回し続けると、この月数の分のロットが、入金前に積み上がるからです。

ケース 材料代→入金 加工費→入金 谷の深さ 預金400万円との差
① 材料は先払い、納品後60日で入金 3か月 2か月 120万円×3+45万円×2=450万円 50万円の不足
② 材料代を1か月後払いにできた 2か月 2か月 120万円×2+45万円×2=330万円 70万円の余裕
③ 納品後30日で入金(材料は先払いのまま) 2か月 1か月 120万円×2+45万円×1=285万円 115万円の余裕
④ 納品後120日で入金(繊維業以外で、かつて手形の期間の上限とされた長さ) 5か月 4か月 120万円×5+45万円×4=780万円 380万円の不足

見てほしい点が3つあります。

  • ①は、1ロットで135万円が残る黒字の仕事です。それでも、預金が50万円足りなくなります。黒字と資金繰りは別物です
  • ②は、仕入先に材料代を1か月後払いにしてもらえただけで、谷が120万円浅くなります。
  • ④のように入金が長くなると、谷は入金日数にほぼ比例して深くなります。受注が増えれば、深さもその分だけ増えます

この計算は概算です。消費税、家賃や役員報酬などの固定費、月の途中の細かい出入りは入れていません。自社の数字で実際に出すときは、この式の枠に、自社の材料代・加工費・日数を入れてください。

取適法は、どこまで守ってくれるのか

下請法は、2026年1月1日から「取適法(とりてきほう)」という通称に変わりました。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、略称は「中小受託取引適正化法」です(令和7年法律第41号による改正。公正取引委員会・中小企業庁)。発注する側は「委託事業者」、受ける側は「中小受託事業者」と呼ばれます(公正取引委員会、2026年9月22日確認)。

守られるかどうかは、取引の内容と、発注側・自社の規模で決まります。 製造委託や修理委託では、次のどれか1つに当てはまれば対象です(同)。

発注側(委託事業者) 自社側(中小受託事業者)
資本金3億円超 資本金3億円以下
資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下
従業員300人超 従業員300人以下

従業員の基準は、2026年1月の改正で加わりました。従来の資本金の基準に当てはまらなかった取引が、対象になった可能性があります。製造委託の対象物には、金型以外の型なども追加されました(同)。

対象の取引なら、発注側に次の義務と禁止があります(同)。

内容 中身
支払期日 物品を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定める(検査の有無を問わない)
遅延利息 支払遅延や減額があれば、年率14.6%の遅延利息を払う
手形払いの禁止 手形払いは禁止。電子記録債権などでも、支払期日までに代金の満額を得ることが困難なものは禁止
一方的な代金決定の禁止 こちらが価格の協議を求めたのに、応じない・必要な説明をしないなど、一方的に代金を決めることを禁止
報復の禁止 公取委・中小企業庁などに知らせたことを理由に、取引数量を減らしたり取引を止めたりすることを禁止

守られないのは、対象の基準に当てはまらない取引です。 資本金・従業員数のどちらも基準に届かなければ、この法律の直接の保護は受けられません。その場合は、交渉と資金調達で谷を浅くすることになります。対象かどうかの見方と、対象外のときの交渉の順番は入金サイトが長い取引先への対処に書いています。

計算例の④(納品後120日入金)は、対象の取引なら、支払期日の60日を超えており、手形払いにも当たりうる形です。ただし、自社が対象かどうか、実際に何日にあたるかは、契約と資本金・従業員数を見て判断することです。この記事では判断しません。

手形の期間については、公正取引委員会と中小企業庁は、長らく「繊維業90日・その他の業種120日」を超える手形を割引が困難なものとして指導してきました。この基準は、2024年11月1日から業種を問わず60日に変わっています(公正取引委員会、令和6年4月30日に決定、同年11月1日施行)。さらに、2026年1月1日以降に発注される取適法の対象の取引では、手形による支払そのものが禁止されています(公正取引委員会・中小企業庁)。約束手形の利用廃止も進んでおり、公正取引委員会の2026年9月2日の発表では、多くの金融機関が設定した手形・小切手の最終振出期限は2026年9月30日、電子交換所での交換の廃止は2027年3月31日とされています。

