季節商売の資金繰り
- 季節商売で預金が減るのは、売れる時期の前に仕入れ・人手・広告が先に出ていく時期で、繁忙期そのものではない
- 谷の深さは「先に出る支払い−その間の通常の黒字−手元の預金」で出せる
- 計算例(年末商戦。売上は通常月200万円・11月と12月は各600万円、繁忙期分の仕入れ720万円を9・10月に先払い、手元330万円)では10月末に預金が360万円のマイナスになり、最低残高70万円を守るには430万円を約5か月借りる必要がある(年2.0%の仮置きで利息は約3.6万円)
- 繁忙期分の仕入れを「入荷の翌月末払い」に変えられれば、同じ会社で借入0円のまま最低の月末預金が90万円で済む
- 社会保険は4〜6月の報酬で決まる標準報酬月額が9月から翌年8月まで適用されるため、4〜6月が繁忙期の会社は保険者算定(年間平均)の対象になるか年金事務所で確かめる
- 今日は過去12か月の月末預金を並べて「最も減った月」を見る
この記事の内容
この記事は、年に数か月だけ売上が集中する商売(ギフト、行楽、冷暖房、行事用品、観光関連など)をしている経営者・個人事業主に向けて書いています。 結論から言うと、預金が最も減るのは繁忙期の真ん中ではありません。売れる時期の2〜3か月前、仕入れ・人手・広告のお金だけが先に出ていく時期です。その谷がいつ、いくらの深さになるのかを月別の数字で出し、支払いをずらす、短期で借りる、入金を早める、の順で浅くしていく方法を、計算例つきで書きます。
- 繁忙期は忙しくて黒字のはずなのに、その少し前に預金が底をつきそうになる
- 閑散期が長く、家賃と人件費だけが毎月出ていく
- 借りるなら、いくらをいつまで借りればいいのか分からない
忙しいのに苦しいのは、商売の形のせいです
売れる時期には売れているのに、預金は薄い。それでも「自分の管理が甘いからだ」と思う必要はありません。売上が特定の月に固まる商売は、お金が出ていく月と入ってくる月が、そもそも何か月もずれる形をしています。
仕入れと準備は、売れる前に払います。入金は、売れたあとに来ます。しかも閑散期は家賃も人件費も毎月出ていきます。この形では、繁忙期に利益が出ていても、その前に預金が細る時期が必ずできやすくなります。誰がやっても起きる構造の話で、頑張りが足りないかどうかとは別の問題です。
夜眠れない日が続くほどつらいときは、お金の整理と並行して、医師や産業医にも相談してください。
季節商売の谷は3か所にできる
| 谷ができる場所 | 何が起きるか | 見る数字 |
|---|---|---|
| ① 繁忙期の前の先払い | 仕入れ・外注・広告・アルバイトの採用費が、売れる前に出ていく | 繁忙期分の仕入れ額と、その支払い日 |
| ② 繁忙期の入金の遅れ | 売れた月ではなく、掛け売りやカード決済の入金月に現金が入る | 売った月から入金までの日数 |
| ③ 閑散期の固定費 | 売上が薄い月も、家賃・人件費・リース料が同じだけ出る | 売上が最も低い月の固定費の負担 |
「繁忙期に入れば楽になる」と考えたくなりますが、②があるので、繁忙期の最初の1〜2か月は、売上が立っていても現金がまだ入っていません。①と②が重なる時期が、預金が最も減る日になりやすい場所です。
計算例:年末商戦の会社は、10月末に預金がいくらマイナスになるか
読者の状況を1つ仮置きして、月ごとの現金の動きを出します。数字は実在の会社ではありません。
| 前提 | 内容 |
|---|---|
| 業態 | 年末ギフト向けの商品を扱う小さな会社 |
| 売上 | 通常月は200万円。11月と12月は各600万円 |
| 入金 | 売った月の翌月に入金(掛け売り) |
| 仕入れ | 通常月は原価120万円を、売る月に支払う。繁忙期分は各360万円で、11月分を9月に、12月分を10月に前払い |
| 固定費 | 毎月70万円(家賃・人件費など) |
| 臨時の人件費 | 11月と12月に各40万円(アルバイト) |
| 手元の預金 | 8月の初めに330万円 |
月ごとの現金の動き(単位:万円)
| 月 | 入金 | 仕入れの支払い | 固定費 | 臨時の人件費 | 月間の収支 | 月末の預金(借りない場合) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 8月 | 200 | 120 | 70 | 0 | +10 | 340 |
| 9月 | 200 | 480 | 70 | 0 | −350 | −10 |
| 10月 | 200 | 480 | 70 | 0 | −350 | −360 |
| 11月 | 200 | 0 | 70 | 40 | +90 | −270 |
| 12月 | 600 | 0 | 70 | 40 | +490 | 220 |
| 1月 | 600 | 120 | 70 | 0 | +410 | 630 |
9月と10月の仕入れの支払い480万円は、通常月分の120万円と、繁忙期分の360万円の合計です。11月と12月の仕入れは、すでに払い済みなので0円です。
谷の深さは、次の式で出せます。
先に出る支払い(720万円)−その間の通常の黒字(20万円)−手元の預金(8月末の340万円)= 360万円の不足
