請求書の書き方と振込手数料の負担
- 民法485条は「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は債務者(支払う側)の負担とする」と定める
- 適格請求書(インボイス)の記載事項は6項目(発行事業者の氏名等・登録番号/取引年月日/取引内容/税率ごとに区分した対価額/税率ごとの消費税額/交付を受ける事業者の氏名等)(国税庁)
- 下請法では、書面での事前合意なく下請代金から振込手数料を差し引くことは代金の減額に該当し違反、合意があっても金融機関に支払う実費を超える額を差し引くことも違反(公正取引委員会)
- フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は2024年11月1日施行、合意なく報酬から振込手数料を差し引くことは報酬の減額として問題となる(公正取引委員会・中小企業庁)
- 下請法は2026年1月1日に「取適法」に改正・改称され、適用対象に従業員基準が追加されるなど規制が拡大した(公正取引委員会)
この記事の内容
この記事は、新しい取引先ができた個人事業主・小さな会社の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、請求書に書くべき項目は法律(消費税法のインボイス制度)でほぼ決まっており、振込手数料は民法485条により法律上「支払う側」が負担するのが原則です。ただし実務では受け取る側が負担する慣行も根強く残っているため、契約前・請求書の1枚目にどちらが負担するかを明記しておくことが、後からもめないための唯一の決め方になります。
結論:振込手数料は支払う側負担が原則、ただし明記が必要
民法485条は次のように定めています。
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
「債務者」とは代金を支払う義務を負う側、つまり発注者・買主のことです。銀行振込でお金を支払う場合、その振込にかかる手数料は「弁済の費用」にあたるため、契約で別段の取り決めがなければ、支払う側(発注者)が負担するのが法律上の原則です(民法485条)。
とはいえ、これはあくまで「何も決めていないとき」のデフォルトルールです。実際の商取引では、請求書に「恐れ入りますが振込手数料は貴社にてご負担願います」と書いて受注者が回収する慣行や、逆に発注者が手数料分を上乗せして振り込む慣行など、業界・取引先ごとに扱いが分かれています。法律の原則と実務慣行がズレているからこそ、請求書に一文を明記して合意を取っておくことが、もめないための最短ルートになります。
請求書に必ず書く項目|インボイス(適格請求書)の6項目
2023年10月から始まった適格請求書等保存方式(インボイス制度)により、取引先が消費税の仕入税額控除を受けるためには、次の6項目が記載された「適格請求書」が必要です(国税庁 No.6625)。
| # | 記載項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 発行事業者の氏名または名称・登録番号 | 登録番号は「T」+13桁の番号(法人はT+法人番号) |
| 2 | 取引年月日 | いつの取引か |
| 3 | 取引内容 | 何を提供したか(軽減税率対象なら明記) |
| 4 | 税率ごとに区分した対価の額 | 8%対象分・10%対象分をそれぞれ合計 |
| 5 | 税率ごとの消費税額 | 1つの請求書につき税率ごとに1回だけ端数処理 |
| 6 | 交付を受ける事業者の氏名または名称 | 請求先の会社名・氏名 |
登録番号が「T」+13桁(法人はT+法人番号)になる点は国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイトで、消費税額の端数処理を1つの適格請求書につき税率ごとに1回に限る点は国税庁インボイスQ&A(No.57)で、それぞれ確認できます。
この6項目は、消費税の登録事業者(課税事業者)が発行する場合に必要な最低限の要件です。登録番号を持たない免税事業者は「適格請求書」を発行できませんが、請求書自体は発行でき、取引先との合意事項として上記1・6以外の項目(取引年月日・取引内容・金額)を記載するのが一般的です。
この6項目に加えて、実務上トラブルを避けるために書いておきたい項目が次の3つです。
- 支払期日(いつまでに払ってほしいか)
- 振込先口座(銀行名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義)
- 振込手数料の負担(次章で解説する一文)
民法485条とは|「弁済の費用」の範囲と特約の効力
民法485条が定める「弁済の費用」は、振込手数料だけを指すものではなく、代金を支払うために必要な費用全般を指す一般的な規定です。条文の書き出しが「弁済の費用について別段の意思表示がないときは」となっている点がポイントで、これは当事者間で別の合意(特約)をすればその合意が優先される任意規定であることを意味します(民法485条、e-Gov法令検索)。つまり民法485条は「何も決めていないときの穴埋めルール」であり、絶対に支払う側が負担しなければならないという強制規定ではありません。
ここで判断が分かれるのは、「特約が有効に成立しているかどうか」です。
| 特約の状態 | 誰が負担するか |
|---|---|