有償支給の材料代を、先に引かれていないか

発注側が材料を有償で支給し、こちらがそれを加工して納める取引があります。このとき、対象の取引では、製品の代金の支払日より早く、材料の代金を払わせることが禁止されています(公正取引委員会、2026年9月22日確認)。

たとえば、材料の代金が加工の途中で先に請求され、製品の代金は60日後に払われる、という形は、谷を深くします。材料を先払いで買い、製品代金を後で受け取る、計算例の①と同じ構造になるからです。

自社の取引でどうなっているかは、発注書・請求書・支払明細を並べて確かめてください。材料の代金が、いつ、どう精算されているかを日付で追うと分かります。

相談する先もあります。 取引かけこみ寺は、中小企業の取引上の悩みを無料で聞く窓口で、匿名での相談もできます(弁護士への相談を除く)。金融・経営などの相談は受け付けていません(全国中小企業振興機関協会、2026年9月22日確認)。連絡先は同協会のページで確認してください。発注元との関係が気になる人は、報復の禁止が定められていることも、思い出してください。

谷を浅くする順番

費用と後戻りのしにくさが小さい順に並べます。

順番 やること 気をつけること
① 谷の深さと、底になる月を数字にする 計算例の式に自社の数字を入れる 出せない項目は「出せない」と分かるだけで意味がある
② 材料代の支払条件を変える 先払いを月末締めの後払いに、または分割にできないか仕入先に聞く。手順は仕入先との支払条件の決め方 取引量や支払いの実績が見られる。遅れの履歴があると難しい
③ 入金側の条件を見直す 対象の取引なら、60日を超える支払期日や手形払いは相談の対象。前払い・部分払いを頼む方法は前払い・着手金をもらう交渉 発注元との関係が変わりうる。窓口に先に相談すると整理しやすい
④ 材料が上がった分の価格を協議する 次の文例で、記録の残る形で申し入れる 応じてもらえるとは限らない。協議を求めた事実が残ることが大切
⑤ 谷が来る前に、借りる枠を作る 銀行・公庫の運転資金。日本政策金融公庫の融資の種類と銀行との付き合い方 —
⑥ 売掛金を早く現金にする 売掛債権担保融資(ABL)、受け取った手形なら手形割引、ファクタリング 費用がかかり、繰り返すと悪化します。ファクタリングを繰り返すと資金繰りは悪化するを先に
⑦ 一度に受ける量を見直す 谷は受注額にほぼ比例して深くなる。預金で支えきれない量は、受け方を相談する 断ると関係が切れる心配がある。一部だけ受ける、納期をずらすなどの案も

⑥のファクタリングは、ここで書いた発注側が渡す支払手段(手形や電子記録債権)とは別の話です。自社が持つ売掛金を、自分の判断で売って現金にする方法です。使うなら、手数料で谷の分の利益が消えないかを、先に計算してください。

文例:材料が上がったときの価格協議の申し入れ

対象の取引では、価格の協議を求めたのに応じない・説明しない、という形の代金の決め方が禁止されています(公正取引委員会、2026年9月22日確認)。協議を求めた記録があるかどうかで、その後の相談のしやすさが変わります。メールなど、記録の残る形で出してください。○○は自社の内容に置き換えます。