1月末には630万円まで戻る、つまり1年を通せば黒字の会社です。それでも、繁忙期の前の9月に預金が尽き、10月末には360万円足りなくなります。足りなくなる日は、繁忙期に入る前にあります。
借りるなら、いくらか。 預金が0円まで減る設計は危ないので、固定費1か月分の70万円は手元に残したい、と決めます。すると必要な額は、360万円+70万円=430万円です。
| 借入の仮置き | 内容 |
|---|---|
| 借りる時期 | 9月の初め(仕入れの前払いの前) |
| 返す時期 | 1月末に一括(12月末の預金が650万円になるので返せる) |
| 期間 | 9月〜1月末の5か月 |
| 金利 | 年2.0%(仮置き。実際の金利は金融機関・審査で変わる) |
利息は、430万円×2.0%×5か月÷12か月=約3.6万円です。返したあとの1月末の預金は、630万円−約3.6万円=約626万円になります。谷を借入でまたぐ費用は、この例では3.6万円で済みました。ただし借りるには、9月の初めに入金されている必要があります。申込みから入金までにかかる日数は融資の申込から入金までの日数で整理しています。
谷を浅くする順番:借りる前に、支払いをずらす
さきほどの会社が、仕入先に「繁忙期分の仕入れを、入荷の翌月末払いにしてほしい」と頼めたとします。10月入荷分は11月に、11月入荷分は12月に払う形です。他の前提は同じです。
| 条件 | 最も減る月末の預金 | その月 | 借りる額 |
|---|---|---|---|
| 入荷の前に払う(前の表) | −360万円 | 10月末 | 430万円 |
| 入荷の翌月末払いにできた | 90万円 | 11月末 | 0円 |
1月末の預金は、どちらも630万円で同じです。変わったのは、お金が出ていく順番だけです。借りる前に、払う時期をずらせないかを先に聞く価値があります。
ずらす相手は、仕入先だけではありません。次のような順で、聞けるところを探します。
| 手当て | やること | 気をつけること |
|---|---|---|
| ① 仕入れの支払い時期 | 繁忙期分を「入荷後払い」「分割」にできないか聞く | 相手も資金繰りがあるので、条件を出されることがある。【各自確認:仕入先が応じる範囲】 |
| ② 入金を早める | 請求を都度にする、長い案件は分割請求にする(請求書を早く出す、分割請求) | 相手先の合意が要る。契約書の書き方は支払条件の書き方 |
| ③ 決済手段の入金日を知る | カード・QRの入金サイクルを確認する(決済手段別の入金サイクル) | 入金日は決済会社ごとに違う |
| ④ 繁忙期分の採用時期をずらす | アルバイトの募集を、必要になる直前に絞る | 人手不足になれば売上機会を落とす。人数は慎重に決める |
売掛金を早く現金にするファクタリングは、繁忙期のたびに使い始めると、手数料が毎年重なります。使い続けたときの構造はファクタリングを繰り返すと資金繰りは悪化するに書いています。谷が毎年決まった月に来るなら、その谷は単発の急ぎではなく、計画で手当てするほうが向いています。
短期で借りるなら、繁忙期に返せる形にする
支払いをずらしても足りない分は、借りて埋めます。ここで大事なのは、返す時期を「繁忙期の入金のあと」に置くことです。
日本政策金融公庫(国民生活事業)の公式の融資制度一覧には、一般貸付の返済期間が「設備資金」と「運転資金」に分けて載っています。「季節」の語を含む制度や資金使途の記載はありませんでした(2026年9月22日確認)。季節による谷の手当ては、運転資金に当たると考えられますが、個別の申込みでの取り扱いは公庫の窓口で確かめてください【各自確認:公庫の窓口で、季節的な資金の申込み区分と返済期間】。今回の計算例のように、数か月だけ借りて繁忙期に返す使い方は、銀行・信用金庫の短期の貸付として扱われることがあります(公庫の制度で数か月の借り方ができるかは、この記事では確認していません)。
| 借り方 | 向く場面 | 詳しくは |
|---|---|---|
| 短期の貸付(手形貸付など)で、山の月だけ借りて返す | 繁忙期の入金で返せる見通しがあるとき | 納税資金・賞与資金の短期融資 |
| 短期継続融資 | 毎年同じ谷があり、書き換えながら回すとき | 短期継続融資とは |
| 当座貸越・借入枠 | 谷の深さが読み切れないとき | 当座貸越・借入枠という備え |
借りるときの3つの注意です。
- 返す月を、入金が最も厚い月の後ろに置く。 さきほどの例なら1月末です。12月末に返済日を置くと、入金が来る前に返す形になります
- 申込みは、預金が薄くなる前にする。 9月に預金が尽きる会社が、9月に申し込んでも間に合わないことがあります。金融機関ごとに審査の日数が違うので、早めに聞いてください【各自確認:取引金融機関の審査にかかる日数】
- 繁忙期が終わっても、返さずに残す使い方をしない。 短期で借りた額を返さないまま、次の年の谷にも使い回すと、借入の総額が積み上がります。借入の量が月商に対して多いかどうかは、借入金月商倍率で見られます
4〜6月が繁忙期なら、9月からの社会保険料に注意する
従業員を社会保険に入れている会社で、繁忙期が4〜6月にある場合の話です。
