輸入業者の資金繰り
- 為替が効くのは「まだ払っていない外貨」「税関で先に払う消費税」「売値を変えられない期間」の3か所
- すでに払った分は為替が動いても変わらない
- 計算例(US$40,000を仕入れ、前払い30%・残金70%、預金700万円)では、残金の支払い時に1ドル150円が165円になると、必要な現金が690万円から736.2万円に増え、10万円の余裕が36.2万円の不足に変わる
- 為替予約は円での支払額を固定する仕組みで、相場が有利に動いても恩恵は受けられず、原則取り消せない
- 輸入消費税と関税は担保を出せば最長3か月、特例輸入者の特例延長方式は2か月まで納期限を延ばせる
- 今日は「未払いの外貨がいくらあるか」を出す
この記事の内容
この記事は、海外から商品を仕入れて国内で売っている小規模事業者・個人事業主・一人社長に向けて書いています。 結論から言うと、為替が資金繰りに効くのは「決済がまだ終わっていない外貨」と「税関で先に払う消費税」、それに「売値をすぐには変えられない期間」の3か所です。すでに払い終えた分は、為替が動いても変わりません。この3か所を数字で見て、預金が足りなくなる日を先に知る方法を、計算例つきで書きます。
- 円安が進むたびに、次の支払いがいくらになるのか怖くなる
- 仕入れは外貨なのに、売値は取引先と決めた円のままで、差額をかぶっている
- 為替予約という言葉は聞くが、自分に必要なのか分からない
結論:為替が効くのは「まだ払っていない外貨」
輸入の資金繰りが国内だけの商売と違うのは、支払いが外貨で、しかも売れて現金が戻るよりずっと前に出ていくことです。前払い、船積み時の残金、通関時の税金と、お金が先に何度も出ていきます。
そのうえで大事なのは、次の一点です。
為替の影響を受けるのは、円に替える約束がまだ済んでいない外貨だけ。 前払いを済ませた分は、その日のレートで確定しています。動くのは、残金や次の発注分です。「いま外貨でいくら払う予定が残っているか」を出せれば、為替が1割動いたときの損は、その1割で見積もれます。
円安で苦しいのは、読みが悪いからではありません
為替は、個人の事業者が動かせるものでも、正確に当てられるものでもありません。数か月先のレートを外して苦しくなっても、それは判断力の問題ではなく、構造の問題です。支払いは外貨、売上は円、しかも現金が戻るまで数か月かかる。この形の商売は、誰がやっても為替の影響を受けます。
だから対策は「相場を当てる」ではなく、「外れても倒れない形にしておく」ことになります。眠れない日が続くほどつらいときは、お金の整理と並行して、医師や産業医にも相談してください。
為替が資金繰りに効く3か所
| 効く場所 | 何が起きるか | 見る数字 |
|---|---|---|
| ① 未払いの外貨 | 残金や次の発注分の円換算額が増える | 外貨での未払い残高 |
| ② 輸入消費税・関税 | 円建ての仕入額が増えると、税関で先に払う消費税も増える | 引き取り時に払う税額 |
| ③ 売値を変えられない期間 | 仕入れは高くなったのに、売値は合意した円のまま | 販売価格を見直せるまでの日数 |
①は誰でも思いつきますが、②と③が見落とされがちです。②について、輸入貨物の消費税は、荷物を引き取る人が納税義務者で、課税標準は関税の課税価格(CIF価格)に関税などを加えた額です(国税庁、2026年9月22日確認)。標準税率は国税7.8%と地方消費税2.2%で、合わせて10%です(税関、2026年9月22日確認)。仕入れの円換算額が増えれば、先に払う消費税も同じ割合で増えます。
計算例:1ドル150円が165円になると、預金はいくら足りなくなるか
読者の状況を1つ仮置きして、残金を払う日にレートが動いたときの、必要な現金を出します。数字は実在の会社ではありません。
| 前提 | 内容 |
|---|---|
| 仕入れ | 雑貨をUS$40,000分、月1回発注 |
| 支払い | 発注時に30%(US$12,000)を前払い、船積み時に70%(US$28,000)を残金として払う |
| 為替 | 前払い時は1ドル150円。残金を払う30日後に165円(10%の円安) |
| 通関 | 前払いの60日後に入荷・通関。関税は0%と仮置き、運賃・保険料は無視。諸費用は30万円 |
| 販売 | 入荷の約90日後に代金を回収。売値は1ドル150円のときの仕入れ600万円の1.4倍=840万円で固定 |
| 預金 | 700万円 |
現金が出ていく順番(円安ケース):
| 日 | 支払い | 累計の持ち出し |
|---|---|---|
| 0日 | 前払い US$12,000×150円=180万円 | 180万円 |
| 30日 | 残金 US$28,000×165円=462万円 | 642万円 |
| 60日 | 輸入消費税 642万円×10%=64.2万円、諸費用30万円 | 736.2万円 |