件名:○○(品番)の材料費上昇に伴う、単価のご相談

○○株式会社 購買部
○○様

いつもお世話になっております。○○(社名)の○○です。

○○(品番)について、材料の○○の仕入価格が、
○年○月の発注時点の○○円/kgから、直近では○○円/kgに上がりました。
仕入先の見積書を添付します。

現在の単価のままでは採算の確保が難しく、
単価について協議のお時間をいただけないでしょうか。

・現在の単価:○○円
・材料費の上昇分(1個あたり):○○円
・ご相談したい内容:単価の改定、または材料価格に連動した見直しの仕組み

○月○日までにご返事をいただけると助かります。
ご都合のよい日時を、いくつかお知らせください。

○○(社名) ○○

断られても、送った記録は残ります。返事がない場合や、説明がないまま単価を据え置かれた場合は、取引かけこみ寺などの窓口に、その記録を持って相談できます。

チェックリスト:今月やる支払いと入金の点検

□ 1ロット(1件)の仕事で、先に出ていく額(材料代+加工費)を出した □ 材料代を払う日から入金までが、何か月かを数えた □ 計算例の式で、谷の深さを出し、預金との差を確かめた □ 発注元の支払期日と支払方法(現金・手形・電子記録債権)を、発注書や契約書で確かめた □ 発注元と自社の資本金・従業員数を確かめ、取適法の対象になるかを整理した □ 有償支給の材料がある場合、その代金がいつ精算されているかを日付で確かめた □ 材料代の支払条件を、仕入先に相談できるかを考えた □ 受注が増えたとき、谷がどこまで深くなるかを、預金と並べて見た

全部埋まらなくても構いません。埋まらなかった項目は、来月の宿題です。数字が出ないものは、「出せない」と分かったことが最初の成果になります。

次にやること

まず、1ロットで先に出ていく額と、材料代を払う日から入金までの月数を、紙に書き出してください。 発注書、仕入先の請求書、通帳の3つがあれば足ります。その2つの数字をこの記事の式に入れたとき、預金との差が、自社の谷の深さです。


※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。取適法の対象になるかどうか、個別の取引が違反にあたるかどうかの判断はしていません。制度の内容は変わることがあります。個別の状況は、取引かけこみ寺、公正取引委員会、弁護士、金融機関などの専門家にご確認ください。計算例の数字は仮置きで、実際の資金繰りを保証するものではありません。

出典 - 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」リーフレット https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf(2026年9月22日確認。対象の基準、支払期日60日、遅延利息年率14.6%、手形払い等・有償支給材料の早期決済・協議に応じない一方的な代金決定の禁止、報復措置の禁止、施行日) - 中小企業庁「【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など『取適法』がもたらす変化」https://mirasapo-plus.go.jp/infomation/30416/(2026年9月22日確認。手形払いの禁止と協議に応じない一方的な代金決定の禁止のみ。有償支給材料と従業員基準は同ページに記載なし) - 公正取引委員会「(令和6年4月30日)『手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について』の発出について」https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/apr/240430_tegata.html(2026年10月11日確認。発出日と、2024年11月1日施行)。旧基準の繊維90日・その他120日から60日への変更は、意見募集時の案の資料 https://www.jftc.go.jp/houdou/teirei/2024/jan_mar/files/240228_teirei_1.pdf と公正取引委員会の関連ページの記載による(PDFの本文は2026年10月11日時点で機械で読み出せず、決定版の別紙は未確認) - 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html、「取適法・振興法」https://www.jftc.go.jp/toriteki_2025/ (2026年10月11日確認。法律名・略称、2026年1月1日施行、従業員基準、手形払いの禁止、協議に応じない一方的な価格決定の禁止、報復措置の禁止の申告先) - 公正取引委員会「約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について」(令和8年9月2日)https://www.jftc.go.jp/yakusokutegata_yousei.html(2026年10月10日確認。手形・小切手の最終振出期限2026年9月30日、電子交換所での交換廃止2027年3月31日) - 全国中小企業振興機関協会「取引かけこみ寺の相談について」https://www.zenkyo.or.jp/kakekomi/soudan.htm(2026年9月22日確認。無料、匿名可(弁護士への相談を除く)、金融・経営などの相談は受け付けない。電話番号・受付時間は同ページに記載なし)

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執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。資金繰りの意思決定を経営の側から見てきた経験をもとに書いています。このサイトで紹介するのは手数料の上限を公式に明記している業者だけです。「審査なし」「誰でも通る」を売りにする業者は、載せません。

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