| 見積書・発注書・請求書などに条件を明記し、双方が合意している | 特約どおり(受注者負担で運用することも可能) |
| 請求書に一方的に「手数料は貴社にてご負担ください」と書かれているだけで、相手の同意を得た記録がない | 特約は成立していないため、民法485条の原則どおり支払う側の負担。取引が下請法(取適法)・フリーランス新法の対象になる場合は、そもそも一方的な差引き自体が違反になりうる(前章参照) |
| 手数料の負担について何も話し合っていない | 民法485条の原則どおり支払う側の負担 |
「民法485条」で調べた人が次に詰まりやすいのは、特約は口頭の合意でも有効なのかという点です。民法上、特約の成立に書面は要求されておらず、口頭の合意でも有効です。ただし口頭だけでは後から「言った言わない」になりやすく、下請法(取適法)・フリーランス新法が絡む取引では合意の有無そのものが争点になります。この記事の後半(もめないための決め方・振込手数料の負担を確認する文例)で触れている、メールなど記録に残る形で合意を取る対応が、この詰まりへの実務的な答えになります。
振込手数料は誰が負担するか|法律の原則
前章で触れた通り、民法485条の原則では振込手数料は支払う側(発注者)の負担です。しかし、この取引が「委託事業者から中小企業・フリーランスへの業務委託」にあたる場合は、民法の原則に加えて、下請法・フリーランス新法という別の法律が「発注者が振込手数料を受注者に押し付けること」を規制しています。
振込手数料を請求金額から差し引いて振り込む行為は、それが「代金の減額」にあたるとして、下請法・フリーランス新法の規制対象になります。ここを知らずに差し引かれた金額のまま受け取ってしまうと、本来もらえたはずの数百円〜数千円の積み重ねが、取引が続く限り毎回目減りしていきます。
下請法・フリーランス新法は何を禁止しているか
対象となる取引の種類によって、適用される法律が変わります。整理すると次の通りです。
| 法律 | 対象となる取引 | 振込手数料についての規制 | 施行・改正時期 |
|---|---|---|---|
| 民法485条 | すべての金銭債務(法律・業種を問わない) | 別段の合意がなければ支払う側の負担(原則であり禁止規定ではない) | 現行(明治時代制定、たびたび改正) |
| 下請法(2026年1月1日以降は「取適法」に改称) | 資本金基準等に該当する事業者から中小事業者への製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託 | 【2025年12月31日まで】書面での事前合意なく代金から振込手数料を差し引くことは代金の減額に該当し違反。合意があっても金融機関に支払う実費を超える額を差し引くことも違反(公正取引委員会中部事務所「下請法 知っておきたい豆情報 その4」)。【2026年1月1日以降(取適法)】合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させて代金から差し引くこと自体が一律違反(「減額」に該当)(公正取引委員会・中小企業庁「トリテキ法の確認ポイント―代金編―」取適法リーフレットNo.01、令和7年10月) | 下請法は2026年1月1日に改正・改称され「取適法」となった。適用対象に従業員基準(300人・100人)が追加されるなど規制範囲が広がった(公正取引委員会・中小企業庁) |
| フリーランス新法 | 発注事業者から特定受託事業者(従業員を使わない個人事業主・一人社長)への業務委託 | 合意の有無にかかわらず、報酬から振込手数料を差し引くことは報酬の減額に該当し違反。例外は、受注者側の都合による振込先口座の変更で手数料が増額した場合のその増額分のみ(公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」Q&A Q78) | 2024年11月1日施行 |
振込手数料を差し引かれる側になりやすいのは、下請法・フリーランス新法でいう「中小受託事業者」「特定受託事業者」にあたる個人事業主・小規模事業者です。 逆に言えば、発注する側の立場であっても、相手が個人事業主や一人社長であれば、これらの法律の対象になる可能性があります。
2026年1月1日の下請法改正(取適法への改称)により、振込手数料の扱いは明確に厳格化されました。公正取引委員会・中小企業庁が発行するリーフレット「トリテキ法の確認ポイント―代金編―」(取適法リーフレットNo.01、令和7年10月)には「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引くことは違反になります(『減額』に該当)」と明記されています。つまり2025年12月31日まで認められていた「書面で合意があり、かつ実費の範囲内」という抜け道は、2026年1月1日以降は使えなくなります。フリーランス新法でも公正取引委員会のQ&A(Q78)で同様に、合意の有無にかかわらず振込手数料の差引きは報酬の減額として問題になると明記されています。実際に振込手数料を差し引く運用をしている場合は、この施行日を境に見直しが必要です。
もめないための決め方|新規取引の最初にやること
法律の原則と実務慣行がズレている以上、「どちらが正しいか」を主張し合っても取引はうまく回りません。実務でもめないためにやることは3つです。
- 契約・発注時点で決める。 見積書や発注書の段階で「振込手数料は貴社(または弊社)負担とします」の一文を入れ、口頭ではなく書面(メール可)で残す