社会保険の標準報酬月額は、毎年7月1日現在の全被保険者について、4月・5月・6月の3か月の報酬月額をもとに決め直されます(定時決定)。決め直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用されます。算定基礎届の提出は、毎年7月10日までです(10日が土日の場合は翌営業日。日本年金機構、2026年9月22日確認)。
繁忙期の残業代が4〜6月に集中すると、その3か月だけの報酬が高く出て、標準報酬月額が高めに決まります。毎月の保険料額は「標準報酬月額×保険料率」で計算されるため(日本年金機構「保険料の計算方法について」)、高く決まれば、9月からの1年間、その額をもとにした社会保険料が続きます。閑散期の毎月の負担が、そのぶん重くなる形です。
これを直すための仕組みが、保険者算定(年間平均)です。次の条件を満たす場合に、年間の平均で決め直すことができます(日本年金機構、2026年9月22日確認)。
- 当年の4〜6月の月平均から出した標準報酬月額と、前年7月から当年6月までの月平均から出した標準報酬月額に、2等級以上の差がある
- その差が、業務の性質上、例年生じることが見込まれる
申請には、算定基礎届に添えて、「年間報酬の平均で算定することの申立書」(様式1)と、「保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」(様式2)が必要です(日本年金機構、2026年9月22日確認)。自社が対象になるかどうかは、この記事では判断できません。年金事務所か社会保険労務士に確認してください【各自確認:自社が2等級以上の差と例年の見込みに当たるか】。労働保険料の分割納付は労働保険料の延納にあります。
前職で見ていた「先に出ていく月」
前職ではEC事業会社の執行役員として管理部門を統括しており、月次の資金繰りを見る立場にありました。季節商材の仕入れが集中する時期は、仕入代金の支払いが先に来て、その商品が売れて現金になるまでにタイムラグがあります。「今月の利益は良いが、来月の支払いに耐えられる現金があるか」は、損益計算書とは別に確認する必要がありました。
チェックリスト:繁忙期の前にやる点検
□ 過去12か月の月末の預金を並べ、最も低かった月を見た □ その最も低い月は、繁忙期の何か月前だったかを数えた □ 繁忙期に向けた仕入れ・外注・広告の支払いを、日付つきで一覧にした □ 売上が入金になるまでの日数(掛け売り・カード・モール)を、取引先ごとに調べた □ 預金の最低ライン(固定費1か月分など)を決め、それを割る月があるか確かめた □ 仕入先に、繁忙期分の支払い時期を「入荷後」にできるか聞いた □ 借りるなら、返す月を繁忙期の入金のあとに置いた計画を書いた □ 取引金融機関に、短期の借入の相談を、預金が薄くなる月より前に入れた □ 4〜6月が繁忙期の会社は、9月からの社会保険料の見通しを確認した
全部が埋まらなくても構いません。埋まらなかった項目は、次の谷の前の宿題です。資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方にあります。
次にやること
まず、過去12か月の月末の預金残高を、通帳から書き出してください。 12個の数字が並んだとき、最も低い月と、その月が繁忙期の何か月前だったかが分かります。それが、この記事の計算例の「自社版」の谷です。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。制度の要件・期間は変わることがあります。融資を受けるかどうか、保険者算定の対象かどうかの個別の判断はしていません。個別の状況は、取引金融機関、年金事務所、社会保険労務士、税理士などの専門家にご確認ください。計算例の数字は仮置きで、実際の資金繰りを保証するものではありません。
出典 - 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html(2026年9月22日確認。4〜6月の報酬で決め直され9月から翌年8月まで適用、提出は毎年7月10日まで) - 日本年金機構「保険者決定」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20120524.html(2026年9月22日確認。2等級以上の差と、例年生じる見込みの要件) - 日本年金機構「算定基礎届(年間報酬の平均で算定するとき)」https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/tekiyo/hoshu/20141002.html(2026年9月22日確認。様式1・様式2。申請期限と適用期間はこのページに記載なし) - 日本政策金融公庫「融資制度一覧【国民生活事業】」https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/index_k_02.html(2026年9月22日確認。一般貸付の返済期間が設備資金・運転資金の区分で載っている。資金使途の説明と「季節」を含む制度の記載なし) - 日本年金機構「保険料の計算方法について」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20121026.html(毎月の保険料額は標準報酬月額×保険料率。2026年10月11日検索結果で確認)