| 150日 | 販売代金840万円が入金 | ここで初めてプラスに戻る |
為替が動かなかった場合は、残金が28,000×150円=420万円で、消費税は600万円×10%=60万円です。累計の持ち出しは、180万円+420万円+60万円+30万円で690万円になります。
| ケース | 現金が最も減る額 | 預金700万円との差 |
|---|---|---|
| 為替が動かない(150円のまま) | 690万円 | 10万円の余裕 |
| 残金の日に165円 | 736.2万円 | 36.2万円の不足 |
差の46.2万円のうち、42万円が残金の円換算の増加分(28,000ドル×15円)で、4.2万円が消費税の増加分です。余裕が10万円しかなかった状態から、10%の円安だけで、預金が36.2万円足りなくなります。
見てほしい点が2つあります。
- 前払いの12,000ドル分は、レートが動いても増えていません。動いたのは、まだ払っていなかった28,000ドル分と、それにかかる税金です
- 消費税の64.2万円は、一般課税の事業者なら、後の申告で仕入税額控除として戻る前提です。控除を受けるのは、消費税法30条に基づき、貨物を引き取った輸入申告者です(国税庁の質疑応答事例、2026年10月9日確認)。ただし戻るまでの期間は立て替えです。簡易課税を選んでいる場合は控除の考え方が違うので、税理士に確認してください【各自確認:自社の消費税の課税方式】
この例は1回分の発注です。現金が戻るまで150日かかる商売を毎月回していれば、常に5回分ほどの発注が途中にあります。為替が動いたとき、影響を受けるのはその途中にあるすべての未払い分です。
最終的な利益も削られます。 売値が840万円で固定のままなら、円安のとき、仕入れ642万円と諸費用30万円を引いた利益は168万円です(為替が動かなければ210万円)。42万円は、売値を変えられないまま利益から出ていく額です。
為替予約は「保険」ではなく「固定」
為替予約とは、将来の決まった日か期間に、銀行と外貨を円に替えるレートをあらかじめ取り決める取引です。予約した時点で、その取引の採算が確定します(J-Net21、2026年9月22日確認)。
さきほどの例で、発注と同時に残金の28,000ドルを1ドル152円で予約しておいた、と仮置きします。支払いは28,000ドル×152円=425.6万円に固定されます。
| 支払い日のレート | 予約なし | 予約あり(152円) | 予約の結果 |
|---|---|---|---|
| 165円(円安) | 462万円 | 425.6万円 | 36.4万円 得 |
| 152円 | 425.6万円 | 425.6万円 | 同じ |
| 140円(円高) | 392万円 | 425.6万円 | 33.6万円 損 |
予約は、円安のときの損を防ぐ代わりに、円高になったときの得も手放します。だから「保険」というより、「支払額を固定する」ものと覚えておくと分かりやすくなります。資金繰りの目的は、儲けを最大にすることではなく、預金が足りなくなる日を作らないことです。この目的には、固定が合っています。
使う前に知っておくこと:
- 原則として取り消せず、期日に受け渡しの義務が生じます。戦争やテロなど、真にやむを得ない理由がある場合に、銀行が期日変更や取消に応じることがあります(J-Net21、2026年9月22日確認)
- 銀行は、先物予約の締結を顧客への与信行為とみなし、事前の審査があります(同)。資金繰りが苦しくなってから頼むと、間に合わないことがあります
- 予約した金額は、決めた期日または期間内に使い切る必要があります。発注が流れたり減ったりしたときに、予約だけ残る事態に注意が要ります
- 予約のレートや手数料は、銀行ごとに示される数字が違うことがあります。取引のある銀行に見積もりを取ってください【各自確認:取引銀行の予約レートと手数料】
為替予約のほかに、先にできる4つの手当て
予約が難しい、あるいは予約だけでは足りないときに、順番に検討できる手当てです。
| 手当て | やること | 気をつけること |
|---|---|---|
| ① 前払いの比率・支払い時期を交渉する | 前払いを減らす、船積み後払いにできないかを仕入先に聞く | 相手の資金繰りもあるので、値引きとの引き換えになることがある |
| ② 円建てでの取引を打診する | 仕入先が円での請求に応じれば、為替の損得は仕入先側に移る | 為替のリスクを仕入先が見込み、単価に上乗せされることがある |
| ③ 売値の見直しのルールを決める | 一定以上レートが動いたら価格を協議する、と取引先と決めておく | 決まっていないと、その場の交渉になる。契約書や取引条件に書けるか確認する |