- 請求書にも同じ文言を毎回入れる。 一度合意しても、請求書に書いていないと「今回は忘れていた」というすれ違いが起きる。テンプレートに固定文言として組み込んでおく
- 新規取引先には、この点を最初の請求書を出す前に確認する。 「振込手数料はどちらでご負担いただく形にしましょうか」と一言添えるだけで、その後の請求書作成が迷わずに済む
請求書に入れる文言の例は次の通りです。ただし「受注者負担で運用する場合」の文言が使えるのは、下請法(取適法)・フリーランス新法の対象にならない取引(相手が中小受託事業者・特定受託事業者にあたらない取引)に限られます。対象取引では、2026年1月1日以降は合意の有無にかかわらず受注者負担が違反になるため、この文言自体を使えません。
- 受注者負担で運用する場合(対象外取引のみ):「恐れ入りますが、振込手数料は貴社にてご負担くださいますようお願い申し上げます」
- 発注者負担で運用する場合(民法の原則通り。対象取引でも常に可能):特に一文を入れなくても法律上は発注者負担だが、明記するなら「振込手数料は弊社(発注者)にて負担いたします」
すでに手数料を引かれて振り込まれていたら
請求金額より振込額が少なく、差額が振込手数料に相当する場合は、次の順番で確認してください。
- 相手が下請法(取適法)・フリーランス新法の対象となる規模の会社かどうかを確認する。 対象取引であれば、2026年1月1日以降は合意の有無にかかわらず振込手数料の差引き自体が違反になるため、見積書・発注書に合意が書いてあっても差し引かれた分はそのまま代金の減額にあたる。対象外(双方に民法485条だけが適用される取引)であれば、見積書・発注書・過去のやり取りに残っている合意の内容に従う
- 差し引かれた金額の根拠(実際の振込手数料額)を確認する。 民法485条だけが適用される取引で合意がある場合や、対象取引で受注者側の都合による振込先変更で生じた増額分だけを差し引いている場合は、その実費が根拠になっているかを確認する。一律で数百円を差し引く運用になっていて実際の手数料より高い場合、その差額は代金の減額にあたる可能性がある
- 対象取引であれば、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口(取引かけこみ寺。2026年1月1日に「下請かけこみ寺」から改称、フリーダイヤル0120-418-618)に相談できる
- まずは取引先に直接、根拠を確認する連絡から始める。 いきなり法律違反を主張するのではなく、「振込手数料について、事前に合意した認識がなかったので確認させてください」と事実確認から入る方が、その後の取引関係を壊さずに済む
振込手数料の負担を確認する文例
新規取引先が決まったら、最初の見積書・発注書を出す前に、次のような一文をメールで送っておくと、後から「言った言わない」にならずに済みます。件名から結びまで、そのままコピーして使える形にしています。
件名:振込手数料のご負担について(確認)
〇〇株式会社
〇〇様
お世話になっております。
〇〇(自分の屋号・会社名)の〇〇です。
このたびはお取引のお話をいただき、誠にありがとうございます。
請求書を発行するにあたり、1点確認させてください。
お振込の際に発生する振込手数料は、貴社・弊社どちらのご負担とするか、
あらかじめ決めさせていただければと思います。
法律上は特に取り決めがない場合、お支払いいただく側(貴社)のご負担が
原則となりますが(民法485条)、実務では受注者側で負担する運用も
広く行われているため、貴社の通常のご対応方法を教えていただけますと幸いです。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
〇〇(署名)
このメールへの返信を残しておけば、それ自体が「書面での合意」の記録になります。下請法(取適法)・フリーランス新法の対象取引であっても、あとで振込手数料の扱いをめぐって確認が必要になったときの根拠として使えます。
次にやること
今使っている請求書テンプレートを開き、振込手数料の負担について書いてあるかを確認してください。 書いていなければ、次の請求書を出す前に一文を追加し、取引先に一度確認を取ってください。ここを曖昧にしたまま取引を続けると、差額のすれ違いが毎月・毎取引先ごとに積み重なっていきます。
出典(2026年9月12日調査)
- 民法(明治二十九年法律第八十九号) - e-Gov法令検索(第485条「弁済の費用」の条文を確認)
- No.6625 適格請求書等の記載事項 - 国税庁(適格請求書に必要な記載項目が6つであること、各項目の内容を確認)
- トリテキ法の確認ポイント-代金編- - 公正取引委員会(2026年1月1日の取適法施行後は、合意の有無にかかわらず振込手数料を中小受託事業者に負担させ代金から差し引くことが一律「減額」に該当し違反となる旨を確認)
- フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組 Q&A - 公正取引委員会(Q78で、合意の有無にかかわらず報酬から振込手数料を差し引くことが報酬の減額に該当する旨、例外は振込先変更による増額分のみである旨を確認)
- 取引かけこみ寺事業 - 公益財団法人全国中小企業振興機関協会(相談フリーダイヤル0120-418-618と、2026年1月1日に「下請かけこみ寺」から「取引かけこみ寺」へ改称した時期を確認)