| ④ 為替が動く前に、運転資金の枠を確保する | 借入や当座貸越の枠を、業績が悪くなる前に金融機関へ相談する | 悪化してからでは条件が厳しくなりやすい。借入の種類はセーフティネット貸付、セーフティネット保証4号・5号で書いています |
在庫を抱える商売なので、在庫が資金繰りを圧迫する仕組みと、入金サイトと支払サイトのずれを直す交渉の順番もあわせて読むと、現金が戻る日数を縮める考え方がつかめます。ネットで売る場合の全体像はECショップの資金繰りにあります。
輸入消費税の立て替えは、担保で延ばせる
先ほどの計算例で、消費税の64.2万円は、荷物を引き取る60日目に出ていきます。輸入貨物を引き取るには、関税や消費税を納付しなければなりませんが、税額に相当する担保を提供すれば、納付を猶予する納期限延長制度があります(税関、2026年9月22日確認)。方式は3つです。
| 方式 | 延長される期間 | 担保 |
|---|---|---|
| 個別延長方式 | 輸入許可日の翌日から3か月以内 | 必要 |
| 包括延長方式 | 特定の月分をまとめて、その月の末日の翌日から3か月以内 | 必要 |
| 特例延長方式 | 特例申告書の提出期限から2か月以内 | 特例輸入者は、関税等の保全に必要がある場合を除き不要 |
たとえば包括延長方式なら、5月の輸入分はすべて、3か月後の8月末までに納めればよいことになります(税関の案内にある例)。特例延長方式は、特例輸入申告制度を使える輸入者向けで、輸入のしくみや要件が別にあります。自社が対象になるかは、通関業者か税関に確認してください【各自確認:自社が使える延長方式と、必要な担保の額】。
延ばせるのは納める時期で、税額が減るわけではありません。ただ、この例では64.2万円を最大3か月遅らせられるので、預金が足りない日の手当てになります。
チェックリスト:今月やる為替と支払いの点検
□ 外貨で未払いの金額(残金・次の発注分)を、通貨ごとに一覧にした □ その未払い額に、いまのレートと10%円安のレートをかけた円換算額を出した □ 発注から売上の入金までの日数を、仕入先ごとに数えた □ 輸入消費税・関税・通関の諸費用がいつ、いくら出ていくかを資金繰り表に入れた(作り方は資金繰り表の作り方) □ 預金から、上の「10%円安のときの持ち出し」を引いて、足りなくなる日があるかを確かめた □ 取引銀行に、為替予約の取り扱いと事前の審査の有無を聞いた □ 売値を見直す条件(レートが何円動いたら協議するか)を、取引先との間で決めているか確かめた
全部埋まらなくても構いません。埋まらなかった項目は、来月の宿題です。数字が出ないものは、「出せない」と分かったことが最初の成果になります。
次にやること
まず、いま外貨で未払いになっている金額を、通貨ごとに書き出してください。 仕入先との注文書と請求書の一覧で足ります。その金額に、いまのレートで円換算した額と、10%円安の円換算額の2つを並べたとき、預金との差が、この記事の計算例の「自社版」です。
※本記事は2026年9月時点の調査に基づく情報整理です。制度の要件・期間・税率は変わることがあります。為替の見通しや、為替予約を結ぶかどうかの個別の判断はしていません。個別の状況は、取引金融機関、通関業者、税理士などの専門家にご確認ください。計算例の数字は仮置きで、実際の資金繰りを保証するものではありません。
出典 - 税関「1302 関税等の納期限延長制度の概要(カスタムスアンサー)」https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1302_jr.htm(2026年9月22日確認) - 税関「1111 関税、消費税等の税額計算方法(カスタムスアンサー)」https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1111_jr.htm(2026年9月22日確認。税率の内訳のみ。課税標準の計算式はこのページに記載なし) - 国税庁「No.6563 輸入取引」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6563.htm(2026年9月22日確認。納税義務者と課税標準。仕入税額控除はこのページに記載なし) - 国税庁「輸入取引に係る輸入手続を委託した場合の仕入税額控除の取扱いについて」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/16/26.htm(2026年10月9日確認。仕入税額控除を受けるのは輸入申告者) - J-Net21「為替予約の仕組みと留意点について教えてください。」https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/oversea/Q0849.html(2026年9月22日確認。同ページは輸出者向けの説明。輸入での使い方は仮置きの計算例による)